<ACCIDENT・19>
「ダメだ。いねぇ」
全員に召集をかけて、手分けして街中捜した。
しかし、ウソップはどこにも見つからない。
ただひとつ、港の方に向かって鼻の長い少年が走っていったと
いう証言だけ手に入れた。
日ももう随分と暮れてしまっていて、辺りに暗闇が生じ始めている。
一通り捜して、港に停泊しているゴーイング・メリー号の前で一旦集合した。
「あとは…この港一帯ね」
辺りを見回して、ナミがやれやれとため息をついた。
「ウソップ、どこに行ったんかなぁ。ハラ減らねェのかなぁ。
俺はハラが減ったぞーーー!!!」
ルフィは派手に腹の虫を鳴かせながら叫んでいる。
当然、サンジからは『ウソップが見つかるまで夕飯はお預け』と
宣言されていたため、ルフィもかなり真剣に捜していた。
「よし、もう一回手分けするか。
港だけなら範囲も狭いしな」
そう言って歩き出すゾロの襟首をナミが掴んだ。
「待ちなさい。そっちに歩くと街に入るわよ。
どういう方向感覚してるのよ、アンタは!!」
結局、ルフィにはナミ、ゾロにはチョッパーがつく事になった。
方向音痴2人組への対策である。
「じゃ、とりあえず動きましょ。後でまたココに集合ね」
そう告げると、ナミはルフィを引っ張って歩き出す。
「ああ…俺がナミさんと行きたかった……vv」
そう呟きながらサンジも別の方向へと歩いて行く。
チョッパーが、ゾロのズボンの裾を引っ張った。
「ゾロ、俺達はこっち」
「ああ」
短く返事して、ゾロはチョッパーに後ろを歩き出した。
すっかり暮れてしまった空を見て、小さくため息をつく。
すると、チョッパーが振り返った。
「心配か?ゾロ」
「そりゃあ、当たり前だろ」
「大丈夫。ウソップきっと見つかるよ。な?」
「…ああ、そうだな」
チョッパーが見ても解るぐらい、自分は落ち込んでいたのだろうか。
まさか励まされるとは思わなくて、ゾロは苦笑した。
地下室の明るさはどうやら天井近くの小窓から取り込まれていたものらしい。
日が沈んでしまうと真っ暗になってしまった。
「うえ〜〜…暗いよぅ〜〜……」
泣きべそをかきながら、しかしその自体をどうする事もできずに
ウソップは縛られたままその場に転がされていた。
もがく事も、もうイヤになった。
手首の縄をどうにかしようとしてみたが、手首に痛みを感じて見ると
擦れた所から血が滲み出していて、だが縄は一向に解ける様子はなく
ムダだと思ってやめた。
胸元で一緒に縛られている刀だけが、少しだけ心を落ち着かせてくれていた。
きっとゾロが、皆が、助けてくれるんだと。
半ば祈りにも似た気持ちを抱えて、為す術もなくウソップはじっとしていた。
だが、少しずつ日が暮れるにつれ部屋の中に闇が訪れてくると、
ウソップの中に言いようのない不安が押し寄せてくる。
ひとりぼっち。
その感覚だけが波の様に訪れる。
呼べど叫べど手を差し伸べてくれる者は誰もいなくて。
母を失った時に一度経験した感覚。
2度と味わいたくなんかなかった気持ち。
今いる仲間達によって1度は消え失せた感情が、
今になって一気にやってくる。
体中に、震えが走った。
「やだ…。もう、一人はいやだ……」
ぽろぽろと涙が零れて。
ただ皆に会いたくて。
手を差し伸べて、欲しくて。
まだ、孤独という感情を一人で抱えられるほど大人ではない。
「……ゾロ……」
刀に目を落とした。
今頃彼はどうしているだろう。
自分の事を探してくれているのだろうか。
それとも…自分を放って出発してしまったのだろうか。
実際、宝物だと言うこの刀を置いて行ってしまうことは有り得ない。
解ってるのに、この不安は何なのだろう。
ゾロから離れなければ良かった?
刀を盗られたのを見なければ良かった?
見ても、知らないフリしていたら良かった?
そんな問題じゃない事ぐらい、幼いウソップでも解る。
とにかく、もどかしくて。
すぐにでもこの場所から逃げ出したくて。
でも、できなくて。
不安で怖くて胸が潰れそうで…涙だけが止まらない。
倉庫が立ち並んでいる場所を、ゾロとチョッパーはくまなく捜し歩いた。
しかし、倉庫はそれぞれ鍵がかかっているので中までは調べられない。
歩いた感じ、その辺でウソップがちょろちょろしていそうな雰囲気はない。
念の為にチョッパーがウソップの匂いを探してみたが、
潮の匂いが強すぎて解らなかった。
「どうする?ゾロ」
「ココにはいねぇみたいだな……他も当たってみるか」
通りを歩きながらゾロが言う。
解ったと頷いてチョッパーが先に立って歩き出した。
「ぎゃっ!!」
角を曲がった時、チョッパーが人とぶつかり悲鳴をあげる。
「ぅおっと!!…なんだ、チョッパーじゃねぇか」
相手はサンジだった。
煙草の煙を燻らせて、困ったように頭を掻いている。
「あたたたた…サンジ!!」
鼻を擦りながらチョッパーが見上げた。
「なんだ、そっちもまだ見つかってねェのか」
「そういうお前もまだみてェだな」
いつもは一触即発のサンジとゾロも、今は喧嘩の素振りを見せない。
「…ったく。世話をクソかけさせやがるヤツだな」
「どこ行ったんだろ、ウソップ…」
ため息を付き合うサンジとチョッパーの向こうで、数人の男が動くのを見た。
静かに動くゾロに合わせて、2人も物陰に身を潜める。
「…なんだぁ?」
「倉庫に入ってくぞ」
どこからどう見ても怪しさ大爆発である。
男達が全員倉庫に消えるのを見届けてから、3人は倉庫に近付いた。
扉に手をかけてみるがビクともしない。
諦めて倉庫をぐるっと一回りしてみるが、他に入口もなければ
窓すら見当たらない。
「やっぱダメか……」
短くなった煙草を投げ捨て足で踏み消し、サンジが仕方なさそうに呟く。
「…あれ?」
チョッパーが倉庫の隅に目をやると、一目散に走り出す。
「あれ?あれ??」
がさがさと雑草を掻き分けると、現われたのは小窓がひとつ。
背の高いゾロやサンジにとって足元は盲点だったようだ。
小さなチョッパーだからこそ、目に入ったのだろう。
「…なんだ?」
ゾロが近付き、中を覗き込む。
その顔色が、変わった。
<続>