<ACCIDENT・7>
間近まで迫った船は、ゴーイング・メリー号の比でないぐらい、とても巨大であった。
「……やっぱり、遠くから見てこの船よりでかいって解るぐらいなんだから、
近付きゃあもっとでかいよなぁ…」
ふう、と煙草の煙を吐くと、自嘲するように呟いてサンジは肩を竦める。
「どうするんだ?」
チョッパーがサンジを見上げる。
サンジは煙草を投げ捨てると、不敵な笑みを浮かべる。
「ヤるっきゃないだろ」
それを合図に、乱闘が始まった。
「…一体、何人出てくるんだよっ!!」
得意の足技を繰り広げながらサンジが怒鳴る。
刀を振りながら、ゾロが答える。
「さァな。とにかく出てくるヤツをヤるだけだ!!」
「でも、いい加減片付けてくれないと、このままじゃ向こうの船に移れやしないわよ!」
後ろでナミが文句を言っているのに、チョッパーが笑った。
「とにかく、やっつける。それだけだね」
だが、倒しても倒しても一向に減らない。それどころか、増えていってるような
気さえしてくる。
「…ああっ!!!」
ルフィの横を通り過ぎて、男が一人船内へ突入してくる。
ナミが三節棍で応戦するが、剣で受けとめられると軽く弾き飛ばされた。
「きゃあっ!!」
壁に背中をしたたか打ちつけてナミが悲鳴を上げる。
男はそのまま船内を見回すと、一番豪華に見える扉の向こうに宝があると思ったか、
ナミの部屋向けて階段を一気に駆け上がった。
「おい、ヤベぇぞ、ウソップが!!!」
「解ってる!!」
しかし、こうも人数で押されてしまっていると、どうにも動く事ができない。
ウソップを守りに動けばここの守りは一気に崩れてしまうだろう。
「……ちっ」
軽く舌打ちすると、ゾロは更に勢いをつけて刀を振り下ろした。
「始まったな」
剣の打ち合う音。拳のぶつかる音。男達の咆哮。
それらに耳を澄ましながらウソップはただ嵐が過ぎるのを待ち続けていた。
「…ん?」
何か違う音が混じって、ウソップは不思議そうな顔をした。
誰かこっちに近付いてきている。
仲間だろうか。
外の騒音とは裏腹に、部屋の中はしんと静まり返っている。
突然、その静寂は破られた。
「……ガキがいるじゃねぇか」
「!!!」
ウソップは声にならない悲鳴を上げた。
入ってきたのは見知らぬ男。
敵だと判断するや否や、ウソップは得意のパチンコを構えた。
だが。
「買с≠!!離せ!!!」
男はウソップを捕らえると、ウソップの叫びをものともせずそのまま部屋を出る。
下に降りることはせず、手摺の内側から声を張り上げた。
「聞け!!小僧ども!!!」
その声にルフィ達も、敵の男達も一瞬手を止めそちらを注目する。
その時点で自分の仲間の大半がやられている事を確認し、男は僅かに顔をしかめた。
「コイツを見ろ」
そう言うと、ウソップの喉元に剣の先を近づける。
「ウソップ!!」
ルフィが叫んだ。
「……このガキも仲間のようだな。コイツの命が惜しければ…というヤツだ。
とにかく、武器を持ってる奴は捨てろ」
男の言葉にしばし沈黙した後。
からん。
真っ先に行動したのはゾロだった。
「…これでいいんだろう?」
刀を投げると仕方なさそうに言って両手を上げた。
「しょうがないわね…」
呟いて、ナミも三節棍を放る。
ルフィもチョッパーも戦闘態勢を取るのをやめた。
サンジなんか、煙草に火をつけている。
大人しく降伏するつもりらしい。
ウソップはそれを見て、複雑な心境だった。
5人しかいなくても、勝てる筈だったのだ。
こうなったのは、自分の責任。
せめてこんな姿でさえなければ、自分も共に戦えただろう。
少なくとも、こんな無様な姿を晒すこともなかった筈だ。
だからコレは自分がどうにかするべきトコロなのだ。
ウソップは意を決して、ちらりと男の方を覗き見た。
武器を捨てさせた事で余裕ができたのだろう、男はうっすらと笑みさえ浮べている。
ウソップは、その男の腕に思いきり噛みついた。
「Σ…ってェ!!!!」
瞬間、男の腕が緩んだ隙にウソップはそこから抜け出した。
階段まで走っているヒマはない。
「ゾロ!!!」
手摺を乗り越えながら、ウソップは声を限りに叫んだ。
それにハッとしてゾロが走り出す。
2人が視線を重ねたと同時に、ウソップは手摺から飛び降りた。
「……っの野郎がぁぁっっ!!!」
パアァ………ン
銃声が響き渡る。
子供にしてやられた事が酷くプライドを傷付けたのだろう。
男が懐から銃を取り出して、ウソップに狙いを定めていた。
ゾロめがけて飛び降りたウソップの体がぐらりと揺れる。
「ウソップ!!!」
悲鳴に近い叫びを上げて、ゾロが手を伸ばした。
崩れ落ちるように、ウソップが甲板に叩きつけられる。
当たったのは脇腹のようで、手で押さえている部分から血が溢れ出している。
「大丈夫か!?しっかりしろ!!」
抱き起こすと、ウソップはうっすらと目を開けた。
「……なんて顔してんだよ……」
霞む視界の向こうで、ゾロが端正な顔を歪ませている。
「心配すんなよ。死にゃしねぇって……。
もう迷惑かけねぇから……戦ってこいよ」
そう言ってウソップは血で濡れた手をゾロへ向かって差し伸べた。
真っ青な顔色で、それでも笑顔を作ってみせると、意識が急速に遠のいていく。
「……ああ。チョッパー、ウソップを頼む」
最後に見たものは、そう頷いて刀を手に取ったゾロと、
「ゴムゴムのぉ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
ルフィが腕を最大限に伸ばし、男の胸座を掴んで甲板に叩き付けようとしている所であった。
<続>