<ACCIDENT・4>
「うを!!ウメェ!!!」
夕食時。ゾロが倒した鮫をサンジが見事に調理して、本日の夕食は開始された。
ルフィ、ウソップ、チョッパーはものも言わずにただただ目の前の料理をがっついている。
「もらいっっ!!!」
「あっ!!ルフィ、それは俺んだ!!!」
「違うよウソップ、ホントは俺の!!」
ウソップが口に入れたものを飛ばしながら言うと、すかさずチョッパーが叫ぶ。
「……アイツら、本当は俺のだって知らねぇんだろうなぁ」
酒を呑みながら、半ば呆れた表情でゾロはため息をついた。
サンジは自分が作ったものを懸命に食す様がただ純粋に嬉しいのか、ニコニコしながら眺めている。
「ウルセェ!!ゴムゴムのぉ〜〜〜〜〜……」
テーブル上にルフィはゴミの両腕をいっぱいいっぱいに広げる。
「ひとりじめ!!!!!」
ガバっと料理をめいっぱい掴むと、1度口の中に突っ込んだ。
「あ〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
ウソップとチョッパーは驚愕の表情でルフィを見つめる。
もぐもぐもぐ。ごっくん。
「くは〜〜〜〜、美味かった!!」
満足そうに腹をさするルフィ。
「……サンジぃ〜〜〜〜〜〜〜」
涙を流しながら訴えるウソップとチョッパー。
こんな展開を予測していたのか、サンジはニヤリと笑うと次々と皿を取り出す。
「Σうををを〜〜〜〜〜!!!サンジ好きだーーー!!!!!」
ナイフとフォークをかちゃかちゃ鳴らして、ウソップとチョッパーがまた臨戦体制を取る。
まだまだ食事は続投の様だ。
「……さて、そろそろいいかしら」
あらかた食事が片付いたのを見ると、ナミはとん、とテーブルに手をついた。
空になった皿は全て引かれ、今テーブルの上にはデザートの皿とそれぞれが手にしている
ドリンクの入ったコップしかない。
「ウソップの食べた実について、ちょっとしたものを見つけたわ」
ゴクリと、皆が息を呑むのが解る。
「…ただ、正式な文献じゃなくって、作者のちょっとした注釈でしかなかったから、
その実の名前は解らないわ。書いてあった実の外観と、ウソップの話で聞いたものとが
一致したからっていうだけの、私の判断よ」
そう言うと、ナミはテーブルの上に一冊の分厚い本を置いた。
問題のページなのだろうか、栞が挟まっている。
「ちゃんと説明しても解ってくれない人間が何人かいるから、簡単に説明するけど」
誰とは言わなかったが、ルフィとゾロの顔をチラっと見て、ナミは説明を始める。
「とりあえず、それを食べると小さくなるってのは、そこのウソップを見た通りよ。
恒久性はないみたいだけど、いつ治るかはハッキリしない。
…つまり、明日治るかもしれないし、3ヶ月、1年後かもしれないし…もっと後かもしれない」
「そりゃタイヘンだな」
本をパラパラ捲りながら、サンジが呟く。
「そして問題がもうひとつ。…少しずつ退行していくみたいなの。ココが、ね」
ナミが、トントンと頭を指でつついた。
「は…?ソレって…」
「バカになるってコトか?」
目を丸くしてルフィとチョッパーが声を上げる。しかし、ナミが首を横に振った。
「違うの。記憶がね、戻っていくのよ」
「……もうちょっと解り易く説明してくれよ」
全く理解していない様子で、ゾロが肩を竦める。
ウソップは、ただ黙って話を聞いていた。
「つまり、ね」
ため息をついてからナミは食堂にいる全員を見回す。
「時間が経つにつれ、小さい頃のウソップの頭の中に戻っていくのよ」
「?????」
ルフィは理解不能なのか、まだ首を捻っている。
何かに気付いたように、チョッパーが恐る恐る口を開いた。
「今は、小さくても今のウソップだけど、ほっといたら小さい頃のウソップになっちゃうのか…?」
「そういうコト。さすが物分りがいいわねチョッパー」
「じゃ、最近出会ったばかりの俺のコト、忘れちゃう?」
「チョッパーだけじゃないわ。私達のコトだって、すっかり忘れてしまうでしょうね」
「Σなんだとーーーーー???」
やっと解ったのか、ルフィが大声を上げた。
「……ほんっと物分りが悪いのよねアンタ」
やれやれと言った風にナミが苦笑いを浮べる。
「ナミさん。小さい頃の記憶になってから体が元に戻ったら、どうなるんでしょうね」
開いていた本を閉じて、サンジがぽつりと言った。
「さぁ……解らないわ。大体、いつ忘れていくのかも解らないの」
暫くの沈黙。まさにお先真っ暗というわけなのだが。
一番にそれを破ったのは、他でもないウソップ本人だった。
「…………ぷっ」
何が可笑しいのか、イキナリ吹き出したかと思うと、
次には腹を抱えて笑い転げていた。
「はははははは!!まぁ、そんなに深刻にならなくったってイイじゃねーか!!」
「ウソップ…?」
隣に座っていたゾロが訝しげに顔を顰める。
「だってホラ、今の段階で俺は俺なんだし。忘れるってもイキナリどどーんじゃなくて
少しずつなんだろ?だったら、忘れる度に思い出させてくれたらいいじゃん。
思い出せなかったら、また1から覚えればいいことなんだから!!」
まるで自分に言い聞かせるように言うと、ウソップは全員を見回した。
「大丈夫。どうにかなるさ。今までだって、どんなタイヘンなコトだって皆でどうにか
してきたじゃねーか。大丈夫。今回もどうにかなるさ。な?」
小さくっても笑顔はウソップそのままで。
暗かった雰囲気に少しずつ活気が戻ってくる。
「そうね、このまま悩んでもしょうがないんだし。出来ることから始めましょう」
ナミがうんと頷いて、海図を広げた。
「どうした?」
不思議そうにルフィが海図を覗き込む。
「進路を変えてね、街に向かうわ。できるだけ大きなトコロに。
それで、ウソップが食べた実のコトをもっと調べるの。
もっと何か解るかもしれないじゃない。いいわよね、船長?」
確認するように、ナミが上目遣いに見ると、ルフィはしししと笑った。
「ヨシ、それでいこう!!」
「了解」
あっと言う間にいつものチームワーク。ウソップはそれを眺めて満足そうに笑う。
ゾロはそんなウソップを見て、仕方なさそうに肩を竦めた。
<続>