<ACCIDENT・12>
最後の一人を倒して、ルフィはパンパンとズボンの汚れを払った。
「よし、終わり!!」
「頭数だけ揃えたって感じだったな。手応えがねェ」
刀を鞘に収め、ゾロもつまらなさそうに言う。
その時、遠くからざわめきが聞こえた。
「あっちだ!!」
「手配書の奴に間違いないな!!」
揃いのカモメのマークの入った帽子。
海軍だ。
「……厄介なのが出てきたな」
あれだけ騒いで目立たない方がおかしい。
「倒しちまうか?ついでだし」
肩を回しながらルフィが言うのに、ゾロは呆れた目を向けた。
「お前、まだ賞金の額上げる気か?」
「ししし。それもいいな」
そんなやりとりをしている間にも、海軍との距離がどんどん縮まっていく。
「付き合ってられるか。
ウソップもいるんだ、とっととズラかるぞ!」
「おう!ウソップ、逃げるぞ〜〜!!」
ゾロとルフィが走り出す。が。
「うわっ!!」
ルフィが驚いて飛びのく。その場所を銃弾が掠めた。
「撃ってきやがったぞ!!」
「どうあっても捕まえたいらしいな」
ウソップは、鞄からパチンコと特製の玉を取り出した。
2人は逃げると言っていた。
ならば、自分の役目は決まってる。
パチンコに玉を番えて、引き絞りながら狙いを定めた。
狙いに関してなら、自信は充分。
「必殺!煙星!!!」
玉を海軍に向かって放つ。
それは真っ直ぐ進み、海軍の足元の地面に命中した。
「うわっ!!」
撒き散らされた煙が、彼等の視界を奪う。
「今の内だ!!」
「ウソップ、来い!!」
下でゾロが両腕を広げている。
ウソップは小さく笑ってパチンコを鞄にしまうと、迷うことなく飛び降りた。
ようやく海軍が煙から抜け出した時には、3人の姿は既に消えていた。
「なぁ〜。もうバレてんだろ?
こんなトコに長居してたら見つかっちまうんじゃねーか?」
場所は大通り。
ウソップは呆れながらルフィについて行く。
「そうだなぁ。どこに行ってもバレるんだから、いいんじゃねーの?
堂々と歩いたってさ」
しししし、と笑いながらルフィが答える。
それにゾロとウソップはため息をついた。
うちの船長は、本当にマイペースだと。
「あ!アレ美味そうだな〜〜vv」
目をキラキラさせて、そんな2人を全く気にせずルフィは出店に駆け寄って行く。
「全く…アイツ、ちゃんと金持ってんだろうな…」
世話の焼ける船長だと頭を掻いて、ゾロはルフィを追い掛ける。
「ゾロ」
しかしウソップは前には進まず、代わりにゾロを呼び止めた。
「どうした?」
「俺もあれ食いたい」
「……お前なぁ」
「さっき買い物しすぎてさ、実は持ち合わせがなくってvv」
「ヘーヘー解ったよ。ちょっと待ってろ」
「やった〜〜〜vv ゾロ好きだ〜〜〜vvvv」
「ったく、現金なヤツだなお前は」
仕方なさそうに苦笑して、ゾロはゆっくりルフィの元へと歩いて行った。
「ホントだよ。ゾロ、…………大好きだからな」
きっと、ゾロには聞こえていないだろう。
小さく微笑むと、ウソップは人込みに紛れて走り出した。
どこか、遠くへ。
ゾロの傍にいたくなかった。
忘れたくないのに、忘れていく自分が許せない。
自分じゃどうにもできない事なんか解っている。
でも…それでは心が納得しなかった。
ただ、怖かった。
逃げ出したい衝動に駆られた。
……ゾロの目の前で、全てを忘れてしまう前に。
「お前、いくつ食うつもりだったんだ!?」
「あるだけ全部」
「けっ、言ってろ」
ルフィが出店の主人に『全部くれ』とか言うものだから、
買うだけで結構な時間が過ぎてしまった。
「だって、さっき暴れ過ぎてハラ減ったんだもんよ〜」
「この食欲魔人が」
歩みを止めて、ゾロが辺りを見回した。
「…ウソップがいねぇ」
「アレ?ドコ行ったんだ??」
ルフィもキョロキョロとあちこちに目を向けるが、ウソップの姿は影も形もなかった。
「海軍にとっ捕まったのかな?」
「縁起でもないこと言うんじゃねェ!!…とにかく探すぞ」
「わかった!!」
ルフィも神妙な顔でこくりと頷き、2人は別れて走り出した。
<続>