<The footsteps of the dragon. 〜あなたに内緒のはなし〜 >

 

 

 

 

 

ドォンと派手な着地音が聞こえたので何事かと外を覗いてみれば、久々に見る
顔ぶれが揃っていた。
「ダイ、それにポップも!どうしたんだ?」
「クロコダインのおっさん、久し振り!!」
「元気だった!?」
最後に会ったのは破邪の洞窟に潜り込む前に挨拶に寄った時だったので、もう半年ほど
前になるだろうか。
相変わらずの風格で、かつての獣王はデルムリン島に滞在していた。
「タイミングが悪かったな、ヒュンケルはパプニカの姫に呼び出されて
 此処を空けているぞ」
「うん、知ってるよ」
「だから今、此処に来たんだ」
クロコダインの言葉に2人はあっさりと頷いて返す。
それに不思議そうな表情を浮かべて、クロコダインは首を傾げた。
「わざわざ留守の時を狙って来たのか?」
「ああそうさ、ちょいとアイツには聞かせたくねぇ話をするもんでな」
「ふむ……オレにか?」
「そうだよ」
こくこくと首を縦に振りながら言ってくるダイとポップの頭を何となく撫でてやりながら
クロコダインはとりあえず中に入れと2人を家の中へと促した。
もともと雨風を凌げれば良いという理由で建てた木造の掘っ立て小屋だが、
人間のヒュンケルも寝食を共にしているので、それなりの生活機能は整っている。
「あっ、オレ、じいちゃんのトコロに顔出して、ついでにお茶もらってくるね!」
ダイが思いついたようにぱっと表情を明るくさせてそこを飛び出すと、何を思ったか
幼竜もそれについて羽ばたいていった。
残されたのは、クロコダインとポップだけだ。
「……話というのは?」
「そうだなァ……わざわざヒュンケルのいねぇ時に来たんだ。
 アイツにはくれぐれも内緒にしといてくれよ?」
「そんなに重要な話なのか」
「ああそうさ、なんたってオレはこれからアンタを口説き落とすんだからな」
「………なに?」
ポップの言っている言葉の意味が上手く汲み取れなくて、クロコダインは訝しげな
表情を浮かべた。
正確に言えば、言葉の意味そのものは分かる。
だが恐らくはポップの事だ、そのまま鵜呑みにして良いものでもあるまい。
「ポップ……お前はまた何か企んでいるな?」
「またって何だよ!人聞きの悪ィこと言うな!!」
「そうか……自覚が無かったか」
「おい!!」
やれやれと吐息を零しながら言うクロコダインに些か気を害したようなツッコミを
ポップが入れて、話を元に戻すためにコホンと咳払いを一度零す。
「まどろっこしいのは嫌いだからな、単刀直入に言うぜ。
 おっさん、オレ達と一緒に魔界に行ってくれる気はねぇか?」
「なんだ、そんな事か…………って、何ッ!?魔界だとッ!?」
「おっさん反応鈍い。トシか?」
「失礼な事を言うな!
 大体、お前達が一体魔界に何の用があって…」
「冥竜王を倒しに行くんだ」
「………。」
今度こそ言葉を失ったクロコダインの頬を一筋の汗が流れる。
冥竜王といえば、魔界に属する者なら誰でも知っている名前だ。
バーンと肩を並べるもう一人の魔王。それが冥竜王ヴェルザーである。
「倒しに行くって言っても、オレとダイだけだと戦力に不安があるからな。
 とはいえ……マァムやヒュンケルには頼めねぇし……。
 人間を、あんなトコロに連れては行けねぇから。
 ヒュンケルがいない時を狙ったのもそのためなんだ。
 アイツなら、話を聞いたら行くって言って聞かねーだろうしさ」
ああ見えて人一倍他人を気にかける男だから、ダイやポップが行くというのなら
弟弟子が心配だの何だのと理由をつけてついて来るに決まっている。
確かにそれは、クロコダインにも簡単に想像はついた。
「それは分かるが……何だって今、冥竜王を倒そうと思うんだ?」
至極尤もな疑問だろう。
冥竜王は今、精霊と神の封印を受けて魔界に封じ込まれている。
この状態であれば、地上にとって何ら脅威とは成り得ない。
わざわざ倒しに行く必要性が、クロコダインには感じられないのだ。
だが、ポップは肩を竦めて困ったように笑うだけだった。
「……ダイは、反対しなかったのか?」
「そりゃもう反対も反対、大反対だよ」
「ならば…」
「でも、オレが説得した」
ピースサインを出して得意げに言うポップの姿に、クロコダインはただただ
呆れるのみだ。
「どこまでおっさんに詳しい話をすれば良いのか分かんねぇんだよな。
 なんか全部話したら、言っちゃいけねぇ事まで言っちまいそうでよ。
 けど……これは、どうしても必要なことなんだ。
 オレ達が……オレとダイが、この先も生き続けるために」
ポップの目を真っ直ぐに見詰めると、力強い両の瞳が見返してくる。
それだけで、クロコダインにとっては十分だった。
彼が信用するに値する相手である事は、今まで培ってきた経験で分かっているし、
そんな彼が自分を必要としてくれるのであれば。
「……分かった。
 オレで、どこまで力になれるかは分からんがな」
「何言ってんだよ!おっさんが居れば百人力さ!!」
「よく言うな、今やオレなどより余程強いクセに」
「そんなことねぇさ、それに……おっさんの本領は魔界に降りてこそ、だろ?」
「ポップ……お前、」
片目を瞑って人差し指を振るポップに、クロコダインはそれ以上何も言えなかった。
彼は、一体どこまでを知っているというのか。
魔物の中には、瘴気を糧にする者がいる。
そういう者達は、地上などの清浄な気がある所では実際の力量の半分も出せない。
そしてクロコダインも、その内の一人だ。
瘴気が無くては生きていけないわけではないし、戦えないわけでもないが、
やはりそれがある場所とそうでない場所では出せる力が全く違う。
一応はこれでも魔王軍の一部隊を率いていた長なのだ。
「………ヒュンケルが怒るだろうな」
「まぁな、だから秘密にしといて欲しいわけよ、アイツうるせぇから」
げんなりとした表情で言うポップに、クロコダインから豪快な笑みが零れ出た。
また彼らの力になれるというのであれば、自分に迷いは無い。
「しかしオレだけというのも……些か心もとないな」
「うーん…」
「魔界をあまり甘くみない方が良いぞ」
「そっかぁ……そうだよな、じゃあやっぱアイツにも声かけるか?」
「アイツ?」
「ダイに頼んでもらって、もうラーハルトは確保してんだよ。
 どうしようか迷ってたんだけど……ヒムにも頼もうかなって」
「ああ、いや、しかし……」
「そうなんだよ、あのウルセーのがなぁ…」
口ごもるクロコダインにポップも頷く。
戦力としてヒムが欲しいのは山々なのだが、問題は彼が所属する遊撃隊の隊長だ。
彼がそうすんなりと頷いてくれるものかどうか。
「オレ、あいつ苦手なんだよなァ……どーも嫌われてるような気がすんだよ」
「ならばオレから話してみるか?」
「えッ、おっさんが!?」
テーブルに突っ伏していたポップががばりと顔を上げて、期待に満ちた目を
クロコダインへ向ける。
そこまであからさまに期待を向けられると困ってしまうのだが、本当に魔界へ
行くというのであれば、少しでも戦力が欲しいと思うのはクロコダインも同じだ。
「どこまで説得できるか分からんがな」
「ありがてぇ!恩に着るぜ、おっさん!!」
クロコダインの大きな手を握り締め、ポップは嬉しそうにぶんぶんと何度も振る。
ダイがお茶を載せたお盆を手にひょこりと顔を出したのは、そんな折だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お茶を手にテーブルを囲んで暫く談笑し、夕暮れ時になってダイとポップは
一旦ランカークスへ帰ると言って島を出た。
その直前、ダイがブラスに挨拶してくると姿を消した合間に、クロコダインは
再びポップへと声をかける。
蒸し返すつもりはないが、どうしても確かめておきたい事があったのだ。
「ポップ、さっきの話だが…」
「ああ、魔界の件か?」
「そうだ。お前は魔界の知識を持っていると判断して良いのか?」
「んー……まぁ、ある程度はな。
 勉強不足で乗り込んで生き倒れになるのもマズイだろ?」
おどけたように答えたポップに頷いて、ならば、とクロコダインは口を開く。

 

「では、冥竜王を倒せばどうなるかというのも、知っていると思って良いんだな?」

「…………。」

 

クロコダインの問いに、ポップは急に真剣な表情で見据えてきた。
その目に見覚えがあって、クロコダインは僅かに息を呑む。
これは、覚悟を決めた時の目だ。
「分かってる。それでも、オレは前に進む」
「……ダイは知ってるのか?」
「いや………けど、いずれオレからちゃんと話すよ。
 あ、おっさんも……もし、それが嫌だったら……」
「何を言うか。
 オレはもともとあっちの生まれだ、故郷へ帰るに過ぎん」
「……そう言ってくれると気がラクだよ」
ふと、遠慮がちな笑みを覗かせてポップが言う。
何故だか、それが何かを諦めているような気がした。
だが、敢えてそのことについては言及せず、少しだけ会話の方向を変える。
「これからオレはどうすれば良いんだ?」
「そうだなぁ……とりあえずチウを説得してヒムを確保しといてくれよ。
 向こうへ渡る道には大体の目星をつけてあるから、オレとダイはそれを
 確認してくる。
 渡れそうだと確認したら、もっかい迎えに来るから」
「そうか………了解した」
こくりと頷いて返すと、ポップの肩からやや緊張が抜けたようだった。
それに僅かな安堵を感じていると、少し離れた所からダイが手を振りながら
駆けてくる。
「お待たせ!いつでも良いよ!!」
「よっしゃ、そんじゃ行くかな。
 後は頼んだぜ、おっさん」
「またね、クロコダイン!」
「ああ、またな」
ポップとダイの身体を瞬間移動呪文の波動が覆っていく。
そうして空の彼方へ飛んでいくのを見送りながら、クロコダインはこれから先の事へと
思いを馳せていた。
また、厳しい戦いが始まるのだ。
しかもかつての大戦より遥かに少ない戦力で。
「まぁ……どうにかなるだろう」
これまでだって、どうにかしてきたのだ。
少し楽観的にも思える考えに、まるでポップの性格が感染したようだなと一人、笑う。
2人が去ったのとは別の方向から移動呪文の力を感じて、クロコダインは顔を上げた。
どうやら、キメラの翼を使ってヒュンケルが戻ってきたようだ。

 

「むしろ、こっちの方が大変そうだな」

 

いつまで隠し通せるだろうか。
そう考えてクロコダインは困ったような吐息を零しながら、ヒュンケルを迎えるために
踵を返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

<終>

 

 

 

 

 

クロコダインが仲間になった!!(笑)

そんなワケで魔界編へのフラグは着々と。

おっさんは、魔界でのナビゲート役みたいなカンジにしたいです。

この顔ぶれの中では一番詳しいと思うし。

魔界では超頼りになるおっさんにしたい!!(笑)