<ACCIDENT・9>

 

 

 

「治ったーーーーーーーーっっっ!!!!!」
「まだだっつーの」
ウソップが甲板で元気良く叫び、ゾロに後ろから小突かれていた。

 

 

ウソップが怪我をしてから、1週間が経った。
当初は高熱を出して意識をなくしたりする事もあったが、
今は熱自体はすっかり引いている。
やっと、船医のチョッパーから、
「ちょっとなら動いていいよ。でも、走るのはダメ」
とのお言葉。
いそいそと着替えて甲板に飛び出し、ウソップの第一声がコレだ。
「ルフィみてぇな事言いやがって。
 アイツじゃねぇんだから、そんな簡単に治るかよ」
「イヤ、解んねぇぞ?ルフィみたいに肉タップリ食ったら
 治るかもしれねーじゃん」
「その時点で俺はお前を人間とは認めねぇぞ」
「なんだよ、お前だって怪我したら寝て治すクセに」
「怪我は寝たら治るんだ」
「どういう理屈なんだよそりゃ」
他愛の無い会話をして、笑い合う。
なんだかんだ言いつつ、ウソップが動けるようになってゾロも嬉しそうに見えた。

 

 

 

 

「もう少ししたら、街に着くわよ」
ナミが甲板に出てきて言った。
持っていた地図を開く。あと半日もすれば着くという話だった。
「この街には大きな図書館があるの。
 そこであの実の事を調べるわ。
 手がかりが掴めるかどうか解らないけど…」
「俺も行った方がいいか?」
「いいわよ、あんたは大人しくしてなさい」
ウソップが見上げるのを、ナミが首を横に振って苦笑した。
「まぁ…どうしても街に行きたいって言うなら、必然的に
 あいつの面倒を見てもらわなきゃいけないけど」
そう言いながらナミが指差す先にいるのは、言うまでもないが船長その人。
「あんなやかましいの、一緒に連れてなんて行けないからね」
「そうか、解った。ゾロがいるから大丈夫だ」
「俺も入ってんのかよ」
ゾロが半ば呆れたように呟くのに、ウソップは
「何言ってんだよ、どうせついて来るクセに」
行動なんかお見通しだと、ウソップは笑う。
「じゃあ、私はチョッパーとサンジ君連れて行くわ。
 チョッパーなら役に立つし、サンジ君はその実の実物を見たんでしょ?
 来てくれるわよね?チョッパー、サンジ君」
「ああ、いいぞ。俺、図書館って初めてだ」
「ナミさんの頼みなら喜んで!!!!!」
「決まりね」
にっこり笑ってナミが言った。

 

 

 

 

ナミはサンジとチョッパーを連れ、一足先に船を降りた。
ウソップは船室で、簡単に出掛ける準備をしている。
本当はあまり動かない方がいいのだが、ウソップがどうしてもと言うので
ルフィとゾロと3人で行く事になった。
ソロ的に『3人』というのが少し引っかかるらしいが。
「…ウソップの奴、遅ぇなぁ……」
待ちくたびれたのか、ルフィがそう言って退屈そうに欠伸を漏らす。
ゾロが覗きに言って来るといって、船室へ向かって行った。

 

 

「ウソップ?」
ノックもなしでゾロは扉を開ける。
すると、ビックリしたような表情のウソップがいた。
目を丸くしてゾロを見つめている。
「何してるんだ?ルフィも待ちくたびれてるぞ?」
後ろ手に扉を閉めながらゾロが不思議そうに問いかけるが、ウソップは返事をしない。
見つめている目も、離そうとしない。
「……ウソップ?」
不審に思ってもう1度、問うように名前を呼んだ。

 

「…………ゾロ」

 

やっと、ウソップが口を開いた。
そして視線を鞄に戻し、手早く床に散らかしていたものを詰め込んで肩から下げる。
「悪い」
そう短く言って、ウソップはゾロの元へ小走りに駆け寄った。
「全くだ。ナミじゃねぇんだから、準備にあんまり時間かけるなよ」
それに違うんだと呟き、ウソップは船室の扉を開けてゾロを振り返った。
「悪い」
もう1度、ウソップは言った。
どこか自嘲の入り混じった微笑を浮べて。
「今な、お前がわからなかった」
「……え?」
言葉の意味がよく汲み取れず、ゾロはただウソップを見つめる。
「お前が誰なのか、俺が部屋で何してるのか、なんで俺が船の上なんかにいるのか…
 全くわからなかったんだ」
「何だって……?」
思わず、ゾロは耳を疑った。
そして今更ながらに思い出す。ナミが以前、少しずつ記憶が戻っていくのだと言っていた事を。
「まさか…」
「大丈夫。ちゃんと思い出せた。平気だ。
 俺達はこれから、ルフィと一緒に街を見て回るんだろ?」
「あ、ああ…」
ウソップの笑みにほだされたかのように、ゾロも曖昧な頷きを返す。
「ほら、何してんだよ。早く行こうぜ、ルフィが待ってる」
そう言うと、ウソップは甲板に飛び出して行った。
外で、『遅いーー!!』というルフィの叫びが聞こえてくる。
重いため息をついて、ゾロもゆっくりと歩き出した。
手だてがないのだから。今は何もできないのだから。
忘れてしまわない事を祈る事しか。

そう思う事で、ゾロは焦る心を無理矢理押さえ込んだ。

 

 

 

<続>