<ACCIDENT・24>

 

 

 

着いた街は割と普通だった。特に目新しいものは何も無い。
海軍支部もあり、長居していたい場所でもなかった。
珍しいといえば、あまりあちこちでは見られない刀鍛冶屋があるぐらいで。
だが、ゾロにとっては鍛冶屋があるという事は非常に有り難い事だった。
いくら手入れをしていても、所詮その部分に関しては素人、専門家に適うはずがない。
時には鍛冶屋に出して刀を磨いでやらないと、だんだん弱ってきてしまう。
いつもは昼寝がてら船番をしているのだが、ゾロは久々に刀を鍛冶に出そうと重い腰を上げた。

 

 

 

 

「どこ行くんだ?」
一緒に船を降りたウソップが、ゾロの隣を歩きながら訊ねた。
「刀を磨ぎに出すんだ。ま、あんまり面白ぇモンでもねぇから、
 さっさと済ませて何か食いにでも行くか」
そう答えて、ゾロは店の扉を潜った。
店の主人に話をつけ、代金と刀をカウンターに乗せる。
そして、刀に興味津々であちこち見て回ってるウソップを引きずるように、
ゾロは店を後にした。

 

 

空気が変わったとゾロが気付いたのは、昼食も終えて大通りを歩いている時だった。
あちこちから感じる殺気が、一ヶ所に集まってきている。
また、自分達を狙う命知らずな賞金稼ぎだろうかと、ゾロは内心ため息をついていた。
「…なぁゾロ、なんかだんだん周りに人がいなくなってきてるんだけど…」
さすがにウソップも気付いたようで、不安げにゾロの服の裾を引っ張った。
「気にすんな。行くぞ」
ウソップの背中を軽く叩いて促すと、少し歩調を早くした。
ウソップだけでも、なるべく安全な場所へ連れて行かなければならない。
歩きながら、ゾロはどこに敵がいるのか辺りに視線を巡らせて探してみたが、
人の気配はするのに姿は見当たらない。
先に気付いたのは、ウソップだった。
「ゾロ、いっぱい人がいる」
「…」
「屋根の上」
言われて見てみると、通りに並んだ店の屋根に潜むようにしてそれはいた。
賞金稼ぎなどではない。ある意味もっと厄介な相手。
「…海軍かよ」
いつから目をつけられていたのかは知らないが、海軍達は屋根の上から銃口を自分達に向け、
いつでも発砲できるように狙いを定めていた。
「どうしよう」
微かに声を震わせながら、ウソップはゾロを見た。
「いいか、合図出したら真っ直ぐ走れ。全速力でな」
「わかった」
ゾロは全神経を集中させて、相手の動きを探った。
海軍は少なく見積もっても30人はいるだろう。
日頃訓練を受けてチームワークをつけている分、数で攻められるとかなり分が悪い。
「恐がるな」
恐怖で身が竦んでいるウソップに、ゾロは小さく声をかけた。
「これが、海賊の戦いだ。甘ェ事考えてたら死ぬぞ」
海軍の指が一斉に引き金にかかったのを感じ取ると、ゾロはウソップの背中を押した。
それを合図に、ゾロとウソップは走った。
同時に鳴る銃声。
なんとか第一陣を抜けたが、通りの正面に第二陣が待ち構えていた。
「ゾロ!!まだいる!!」
「…ちっ」
ウソップが前方を指差す。
斬り込むかとゾロは腰元に手を延ばしたが、それは虚しく宙を掻いた。
「しまった…」
鍛冶屋に刀を出していた事を、今の今までゾロはすっかり失念していた。
「しょうがねぇな」
こうなったら肉弾戦だと、ゾロは通りの隅に積まれてあった樽を前へ向かって蹴飛ばした。
そして横に走る細い路地を指差して言った。
「ウソップ、お前はそっちから抜けろ」
「え…っ?ゾロはどうするんだ!?」
「なァに、死にゃしねぇだろうさ」
不敵な笑みを見せながら、ゾロは真っ直ぐ海軍の待ち構える陣営へと突っ込んでいく。
「ゾロ!!」
思わずウソップは叫ぶが、そんな事で止まるゾロではない。
まだ海軍が後ろから狙ってくるのを感じて、ウソップは慌てて路地に飛び込んだ。
そして、うまく働かない頭を動かして自分にできる事を考える。
暫くしてから、ウソップはおもむろに立ち上がった。
危険を承知の上でもう一度通りに飛び出すと、先程走った道を引き返す。
それに気付かないゾロではなかったが、海軍相手に戦っていたので止める事もできなかった。
「何考えてんだあのバカ…!!」
しかし確実に一瞬、そちらに気をとられてしまった。
ゾロの肩口を銃弾が掠めていく。
じわりと血が滲んだシャツを見て、ゾロはとりあえず現状を打破する事に決めた。

 

 

通りを真っ直ぐウソップは駆け抜けた。
早くしないと、あの人数相手ではゾロに命が危ない。今のゾロは丸腰なのだ。
最初は仲間を探しに行こうかと考えた。
しかし、今仲間達はどこにいるのか見当もつかない。
だからウソップは確実な方法を取る事にしたのだ。
つまりは、鍛冶屋に刀を取りに行こうと。
一本でも二本でもいい。刀さえあれば、ゾロは負けないはずだから。
途中、二度ほど銃弾が擦った。三発目は、左腕に食い込んだ。
だが、それに構うこともなくウソップは通りを走り抜けた。

 

 

 

<続>