<ACCIDENT・23>

 

 

 

秋島周辺に来たらしい。
気候が安定して過ごし易い気温になった。
夜になると肌寒く感じるほどに。
でも冬の寒さとはまた違い、どこか気持ちのいい寒さ。
そして、ゾロの安眠にもってこいの気候。
いつにも増して、ゾロは甲板で眠っている事が多くなった。
「ゾロ〜〜」
名前を呼ばれて目を開ける。
声のした方を見るとウソップの姿。
風呂上がりなのだろうか、にっこり笑うその姿からは
ほかほかと温かそうな湯気が上がっている。
「どうした?」
「今風呂空いてるから入っちまえって」
「そうか」
一応そう返事はするが、ゾロは一向に立ち上がる気配を見せない。
少し訝しげな表情を見せて、ウソップはゾロに近づいた。
「入らないのか?」
「後でな」
そっけなく返事をして、ゾロは再び目を閉じる。
寝起きがトコトンまで悪いという事はウソップも知っているので
それに気を悪くして様子もなく、隣にちょこんと座った。
「こんな所にいたら風邪引くぞ?」
「う〜ん……」
薄く片目を開いてちらりとウソップを見る。
ちょっと考える素振りを見せてから、ウソップは答えた。
「なんか、ココにいたいんだ」
「そうか」
また短く返事をして、ゾロは目を閉じる。
言ってる傍からウソップがくしゃみをした。
「ホントに風邪引いても知らねェぞ」
「大丈夫だ!!」
どーんと胸を張って言い切るウソップに、ゾロは仕方なさそうに肩を竦めた。

 

 

正直、元の姿に戻ったウソップにどう接していいか悩んでいた。
時折見せる表情や仕種に以前のウソップが重なって、
その度に手を延ばしそうになって。
抱き締めそうになって。
そしてその度に、自分を抑えてきた。
中身はまだ子供のままなのだ。それはいくら何でもマズイだろう、と。
そこら辺の分別ぐらいは付いている。
付いているハズなのに、時々何とも言いようのない衝動に駆られる時があって。
今のウソップと以前のウソップは違う。
以前のウソップは今よりもっと強くて…でも、どこか儚げで。
今のウソップは以前よりもっと純朴で…そして、真っ直ぐで。
だけど命懸けで他人の信念を、夢を、宝を守ろうとする姿は同じで。
根本は変わってない。何一つ。
だからこんなに重なるのだ。
だから今も変わらず愛しいのだ。

 

どうしていいのか解らない。
それが、正直なトコロ。

 

魔がさした、とだけ言っておこう。

 

 

 

 

突然肩に腕が回されて、気がつけばゾロの腕の中だった。
「…ゾロ?」
驚いて聞くと、やっぱりどこかぶっきらぼうな返事がきた。
「少しじっとしてろ」
「……うん」
素直に頷いてウソップは目を閉じた。
ゾロの鼓動が聞こえてくる。
時々…本当に時々、こうやってゾロに抱き締められる事があった。
前は胸にほっこりしたものが湧いてきて、とても安心できたのに、
何故か今回は違った。
何だかとてもドキドキする。
こんな気持ちは初めてだった。
でも、悪くない気分。
「…あったかいな」
ぎゅっと抱き返してそう言うと、ゾロはニッと笑った。
それを見て、何故か顔に血が昇る自分がいて。

 

なんだろう、これ。
こんなオレは知らない。

 

どこか居心地が悪い。
そんな気はしたけれど、でも、ゾロの腕から離れようとする気は起きなくて、
抱き返す腕に力を込めた。

 

 

どうしてだろう。
ずっと前から、ゾロを知ってた気がする。
初めて会った人なのに、ずっと前から知ってる気がする。
だけどそう思うのは一瞬だけで、やっぱりそれは気のせいかと思ってしまう。
でも、ゾロはオレの知らないオレの事まで知ってて、
おかしいって、さすがに子供のオレでも解るんだ。
なんて言うんだっけ、こういうの。

 

そう…ムジュン。
矛盾って言うんだっけ…………

 

 

 

 

頭に衝撃が走って目が覚めた。
どうやらウソップを抱き締めたまま、また眠ってしまったらしい。
衝撃を走らせた犯人はナミのようで、拳骨を作ったまま
仁王立ちしてこっちを睨みつけていた。
「何やってんのよバカップル!!
 さっさと風呂入って来いっつってんのよ!!」
そして湯冷めしてすっかり冷え切っているウソップもろとも
風呂場に放り込まれた。
「……怖ェ女だ」
乱暴に閉められた扉を見遣り、ゾロは肩を竦めた。

 

 

 

 

<続>