なんだろう、あの人達は。
倭国でも隋でも見た事のないような変な衣装を着て、上から目線というには
やたら高過ぎる位置から見下ろしてくる。
なんだろう、ホント。
太子の知り合いだろうか?
「やいやい!!なんだお前らーー!!
そんなたっかいトコロにいないで降りて来んしゃい!!」
僕の目の前で上を向きながら拳を振りかざしてそう怒鳴っているところを見ると、
どうやら太子の知り合いでは無いらしい。
ちなみに僕の知り合いでもない。
太子の言葉に顔を見合わせた2人だが、その内の一人、黒髪の方がうんとひとつ
頷いてそれに答える。
「じゃあ、まぁ、太子もそう言ってる事だし?」
その声は、既に頭上から聞こえるものでは無かった。
いたのはすぐ僕の目の前、手を伸ばせば簡単に触れる位置。
「鬼男くーん、こりゃ減点モノだよ。
余計なのが混じってる」
余計なのって……僕のことだろうか?
真っ直ぐに目の前の男を見つめれば、ふーん、と声を漏らしながら
ジロジロと上から下まで、まるで品定めでもするかのように見つめてきた。
なんだこの失礼な人。
「仕方無いでしょ、太子だけなんて無茶言うから!」
「その無茶をどうにかするのが鬼男くんの仕事でしょー?」
「違うわ!!
勝手に人の業務内容変えないで下さい!!」
気の済むまで眺めまわしてたと思ったら、今度は僕の顎を掴んでぐいと
引き寄せる。
目の前に真っ黒な瞳があって、何故だか視線が外せなかった。
「………太子のお知り合い、ですか?」
「へぇ、オレの目を見てまだ話せる余裕があるんだ?
こりゃよっぽど精神が強いか、もしくはよっぽどの鈍感だね」
「太子なら鈍感な方でしょうけど」
「自分は違います、って?」
僕の言葉にくすくすと愉快そうな忍び笑いを零す。
どうでもいいけどそろそろ手を離して欲しい。
と、その手がふいに横から伸びて来た手にパシンとはたかれて、僕の顎から
離れていく。
漸く自由を得て一歩後ろに下がった僕の目の前に、見慣れた青ジャージが
割り込んできた。
「ええい、妹子から離れろコノヤロー!!」
「おっとっと、悪戯が過ぎちゃったかな?
ごめんごめん太子、気を悪くさせたなら謝るよ」
「だいたい、何だお前!ていうか誰だお前!?」
「誰だって………………え?」
ビシリと太子に指を差された相手が、キョトンとした目を向けた後に
途方に暮れたように頭上を振り仰いだ。
「あれ、まさか………ねえ鬼男くん、これってもしかして……」
「綺麗サッパリ忘れられてるんじゃないですか?」
「やっぱりーーー!?」
ショックを隠しきれない様子で、黒髪の人ががくりとその場に崩れ落ちた。
太子に覚えてて貰えなかったことがそんなにショックだったんだろうか。
僕なら諸手上げて万歳するんだけど。
「ねえ太子、本当に知り合いじゃないんですか?」
「知らん!!」
「でも…見てて可哀想なぐらいショック受けてますよ、相手」
「そんな事言ったって、お前…」
知らないものは知らないと言い張る太子に、相手はとうとうさめざめと
泣きだしてしまった。
どうしよう………相当ウザい。
「まあいいや、それならもっかい自己紹介から始めよう」
泣きだしたと思ったら、ガバリと顔を上げて何事も無かったかのように
黒髪の人は言った。
案外切り替えは早いらしい。
「鬼男くん降りてきなよー」
「はいはい」
「はいは一回!」
「はーい」
「……お前、オレの事上司だと思ってないだろ…?」
「いやまさか、そんな事あるわけないでしょう。
尊敬してるかどうかは置いといて」
「お前……」
一人、ずっと宙から見下ろしていた金髪で褐色の肌の人が、黒髪の言葉で
ふわりと地面へ舞い降りて来た。
いいなぁ、空飛べるって。
いやいやいや、そうじゃなくって。
「じゃ、自己紹介しとくよ。
オレは閻魔。こっちは秘書の鬼男くん。
で、此処は冥府。天国と地獄の境目にある、黄泉の国。
つまりキミ達は此処に居る時点で死んでるってワケだ、オーケー?」
簡潔な自己紹介を聞いて、言われた中身を反芻して。
(………死んで、る?)
頭が真っ白になった。
「ちょ…ちょちょちょ、ちょっと太子!!」
「うわッ!? な、なんだなんだ妹子!?」
ぐいと太子のジャージを引っ張って閻魔と鬼男と名乗った2人から
少し離れたところまで行って、僕達はそこにしゃがみ込んだ。
作戦会議とかいうやつだ。
「え、ちょっと、どういう事ですか、僕達が死んだって…?」
「うーん……嘘じゃ無さそうな気がするんだけどなぁ」
「なんでそんな落ち着いてんですか!!
じゃあ僕達が此処にいるのは、あの津波を受けてそのまま命を落としたって
ことになるんですか?」
「そういう事になるよなぁ。
いやぁ、なんかおかしな世界に来たなと思ってたけど、まさか冥府だったとは。
さすがの摂政もビックリだ。摂政たまげたー」
「ほんっとアンタはこういう時ムカつくぐらい落ち着いてますよね。
順応性高すぎるのもどうかと思うんですけど僕は!」
「いや、だって。
妹子だって不思議だったろ?
海の上にいたのに、目が覚めたら海どころか川さえ見えないトコロに寝ててさ。
それに……妹子は気付かなかった?」
「何がですか?」
「上、見てみんしゃい。
ある筈のものが無いから」
ある筈のもの、そう言われたので言葉通りに僕は空を仰ぐ。
視界は良好だ、気温もジャージ一枚で丁度良い。
けれど、空には。
「太陽が……ない?」
「うん、それで何となく此処は今まで私達が居たトコロとは違う場所なんだって
思ってたんだけど。
まさか黄泉の国とは思わなかったなぁ。
黄泉の国っていったらさ、ほら、三途の川とお花畑が定番だと思ってたから」
「で、どうすんですか」
「どうって?」
「だから!僕達が死んで此処に来たのはまぁ、理解できました。
これから僕らはどうなるんですか!?」
「さあて、ねぇ……」
僕の問いにそう曖昧な言葉を零すと、太子はガリガリと頭を掻きながら立ち上がる。
視線は、閻魔と鬼男の2人に向いて。
「それは、彼らが決めてくれるんじゃない?」
そう呟いた太子は、今まで見た事も無いような表情をしていた。
<続>
これからどうなる!?
…こ、これから考える!!(ヲイ)
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