<The footsteps of the dragon. 〜お騒がせ師弟〜 >

 

 

 

 

 

「……てなワケで、協力してもらっといてナンだけどよ、
 この魔法は使わない方が良い」
「なるほどな」
ポップの師である大魔道士の住居になっている洞窟。
その片隅で一枚の紙切れを間に挟み、ポップとマトリフは向かい合って座っていた。
紙切れに書かれていたのは、以前に2人で組み上げた魔法陣だ。
これがあったから、ポップは竜の神に出会う事ができたし、最終的にダイとも
再会することができた。
けれど、本来この魔法は人間の魔力容量では扱いきれないもの。
ダイを連れて戻ってきたポップの出した結論は、そういったものだった。
「しかしまぁ、一応は天界の入り口近くまでは行けたって事か」
「行けたっちゃあ行けたけど……ありゃ半分死んだようなモンだぜ?
 ていうか戻ってきた時むしろ死にかけてたみてーだしなァ、オレ」
「てことは……魔法自体の発動は可能ってことだ」
「まぁ、確かにそうだわな」
マトリフの言葉にうんうんと頷いて返すが、やっぱりこれを完成品とは
呼べないかもしれない。
行く度に死にかけていたら割に合わないし、そもそも死にかけで済んだのは
それを行ったのが自分だったからなのかもしれないのだ。
竜の血を受けて生まれ変わった自分だからこそ。
「って……なぁんかアヤシイよなァ……」
「なにが」
「師匠、なんか企んでんだろ?」
「ケッ、人聞きの悪ィこと言うんじゃねぇ」
フフンと鼻で笑って、マトリフは机に置かれた紙切れを手に取ると懐の中に
しまいこむ。
実際に使いこなせるであろう人間がいないのなら、魔法としては存在できない。
むしろ生命の危機に陥るようなものであれば禁呪と呼んでも過言ではないシロモノだ。
だが、世の中にはいるのだ。
自分が使えるわけでもないのに、そういった類の呪文や魔法道具を集めて回る、
いわゆるコレクターと呼ばれるモノ好き達が。
とはいえ、己の力量も弁えず禁呪を使って死にかけてしまう、もしくは本当に
死んでしまうような輩をマトリフは案じるような人間ではない。

 

「オレはちぃっとコイツを使って金儲けしてやろうと思ってるだけだ」

 

懐に収めた紙切れを服の上から手で押さえてニマリと笑う師の姿に、
ポップは一瞬立ち眩みを覚えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表で待っていろと言ったのだが、どうやら待ちくたびれたらしいダイが
ひょこりと顔を覗かせた。
「ねえポップ、まだかかる?」
「おうダイ、もうちっと待っててくれな!
 今ちょっと大事なトコロなんだよ!!」
じりじりと間合いを詰めて睨み合う師弟の姿を怪訝そうに見遣って、ダイがこくりと
首を傾げた。
「……何やってんの、ポップ?」
「師匠に取られた魔法陣を取り返そうとしてんだよ」
「バカ野郎が、コイツはオレも一緒に考えてやったモンだろ。
 だったらオレが好きに使う権利もあるはずじゃねぇか」
「金儲けに使ってイイとは言ってねェェェ!!」
「だァから、てめぇに指図される謂れはねぇってんだよ」
「半分はオレが考えたんだろうが!!
 だったらオレの意見だって通してもらうべきだ!!」
「………ったく、どこまでも平行線だな、こりゃ」
「こうなったら……」
マトリフは手にヒャドを、ポップは手にメラを。
これから何が起こるのかを想像したダイは、大慌てでそこから飛びのいた。
途端に始まる攻撃魔法の応酬に、うひゃあと声を上げて被害に合わないように
ダイは洞窟から転がり出る。
あんな狭い空間で、初級の魔法とはいえ仮にも大魔道士を名乗る2人が
本気で撃ち合いなんぞを始めては、大惨事は免れないだろう。
けれど、とダイは洞窟の入り口から少し離れたところに腰を下ろして考える。
勝ち目が無いのが分かってて、どうしてポップはああもマトリフに食って
かかっているのだろうか。
確かに魔法力や技術ならポップは既にマトリフを超えている。
けれど、彼らが「小賢しい頭」と言う、いわゆる気転という点においては
明らかにマトリフの経験値の方が圧倒的に上だ。

 

(勝てるわけないのになぁ………)

 

地面の上にゴロンと横になって、大きな欠伸をひとつ。
暇を持て余したダイは、昼寝でもするかとそこで目を閉じた。
激しい轟音とポップの悲鳴が聞こえてきたのは、そのもう少し後のこと。

 

 

 

 

 

 

 

<終>

 

 

 

 

ポップと師匠。

師匠には死ぬまで勝てないままだといい。