<ACCIDENT・10>

 

 

 

街に出たウソップは、いつも以上にはしゃいでいた。
ルフィと一緒になって、喋ったり走ったり、そして笑ったり。
そうしなければ不安に押し潰されそうだった。
だから、そんなコトを考えるヒマを自分自身に与えないように。
こんな悲しい笑みを零すウソップを、ゾロは初めて見た。

 

 

「ん…?」
少し大通りから外れた静かな路地を歩いていると、ルフィが立ち止まって眉を顰めた。
ゾロも周囲に目をやると、刀に手を添える。いつでも抜けるように。
ウソップはまだよく解っていないようで、キョロキョロ辺りを見回している。
「…囲まれたか」
ゾロが言う。ルフィが頷く。
大きな街に行くとよくある事。
賞金稼ぎがルフィとその一味の首を狙うのだ。
そして、もうひとつの注意点。
こういう大きな街には必ずあるのだ。海軍の支部が。
だから本当は面倒事は避けたい所なのだが。
「どうあっても俺達を仕留めたいみてぇだな」
「戦うのかっ!?よし行けゾロ!!」
「何言ってんだ。お前も戦えよ」
「俺は非戦闘員なんだ!!」
「オマエな…」
ウソップが遠くで胸を張り威張るのを見て、ゾロがため息をつく。
こういう所などは、本当にいつものウソップのままだ。
ルフィは公然と暴れられるのが楽しみなようで、軽く準備運動なんかしている。
そしてウソップを見て手招きをした。
「なんだ、ルフィ?」
ととと、と小走りに駆け寄って、ウソップはルフィを見上げる。
暫くまじまじとウソップを眺めていたルフィが、おもむろにウソップを抱き上げた。
「何してんだよ」
「…………とうっ!!」
ゾロが訝しげに訊ねるのを無視して、ルフィは近くにあった木のてっぺん向かって
ウソップを投げ飛ばした。
「狽ャゃああああ!!!!!」
「何してんだテメーーーーーーー!!!!!」
凄い勢いで飛ばされたウソップは、叫びながらもなんとか木の枝に掴まる。
ゾロが凄い形相でルフィを睨みつけるが、ルフィは全く悪気がない表情で笑いながら言った。
「しししし、邪魔」
「だからって投げるか普通!!ウソップは怪我してるんだぞ!!」
「あ〜〜……悪い、忘れてた」
さらっと言うルフィ。ゾロは本気で斬ってやろうかと考えた。
「ウソップ〜!!怪我ねぇか〜〜?」
「ていうか俺は怪我人なんだよ!!バカかテメェ!!」
木の枝に座り、ウソップがルフィに向かって怒鳴る。
「よぉ〜し、大丈夫だな!!そこで見とけ、すぐ済むからな〜〜!!」
ルフィはぶんぶんと大きく手を振って、ニヤリと笑った。
「今度はやられねぇ」
以前の船上での出来事は、ルフィなりにショックを受けていた。
自分の大事な仲間が傷を負って、それでも平気でいられる船長じゃない。
ゾロは呆れたようにルフィを見ると、肩を竦めて刀を抜いた。
こうしている間にも周りからの殺気が感じられる。
先程のルフィの行動に関しては、この不届きな輩を殲滅させてからだ。

 

 

 

 

頭痛がする。
ウソップは眩暈がするのを我慢しながら、ルフィとゾロが戦う様を見つめていた。
どうしてこんなに頭が痛いんだろう。
目を、ルフィ達から街並みへ向けた。
見慣れない街。
どこだろう、ココは。
そう思って辺りを見回す。
自分の家がどこにもない…という事は、当然ながら自分の村じゃないワケで。
そもそもこんな大きな街じゃない。村っていうぐらいなのだから。
「俺…ココで何してんだ…?」
呆然とウソップは呟いた。
カヤを、そして村の人達を守る為に戦ったのは、つい今朝方の事じゃなかったか。
一人で海へ出ようと決めた…筈。
何故目の前にまだ、共に戦った男達がいるのだろう。
そして今度は誰と戦っているのだろう。
ゆっくりと、木から落ちないように気をつけながら、ウソップは立ち上がった。
脇腹が痛い。
手を這わせると、縫い傷。
何時の間にこんな傷をつけたのだろう。
誰に治してもらったのだろう。
「村は…どこだ…?」
カヤに、別れも告げてない。
ウソップ海賊団にも、何の報告もしていない。
ここが何処なのかは解らないけれど、無性に村に戻りたい気にさせられた。
しかし、それと同時に頭に響く声。

 

『いいから早く乗れよ』

『俺達もう仲間だろ?』

 

まだ仲間になったわけじゃない。共に戦っただけで。
そもそも海に出ること自体言ってないのに。
なのに、どうしてその言葉が出てくるのか。
どうしてそれが、遠い昔のような気がするのか。
「……どうなってんだよ……」
ウソップは頭を抱えた。何が何だかもう解らない。

 

 

 

<続>