<ACCIDENT・22>
まず、サンジが起きて目を見張った。
次にナミが起きて、言葉をなくした。
最後にルフィが起きて、大声で叫んだ。
「ウソップがでかくなった!!すげーーーーー!!!」
当然、目を覚ましたウソップもビックリしている。
「うおお!?なんでオレでかくなってんだ!?
すげーーーーー!!!!!」
中身はどうやら子供のままらしい。
本当は元の姿に戻っただけなのだが、ルフィと一緒になって
わあわあ叫んでいた。
それを見ながらゾロがやれやれと肩を竦ませる。
まだまだ一波乱も二波乱もありそうな。
「う〜〜ん…」
ウソップはさっきからしきりに首を傾げている。
困ったような、何か悩んでいるような、そんな顔。
ゾロが近付いて、ぽんと肩を叩いた。
「何さっきからウンウン唸ってんだ?」
「ん〜…なんていうか…今ひとつこの大きさに慣れなくて」
「ん?」
今度はゾロが首を傾げる。
ウソップはキョロキョロ辺りを見回して、少し離れたトコロに
転がっているペンに目を止めた。
「つまり、さ」
そのペンに向けて、ウソップが手を延ばす。
「そのペン取ろうと思ったら、今まではいっぱいいっぱいに
手を延ばさないとダメだったんだけどさ。それが今は
ちょっと延ばしただけで取れるからさ」
軽々と手にするウソップは、逆にハァ、と重苦しいため息をついた。
「なんか、逆に不便だ」
「バ〜カ。お前それって贅沢だぞ」
キッチンにサンジが入ってきて言った。
「お前、俺なんかチビの頃は、タッパが足りねェで
踏み台使って料理してたんだぜ?」
「そうなのか?」
テーブルの上に、手際良く昼食の材料を並べていく。
「周りは大人ばっかでさ、散々バカにされたからもう悔しいのなんの。
やっと踏み台から解放された時にゃ、嬉しくて涙モンだった」
煙草をふかしながら、ニッと笑う。
ウソップもそれを見て笑顔を見せる。
子供が持つ、特有のそれで。
…まだまだ、前途は多難そうだな。
半分哀れみの目を向けてゾロの肩を叩けばギロリと睨まれた。
「…何が言いてェ、エロ眉毛」
「あぁ?折角同情してやってんのに、何だその態度はクソマリモ」
「やるってのか」
「おぉよ。望むところだ!!」
あっという間に始まってしまった喧嘩に、驚いてウソップは逃げ出した。
あんな所にいたら、自分の身も危ういと。
怒鳴り声が聞こえてくるキッチンのドアを閉めて、
ポリポリと頭を掻いてため息をついた。
「あーあ…始まっちゃったよ」
ぽつりと呟くと、甲板へ続く階段に向かった。
死闘を続けること1時間。
ナミの鉄拳とルフィの腹減った攻撃で、キッチンは静められた。
サンジはバラバラになった食材を拾い集めて腕まくりをし、
包丁を片手にルフィとゾロをキッチンから追い出した。
ナミは自分から出て行く。
料理中のサンジは一人にしておく。
暗黙の了解だった。
ゾロは仕方ナシに甲板に出る。
そこには、チョッパーしかいなかった。
「おいチョッパー」
「なんだ?」
呼ばれて振り向き、首を傾げて返事をする。
「ウソップ知らねぇか?」
「ううん、知らない。
俺さっきからココにいたけど来なかったぞ?」
「……あァ?」
おかしいな、と、今度はゾロが首を捻った。
下の部屋へ行くにしても、この階段を降りて通らなければならないのに。
チョッパーも不思議そうな顔を見せている。
「………あ?」
どこからか、誰かの声がしてゾロは後ろを振り返った。
しかし誰もいない。
「ゾロ、どうかした?」
「ああ、いや……今、なんか聞こえたような……」
気のせいかと思ってまたチョッパーに向き直る。
だが、やっぱり気になるみたいでしきりに後ろを気にするゾロに、
チョッパーが吹き出した。
「見てきたらいいじゃないか」
「…それもそうだ」
その言葉に苦笑して、ゾロは元来た道を辿って行く。
キッチンに上がる階段か、男部屋に下りる階段か。
下に降りてみるかと思った時、また声が聞こえた。
「…ゾロ〜〜〜……」
「ウソップ!?」
驚いて辺りを見回すが誰もいない。
「ウソップ、どこにいるんだ?」
「ココだ〜〜〜」
力なく呼ぶ声に、階段の裏に回ってみる。
思わず言葉をなくして立ち尽くした。
「ゾロ〜〜〜…たすけて〜〜……」
隙間に挟まったようで身動きの取れないウソップの姿。
情けないことこの上ない。
深いため息をついて、ゾロはウソップの救出に向かった。
「…で、なんであんな所に挟まってたんだ?」
何とか引っ張り出して甲板に連れて来て、ゾロはウソップに問いただした。
「…近道なんだよ」
「は?」
「階段下りるの面倒でさ、いつもあの隙間から柱伝って下りるんだけどさ。
ついついでかくなってるの忘れてて、通ったはいいけど、
抜けらんなくなっちまって…」
悪びれもなく明るい笑いを浮かべるウソップに、ゾロはため息をついた。
「やっぱ、不便だなぁ」
「横着し過ぎなんだ。馬鹿が」
先が思いやられるとゾロは遠い目を見せる。
ウソップはそんな事には全く気付かない様子で
チョッパーと遊び始めていた。
船は次の街へと向かっている。
<続>