<ACCIDENT・5>

 

 

 

夜中、寝苦しくて目が覚めた。
ふと隣を見るとゾロはぐっすりと眠っている。
起こさない様に布団から出ようとすると、ゾロが少し目を開いた。
「……どうした?」
「あ、いや、ちょっと目が覚めてさ…」
「ふ〜ん…?」
目を擦りながらゾロが起き上がる。
「……風にでも当たりにいくか?」
そう言ってゾロが甲板に続くドアを指差す。
それに頷いて、ウソップはハンモックから降りた。

 

 

 

 

「いい風だなぁ…」
昼間は暑いとはいえ、やはり夜となると心地良い風が吹く。
手摺から身を乗り出して海を眺めると、月の光がきらきらと反射している。
「夜の海もいいモンだよなぁ…」
柔らかい風を感じながらゾロの方を向くと、ゾロは真っ直ぐにウソップを見つめている。
いつにない真剣な眼差しに、ウソップは少し緊張した。
「……なぁ」
さっきからずっと黙っていたゾロが、口を開く。
まるで怒られた子供のように、怯えの色を含ませてウソップは身を竦ませた。
「な……何…?」
「お前、怖くないのか?」
「…何が?」
「どんどん、自分が色んなコトを忘れていくってコトにさ」
「怖くなんかないさ。俺は偉大なるキャプテン・ウソップ様だぞ?」
「……どうして我慢するんだ?」
おどけて言うウソップだが、ゾロは視線を緩めようとはしなかった。
「……だっ……て……」
ぽつり、とウソップが呟く。
あの目で見られると、得意の嘘が出てこない。

 

怖くなんかないんだ。

だって、皆いるじゃないか。

どうにかなるって。

 

そんな言葉は、全部かき消された。

 

怖い?

そんなの……

 

「……怖いに…決まってんだろ…。
 だって……みんな、忘れちまうんだぞ…?
 ルフィやナミやサンジやチョッパー。お前のコトだって……、
 怖くないワケ……ないだろーが」
俯いて、今にも消えてしまいそうな小さな声で、ウソップはぽつりぽつりと話す。
口を挟むこともなく、ゾロはただ黙って聞いていた。
「でも……泣いたってどうにもならねぇじゃねぇか。そうだろ?
 この事実が覆せないのなら、いっそ笑ってた方がいいじゃないか。
 泣いたら……皆、心配…するだろう?」
見上げたウソップの頬には大粒の涙が伝っていた。
怖くないハズはなかったのだ。ただ、耐える方法を知っていただけで。
優しく涙を拭ってやってから、ゾロは優しく微笑んだ。
「俺にぐらい、言ってくれてもいいだろうが」
「うん……ゴメン」
泣き笑いの顔を作って、ウソップはへへへと笑った。
その小さくなった体をゾロが優しく抱き締める。
「なぁ……」
「ん?」
「もし…俺がゾロの事忘れちまったら、どうする?」
「思い出させてやるさ。どんな手を使ってでも…な」
「こわ…」
かなり本気の発言だろうゾロの言葉に、ウソップは肩を竦ませる。
「そ、それでも思い出せなかったら、どうする?
 俺はゾロのこと好きだっていうこの気持ちまでなくしちゃうんだぞ?」
「そうだなぁ…」
ゾロはウソップを自分の膝の上に座らせると、空を見上げた。
綺麗な星空。
「また1から始めるさ。で、また俺の事を好きだって思わせてやる」
「大した自信だよなぁ」
呆れ顔でゾロを見ると、ウソップは盛大なため息をつく。
「頼りになるだろ?」
「あ〜ハイハイ。頼りにしてますよ」
自慢気に胸を張るゾロに、ウソップは苦笑いを浮べた。

 

それから2人は他愛の無い話をただ続けていた。
ゆっくりと、夜は更ける。

 

 

 

 

<続>