<ACCIDENT・14>
今夜は満月だった。
何もない海の上で、ぽっかりと黄色く光ってる。
俺とゾロは、甲板で月を見ながら喋ってた。
ホントに何でもない、他愛のない会話。
「結局の所、何でお前がそんな目に合ってんだ?」
「ゾロ…今更そんなコト聞くか普通」
「何かよく解んねェ実を食ったんだろ?それは解ってんだけどよ」
「いや、その実を取り合って、ルフィとサンジが喧嘩してたんだよ。
何か止まりそうもねェから俺が取り上げて……食っちまった」
「……バカかお前」
「買oカってゆーな!!!!」
心底呆れた目をしてゾロが俺を見てる。
うわー、今頃そういう事言うか。傷ついちゃうぞ俺様。
でも、ゾロは優しい顔してた。
なんか普段とか戦ってる時とか、そういうのじゃなくて。
どっちかっていうと…寝てる時みたいな?
それから、いっぱい抱き締めてくれて…いっぱいキスしてくれた。
忘れるってこと、やっぱり怖いものは怖いけど…それでも、
ゾロが一緒にいてくれたらどうにかしてくれる。
そんな気がしたんだ。
我慢するなってゾロも言ってくれた事だし、目一杯甘えてみようかと思う。
全部、任せてみようって。
眠くなってきて大きな欠伸してると、ゾロがベッドに連れてってくれた。
ちょっと詰めろって言うから横にズレると、ゾロも入ってくる。
ぎゅって抱き締められて、俺も大きな背中に手を回した。
「…ゾロ、好きだよ。大好きだ」
そう言ったら、ゾロが幸せそうに笑ってくれた。
その笑顔も俺のこの気持ちも、俺にとっては大切なタカラモノ。
それは忘れてしまっても、きっとこの手の中には残ってるから。
ゾロにそう話したら、キスされた。
「ありがとな」
そう言われて、俺もどういたしまして、って答えた。
だいじょうぶ。
きっと、だいじょうぶなんだ。
それから少しだけ、ゾロは俺を抱いた。
大丈夫だって言ったんだけど、傷とか小さくなった俺の体とか考えたみたいで、
ゾロは最後までやらなかった。
ただ体中に口付けられて、好きだって何度も囁かれて。
それだけの事だった。
脇腹の傷を見て少しだけ申し訳なさそうな顔をしたから、
その両頬を挟むようにぺちんって軽く叩いてやった。
コレは、俺の勲章なんだからそんな顔すんじゃねぇって言ったら
解ったって言ってまた笑った。
なんてんだろ、こんな気持ち。
ああ、幸せって言うんだ。
急に眠気が強くなったからウトウトしてると、
ゾロに眠ってもいいからって言われた。
だから、遠慮なく睡魔に任せて落ちていった。
その後の事は、俺は知らない。
夢を見た。
母ちゃんが死ぬ時の夢。
父ちゃんが海へ出る時の夢。
母ちゃんが死んでから、父ちゃんの夢もしょっちゅう見るようになった。
目が覚めた時はいつも胸にぽっかり穴が開いたようなカンジで。
一人で泣いてる。
いつも。
でも、今日は違った夢を見た。
緑色した髪の人が、オレの方見て笑ってた。
オレの知らない人。
呼びとめて話をしたかったけど、声が出なかった。
誰なんだろう。
どこで会った人なんだろう。
母ちゃんが死んだ夢とも父ちゃんが海へ出た夢とも違う、ホントに何でもない夢。
なのに……涙が止まらなかった。
夢の中のオレは、大声で泣き喚いてた。
どうしてか……わかんないけど。
そこで、ウソップは目が覚めた。
波の音がやたら大きく聞こえる。
夢を見ながら泣いていたのだろうか、目尻に残る涙を擦って大きく伸びをする。
どんな夢を見ていたかは覚えてなかった。
ベッドを降りようとして…動きを止めた。
目を丸くして、隣で眠る男を凝視している。
「…………えええ?」
キョロキョロ辺りを見回す。
見た事のない部屋。
知らない男。
自分の身に何が起こったかすら解らない。
頭をパニックにしながらも、ウソップは静かにベッドを降りて小窓から外を眺めた。
全く覚えのない場所。
自分の村じゃないという事は解る。
「……う〜〜〜ん…」
程なくして、ゾロが目を覚ました。
それに声も出ない程驚いて、ウソップは近くにあった椅子を盾にするように置くと、
そこからゾロの様子を見た。
「…何だよウソップ、もう起きたのか」
目を擦って欠伸をしながらゾロが起き上がる。
ウソップが、怯えながらも震える声で叫んだ。
「お…お前誰だっ!?人さらいかっっ!!??」
「…………はぁ…?お前、何言って……!?」
ゾロは半分寝惚けて生返事を返す。
だが、一瞬にして目が覚めた。
「ウソップ…!?」
「う…うちは父ちゃんは出て行ったし、母ちゃんは死んじまった!!
金なんかちょっともねェからな!!!」
完全に怯えた様子で、近付こうともしない。
警戒心剥き出しでウソップは椅子の後ろから顔を覗かせている。
「…マジかよ…」
ゾロは頭を抱えた。
<続>