<ACCIDENT・20>
倉庫の扉の開く音で、ウソップは我に返った。
帰ってきたのだ。男達が。
階段を降りてくる足音と、薄く灯る明かり。
男達はそれぞれ手に色んな物を持っていた。
財布だったり、宝石だったり、売れば金になりそうな物だったり。
それぞれはウソップに見向きもせず、そこらに散らばった物を
袋に詰め始めている。
これから逃げ出すのだろう。
リーダーの男が、ゆっくりとウソップに近付いた。
「さて…これから海に出る。
次の街に着いたら…そこでお別れだ」
つまり、売り飛ばされる事を意味する。
ウソップはただ男を睨みつけていた。
「そんな怖い目するなよ。
子供のお遊びでこんなトコロまで来ちまったお前が悪いんだ」
「…いい加減に、コレ解いてくれよ」
「聞けない相談だな。逃げられると困るんでね。
叫ばれても困るから少し黙っててもらうぜ?」
あくまでも軽く言うと、男はウソップにさるぐつわを噛ませた。
「野郎共!!準備はいいか!!」
その号令に、男達は大きく拳を上げる。
出発の合図だ。
その時。
派手に、窓が蹴り破られた。
「…盛り上がってるトコ悪ィんだが、ソイツはうちの大事な狙撃手でね。
返してもらえると助かるんだが」
「……!!!」
ウソップが、サンジ!!と叫ぼうとしたができなかった。
全員が天井近くの窓を見上げる。
サンジが煙草を咥えたまま、にぃっと笑った。
「やっと見つけたぜ。随分捜したんだからな」
「誰だテメェ!!」
「俺か?
俺は……戦うコックさんだ」
サンジがふざけて答えると、男達はナメられていると思っていきり立つ。
実際ナメられているようではあるが。
「とっとと中に入りやがれ!!戦うエロコックが!!」
その後ろから怒声がしたかと思うと、サンジが蹴り落とされる。
上手く着地すると、サンジが窓を振り仰いだ。
「何しやがんだクソマリモ!!!」
「うるせェ!!いつまでもグズグズしてるからだ素敵マユゲ!!」
「……オロすぞコラ」
「やるってのか?」
ゾロも中に飛び込んでくる。
その途端に喧嘩を始めたサンジとゾロ。
「……」
がちゃり。
何時の間にか男達に取り囲まれて、銃口なんか向けられたりしている。
「…なんなんだ、テメェらはよ」
男の言葉にサンジとゾロは口を揃えて答えた。
「海賊だ」
一瞬だった。
3人が蹴り飛ばされ、3人が斬り捨てられた。
次には悠然と煙草の煙を吐き出すサンジと、刀を鞘に収めるゾロがいた。
「ケッ。てんで弱っちい上に数が足んねェよコレじゃ」
気を失っている男の一人を蹴りながら、サンジが吐き捨てるように言う。
ゾロがウソップに近付いて、さるぐつわと縄を解いた。
「大丈夫か?」
「……ん。平気だ。ホラ、刀」
短く答えてウソップが刀を差し出す。
「盗られるなよ」
「お前、コレの為に…?」
「だって、大切なんだろ?」
「……危ねェ真似しやがって……」
差し出された手首に縄の擦れた後を見つけて、ゾロは僅かに顔を顰める。
「…ごめんなさい」
少ない口数に気付いて優しく頭を撫でてやると、ウソップの目から
涙が零れた。
「遅くなって済まねェ……怖かったろ?」
そっと抱き締めると、ウソップは強くしがみ付いて泣き出した。
暗闇の中で差し伸べられた腕は、ウソップが思っていたよりもずっと温かかった。
「ちょっと!ウソップ見つかったの?」
「ナミさ〜〜〜んvvvvvv」
外からナミの声がして、サンジは反射的にハートを飛ばしながら手を振った。
ナミとルフィを呼びに行ったチョッパーが、2人を連れて戻ってきたようだ。
「しっかりバッチリ、ウソップ回収しましたよ〜〜vvv」
「ウソップ見つけたのか!?じゃあメシだな!!!」
やっと食事にありつけると、ルフィが嬉々とした声を上げた。
降りてきたナミに、ゾロは床に転がっている袋を指差した。
「そいつらが盗った物が入ってるぞ。持って行くか?」
「ん〜〜〜…やっぱりひったくり程度じゃこんなモノよね。
大したモノないからいいわ」
物色したナミがつまらなさそうに首を横に振る。
男達を全員縛り上げると、さっさと倉庫から出る事にした。
腹の虫を鳴らせたまま、放っておけば暴れ出しそうなイキオイで
ルフィがメシ!!と騒ぎ出したからだ。
腐っても海賊。海兵に見つかれば自分達の身まで危うくなる。
そんな事を全く気にもしていないルフィの口をサンジが押さえると、
静かに倉庫を後にした。
<続>