「あ、レオナ!」
「ダイ君、どうしたの?」
「あのさ、あのさ、どっかでポップ見なかった!?」
少し急ぎ足で問いかけてくる少年に、またか、とレオナが苦笑を浮かべた。
<The footsteps of the dragon. 〜キミとあるこう〜 >
ポップがダイを連れ帰ってから数日、彼らはまだパプニカに滞在している。
ダイの帰還は仲間達に知らされ、まるで日替わりのように城へ訪れ再会を
喜び合っていた。
そんな少し慌ただしい日々の合間、よく城内で見られるのはダイがポップを
捜している姿だ。
元々の性格が奔放な彼は、よくフラリと一人で姿を消す。
とはいえ居場所は、中庭に面したテラスであったり、庭園の中だったり、
裏の森の木の上であったり、書庫に篭っていたりと、さほど遠くへ行っている
わけではなく、捜していればその内見つかるような範囲なのだが。
「さて……今日は何処に居るのかしらね。
まだ一度も会ってないけど……」
「そっかァ……」
「あ、でも、そういう日はね、」
ふふふ、と小さく笑みを零すレオナに、ダイはきょとんとした目を向けた。
昔から、勉強は好きじゃないけど本は好きだった。
数式の書かれた教本は苦手だが、伝記や童話の類は進んで読んだ。
パプニカの城の書庫は、少し古びた紙の匂いと昔のインクの匂いと、
自分の知らない話を教えてくれる本があって、ポップの中では
1、2を争うほどのお気に入りの場所だ。
どちらかといえば賑やかな方が好きなのだが、自分1人しかいない場所なら
静かなのも嫌ではないし、何より落ち着く。
ぱらり、と自分の指がページを捲る音だけが響く空間は、精神が鎮まり
途方もない集中力を生む。
傍では、小さな幼竜の姿をした神様の使いが、窓から入り込む木漏れ日を浴びて
うつらうつらとしている。
悪くない。いや、むしろ好きな環境だ。
だが。
「ポップ、見−っけ!!」
バターン!と騒々しい音を立ててドアを全開にして飛び込んできた親友に、
ポップの眉間にひとつ、皺が刻まれた。
ちなみに傍にいた竜は、今の音で飛び起きている。
『な…何事ですか……!?』
「ダイ……お前、此処は書庫なんだからもうちっと静かにだなァ……」
「本は後回しにしてさ、遊びに行こうよポップ!」
「……おめぇ、オレの話聞いてるか…?」
「だって、一人じゃ退屈なんだよ!
レオナはなんだか忙しそうにしてるし……ね?」
バタバタと駆け足でやってきてそう言い募るダイの眉間にビシリと一発。
「いたッ!!」
「人の読書の邪魔した罰だ」
軽くデコピンを放って、ポップは読みかけの本を脇に抱えて立ち上がった。
ダイが此処まで来てしまったのなら、どれだけ追い払ってもしつこく食い下がって
くる事は目に見えている。
見えているどころか、もう何度も経験済みだ。
「しゃーねェな、何処行くんだよ?」
「さっきレオナから聞いたんだけど、この城の裏山に火炎鳥の巣があるんだって!
見に行ってみようよ!!」
「卵あっためてる最中だったら襲われんじゃねーか…?」
「大丈夫だよ、刺激しないように近付いたらさ」
行こう行こう早く行こうとせっついてくるダイに、苦笑を浮かべるとポップは頷く。
どっちにしたって自分にもう拒否権はないのだ。
こうやって振り回されるのも、もう慣れた。
「アンタも一緒に行くかい?」
窓辺に身を落ち着けている竜にポップが声をかけると、頭を左右に振って留守番の意を
告げられる。
『……私はもう暫く、此処で温もりを堪能する事にします。
お二人で行ってらっしゃい』
「それじゃ、行って来るね!!」
こくりと首を縦に振って、ダイがヒラヒラと手を振るとポップの腕を引いた。
「んーな急がなくったって、火炎鳥は逃げたりしねーよ!」
「わかんないよ!だって空飛ぶんだから!!」
「どういう理屈だよ!!」
わあわあと言い合いながら消えていく2つの背中を見送ると、竜はひとつ欠伸を
漏らして、あたたかな窓辺に寝そべったのだった。
『まったく………騒々しいですね』
しかしポップは自身で気づいていないのだろう。
ダイ独特の軽快な足音が近づいてきた時、とても柔らかく微笑んだことを。
自分の近くに戻ってきたダイは、暇があるとよくポップの傍に身を寄せるようになった。
まるで、離れていた時間を埋めるかのように。
ずっと離れ離れになっていた家族に会った後のように、一緒にいる時間を大切に
するようになったのだ。
そしてポップが書庫に篭もる時は、大概が一人になりたい時だったりする。
レオナはそれを知っているから、これはちょっとした意地悪だ。
「ダイ君、ポップ君、おでかけ?」
「うんッ、火炎鳥を見てくるよ!!」
「ダイにあんまり余計なこと吹き込むなよ、姫さんよォ〜!!」
廊下ですれ違った時に問えば、元気な溌剌とした声と些かくたびれたような声が
続けて自分に投げかけられてきたので、思わず笑ってしまった。
それでも、彼らは共に歩んでいくのだろう。
「ふふ、行ってらっしゃい。夕飯までには帰ってきてね」
はぁい、と少し間延びした返事が2つ。
この距離で、そんな2人の姿を見られるだけで、自分はこんなに嬉しいのだ。
<終>
ダイの成長が止まってると知った時点で
レオナはダイと一緒になることを諦めてます。(笑)
でも、それでもダイの一番近くにいる女の子は自分じゃないと!
……みたいな具合でダイもポップも手元に置きたがる姫さまで。
ダイとは単に一緒にいたいだけなんだけど、ポップに対しては
きっと色々フクザツなはず。
とはいえ、一番大きいのは「ほっとくと無茶するから目が離せない」
っていう気持ちだと思いますが。
ちなみに姫さま19歳、ポップ15歳、ダイ12〜13歳ぐらいの
外見年齢で。ちょっとずつダイも成長中。(笑)