<ACCIDENT・17>

 

 

 

ある昼下がり。
ゾロが刀の手入れをしているのを、ウソップとチョッパーが
2人並んで眺めていた。
「……なんか、人形が2つ並んでるみてェだ」
ゾロが苦笑すると、チョッパーが怒った。
「俺は人形じゃねェ!!」
しかし、小さいのが2つ並んでちょこんと座っていると、
可愛らしくてしょうがない。
楽しそうに眺めて目を細めると、ゾロはまた刀に向き直った。
ここ最近、色々ありすぎて刀を随分放っていたようだ。
きちんと手入れをしないと、当然切れ味も悪くなっていく。
久々に昼寝する気分でもなかったので触れてみた。
「なぁ、なんで刀3本も持ってんだ?」
「三刀流だからさ」
「ふぅん」
ウソップの問いに答えると、解ったのか解ってないのか
どうにも曖昧な返事が返ってきた。
「大事なモノなのか?」
「まァ…大事だなァ」
「宝物なのか?」
「そうだな」
「……そっかァ」
少し嬉しそうに笑うと、ウソップは何か思いついたように立ち上がった。
「オレの宝物も、お前らに見せてやるよ!
 なんか、持ってきてたみたいなんだ」
そう言って元気良く船室へ向かっていった。
おそらく、ウソップがこの船へ乗り込む際に持ってきていたのだろう。
思い出のいっぱい詰まった宝物を。
本当に、物を大事にするウソップだから。
駆けて行く後姿を見つめて、ゾロは少し微笑んだ。
それを見てチョッパーが笑った。
「エッエッエ。ゾロがそんな風に笑うの見た事ないや」
「そうか?」
照れたように、ゾロも笑った。

 

 

 

 

そしてその夕方。
「はーーーーーーーっ」
目をキラキラさせて、ウソップは周囲を見回していた。

 

 

航路の途中にある街に立ち寄った。
どこか、西部を彷彿とさせるような場所だった。
目的は食料その他の補給。
出発は明日の朝とナミが告げる。
チョッパーの作った薬が思いの他よく効いて、
ウソップの傷の抜糸も済んだ。
元気良くルフィが船を飛び出し、ウソップもそれに続いて飛び出した。

 

 

 

 

街は祭りが行われているようで、どの通りも人で溢れていた。
「おいウソップ、迷子になるんじゃねェぞ」
またもルフィとウソップのお守を押し付けられたゾロが、
勢いづいて走るウソップの肩を慌てて掴まえた。
ルフィならすぐに見つかるが、小さなウソップに人込みに紛れられると
捜すのはきっと困難であろう。
「ほら、手を離すなよ」
そう言ってウソップの手を握る。
じっと、ウソップがゾロの顔を見つめた。
「……どうした?」
「父ちゃんみてぇ」
その一言に、心の中でゾロは撃沈していた。
まだそんな歳じゃないのに。
いやそれ以前に、父ちゃんじゃなくてコイビトってやつなんですけど。
だが、そんな事を今のウソップに言えるだろうか。

 

否。

 

諦めたようにため息をつくと、ゾロは何も言わずに歩き出した。
小さなウソップの歩幅に合わせてゆっくりと。
前を歩いていたルフィがししししと笑いながら振り向いた。
「お前等、マジで親子みてぇだな。マジ親子。しししし」
「…………てめぇ…………」
絶対斬る!!
ゾロは本気でそう誓った。

 

 

 

 

「買pレードやってるぞ〜〜〜!!!」
向こうの通りで何か見つけたらしく、ルフィが一目散に駆け出した。
「待てコラ!!!」
慌てて自分も走り出して、ウソップの手を掴んでる事に気がついた。
見るとウソップは半ば引き摺られるようになって目を白黒させている。
「…ちっ。しょうがねェな」
ゾロはウソップを担ぐと、凄い勢いでルフィを追った。
ルフィはと言えばゴミのような人だかりを掻き分けて前へと進もうとしている。
「あの馬鹿…!」
ウソップを下に降ろすと、もう1度ウソップの手を掴む。
そして自分も前へ進み出した。
分厚い壁のように群がる人込みを掻き分け、半分ぐらい進んだトコロで
漸くルフィを捕まえた。
「何考えてんだテメェは!!!」
「あ〜〜、ゴメンゴメン。忘れてた」
ゾロ達の存在を。
いい加減ルフィに対してキレそうになってたゾロは、
その頭を一発殴りつけた。
「何すんだよ!!」
「何じゃねェだろ!!
 世話かけさせんじゃねェ!!!」
そこでギャーギャーと言い合いが始まる。
困った様にウソップは頭を掻いた。
その時。

 

見てしまった。

横から延びてくる手を。

奪われる、刀を。

ちょうど腰帯の高さに自分の目があったので気がつけたのだろう。

 

…ひったくりだ!!

 

そう思ってゾロに知らせようと見上げるが、
まだ怒鳴りあっているゾロは全く気付かない。
この人込みの中でひったくりなどよくある事。
あたふたとしている内に、刀を奪った手が逃げて行く。

 

『宝物なのか?』

『そうだな』

 

昼間の会話がウソップの脳裏をよぎる。
あの刀は、ゾロの大切な刀。
なくなったら、きっとゾロは悲しむ。

 

 

ウソップは脇目も振らずに刀を追いかけ始めた。
人込みで上手く進めないのか、相手のスピードもそんなに速くはない。
小さなウソップでも、充分に追いかけられる。
離れるなというゾロの言葉などすっかり忘れていた。

 

ゾロの宝を取り返したい。
ただ、それだけ。

 

 

 

<続>