<ACCIDENT・2>

 

 

 

最初、何が起こったのかわからなかった。
気がつけば、放り投げられていたんだから。
「テメェ!!何しやがんだ、ルフィ〜〜〜〜!!!」
叫んではみたものの、アイツは笑ってるだけだ。役にも立たねぇ。
ルフィは一生懸命海に向かって何か叫んでた。
何だよ。何があるってんだよ。
俺もそっちを見ると、ガキが一人溺れてた。
ああ、コレか。
そう思って、気を取り直してガキの方へ向かって体制を整えると一気に飛び込んだ。

 

「コラ!!暴れるなって!!」

 

取り敢えずガキを掴むと、今度はソイツが凄い剣幕で暴れ出した。
何とか押さえつけて顔を見ると、なんなんだ。鼻が長ぇぞ。ウソップみてぇだ。
いや、顔もどこかウソップに似ているような……そんな気がした。
そのガキが、一生懸命海の向こうを指差してる。
そっちに目をやると、ゆっくり近付いてくる一匹の鮫。
ああ、だから暴れてたのか。
上手い具合に刀もあるし、いっちょ片付けてくるかな。
「3秒で済むから、悪いけどちょいと溺れててくれ」
そうガキに告げて手を離すと、刀を抜いて鮫に向かった。
……よく考えたら、海水になんか漬けてたら刀がサビてくるじゃねぇか。
ちくしょうルフィのヤツ!!後で刀の手入れさせてやる!!
あ、でも、アイツに触らせたら折りやがるかもしれねぇな。
やっぱヤメとこう。

 

 

まぁ、鮫の一匹や二匹、俺の敵なんかじゃねぇよな。
さっさとやっつけて、急いでガキの元へ戻る。
良かった、なんとか無事だったか。
ガキに向かってにんまり笑うと、ガキが勢い良く飛びついてきた。
「ゾロ!!!」
って、何度も何度も俺の耳元で名前を呼んでいた。
その声に、とても聞き覚えがあって。

 

……なんだ、ウソップじゃねぇか。

 

「もう、大丈夫だからな」
そう言って、俺はウソップを抱き締めた。
ちょっと、ミニサイズだったけど。

 

 

 

 

なんか、体が鉛のように重かった。
あれ?泳ぎは得意のハズだったんだけどな。おかしいなぁ。
でも、死にたくなくて。死ぬわけにはいかなくて。
一生懸命手足を動かした。
事態は一向に改善されてはいないけど、ルフィが傍にいたんだ。
きっと誰かを呼んでるだろ。
……うん、多分。
でも、やっぱり体は重くて、少しずつ手足を動かす力もなくなってきて。
ヤバいかな、って正直思った。
もし俺がココで死んでしまったら……アイツはどんな顔すんだろうな。
見てみたい気もしなくはないけどな。
でも、まだダメだ。ダメなんだよ。
まだアイツが世界一になるトコ見てねぇし、まだ一緒に歩いていきたいんだ。
船に戻りたくて、上を見上げる。
そしてら、ルフィが見えた。何か必死に叫んでる。
何て言ってるんだろうなぁ。頑張れとかなのかなぁ。
と、思ったら、今度はルフィが何かを投げ飛ばしやがった。
なんなんだ??
つい、もがきながらもそっちを見てしまう。
あ、ゾロだ。
見慣れた緑の髪。途端に今まで胸にあった死への気持ちが一気に消し飛んだ。
アイツなら、絶対助けてくれるから。
根拠はないけど絶対の自信だった。
だって、守るって言ってくれたから。

 

が、今度は波間に妙なモノを見ちまった。
ゆっくりこっちに近付いてきてる……なんか、ヒレみたいなモン。
今はゾロが抱えてくれてるから溺れる心配は無いけど、アレはヤバいよな。
あの魚、なんてったけ。ヒト食いなんだよ。ヤバいじゃん。
勝手に体が動いてた。なんか、暴れてた。
「おい、どうしたんだよ」
ゾロがちょっと困ってる。ていうか、俺も困ってんだよ。
今度はゾロの服をぐいっと引っ張って、あの魚のいる方向を指差した。
ゾロはちょっとそっちを見つめて、
「ああ」
って言った。解ってくれたみたいだ。
「3秒で済むから、悪いけどちょいと溺れててくれ」
そうして俺の体を離して魚に向かって言った。
ホントに3秒ぐらいだったと思う。
やっぱとんでもなく強いんだよな。ゾロって。
戦う姿は力強くて格好良くて。
俺は、戻ってきたゾロに飛びついてた。
「ゾロ!!!」
言いたい事は山ほどあったけど、今は名前しか呼べなかった。出てこなかった。
繰り返し呼ぶと、ゾロが抱き締めてくれた。
とてもゾロの胸が広く感じるコトや自分の体に何が起こったかなんて、
今は気にもならなかったんだ。
言いようのない安心感ってヤツが、俺の中でいっぱいになる。
「もう、大丈夫だからな」
ゾロの言葉に、俺は頷いてた。

 

 

 

 

暫くして、ゾロとウソップは船に引き上げられた。
手土産に先程倒した鮫を手にしている。
「大丈夫か?」
ルフィの問いにウソップは
「ああ、平気だ!!」
と元気良く応え、ゾロは
「ルフィ……テメェはいつか殺る」
と睨みつけた。
「どうした、このサメ」
サンジがゾロの手にしている鮫に目をつける。
目敏い所は流石料理人根性というべきか。
「掴まえた」
そう短く言ってゾロはサンジに鮫を渡す。
「掴まえてどうすんだよ」
サンジの問いに、ウソップとゾロがタオルに包まりながら、
当然のようにサラッと言ってのけた。

 

「今日の晩メシ」

 

 

 

<続>