<The footsteps of the dragon. 〜王家の食卓〜 >
「う〜、退屈ッ!!」
ティーセットの置かれたテーブルの上に突っ伏して、レオナはそう声を上げた。
今は執務から離れた僅かな休憩時間、だが周りには誰もいない。
ダイとポップは朝から何処かへ出かけてしまったようだった。
一人でお茶を飲んでいても退屈なだけだ。
見渡す限り色とりどりの花々で埋められた庭園にあるテーブルで、一人。
「何か面白いことないかしらァ〜」
突っ伏したままで傍にあった皿からクッキーを一枚手にして、ひと齧り。
ふいに頭上を影が覆って、レオナは身を起こした。
「あら、貴方は……」
バサリと小さな翼をはためかせて飛んでいるのは、ダイとポップが連れている
幼い竜だ。
最初はペットかと思ったのだが、どうやらそういうわけでもないらしい。
本当のことが知りたくて2人に詰め寄ったこともあったが、何故だが何でも教えてくれる
2人がこの件に関してだけは頑なに口を閉ざしていた。
何か、秘密があるのだろう。
「こっち、いらっしゃいな。
一人でいても退屈なのよ」
上空を舞う竜に声をかけてレオナが手招きをすると、それに気づいたのか幼竜は
ひらりと身を翻して舞い降りてきた。
レオナの向かいにある椅子の背凭れに落ち着くと、じっと正面のレオナを見つめる。
なんて、綺麗な目なんだろう。
改めて間近で見ると、そんな風に感じてしまう。
どうやらダイやポップはこの竜と意思の疎通ができているらしいのだが、自分には
残念ながら何を言いたいのか、言っているのか、全く分からない。
けれど自分の呼びかけに応えてくれたということは、恐らく自分はこの竜に
嫌われてはいないということなのだろう。
「ダイ君もポップ君も何処かに行っちゃったし、みんな仕事で忙しそうで、
正直退屈していたのよ。
ちょっとだけ付き合ってくれるかしら?」
そう竜に話しかければ、少しの間迷うようにしていた竜がそこから離れ、
レオナの傍まで飛んできてくれたのだ。
慌てて腕を差し出せば、そこに足を置き翼を休める。
何となく嬉しくなって、レオナはふふっと笑みを零した。
「ねえあなた、人間の食べ物って食べられるのかしら?」
何気なく思ったことを口にして、レオナはクッキーを一枚手に取ると
竜の口元に持っていった。
もし気に入らなかったりするのなら、顔を背けるだろう。
その状態で暫く待っていると、まじまじとそのクッキーを見つめた後に
パクリと一口で。
「キャッ、手まで食べられるかと思った!!」
反射的に手を引っ込めたが、どうやらクッキーは竜の口の中に収まったようだ。
暫く咀嚼を繰り返し、竜は何やら言いたげな目でレオナを見る。
もしかして、これは。
「……もう一枚?」
自分の言葉が通じたのだろうか、こくりと首を縦に振る竜へ苦笑を零して、
レオナはもう一枚皿からクッキーを手に取ると竜へ差し出した。
「気に入ってもらえたみたいで何よりだわ。
このまま一緒にお茶でもしましょうか」
腕からテーブルの上へと移動した竜を頬杖をついて眺め、レオナはくすりと
笑顔を浮かべたのだった。
『……人間とは良いものですね』
「なに、なんなのイキナリ」
『あんな美味しいものをいつも食べているのですか』
「……はい?」
憮然とした声で言うマザードラゴンに、訝しげな表情でポップとダイが返す。
元々神の眷属であるこの竜は、食べるという行為をしなくても生きていける。
それを知っていたからこそ、2人は特にマザーに食べ物を与えるということを
しなかった。
もちろん、マザー自身から食べてみたいという言葉を聞いたこともない。
『くっきー、というのですか?
今日、パプニカの姫に頂いたのですが…アレは非常に美味でしたね。
できたらまた食べたいものです』
「おおおい姫さん、オレらのいない間に何やってんだー!?」
「レオナったら……ていうかマザーも餌付けされないでよ!
一応神様なんだから!!」
『また姫とお茶をする時には私も連れていくのですよ?』
「食う気まんまんじゃねーか……」
「どうすんの、ポップ」
「……も、好きにさせたらイイんじゃねェ…?」
脱力感を隠しもせずに、ポップはげんなりとそう零すだけだった。
<終>
レオナとマザードラゴン。
ダイとポップの知らない間に交流を深めていると
いいなぁ、なんて思って。