もう走れない。
たまらずその場に膝をつく。
何とか倒れこむのは避けるように両手を地面につけて荒く呼吸を繰り返す。
はたはたと、大地に血が零れ落ちた。
もう、ここまでか。
<The bird to fly in the air for you.>
戦争が始まって、まだそう時は過ぎていない。
当初から前線に放り込まれて戦ってきて、沢山の仲間達が倒れ、死んでいくのを見た。
恐らくもうすぐ、自分も同じ道を歩むのだろう。
木ノ葉へ報告へ向かう途中に敵の一部隊と遭遇し、戦闘になった。
援軍を呼びに行こうとしているのが発覚したのだろうか。
追っ手を振り切ったまではいいが、自分も傷を負い、体力ももう限界だった。
深い森の中、まだそこを抜けるには道程は長い。
木ノ葉まで戻ろうと思ったら、更にその道は遠のく。
深く吐息を零すと、崩れ落ちるようにその場に倒れる。
頬に感じた地面の冷たさが心地よくて、カカシはそのまま目を閉じた。
きっと、このまま。
「…………おい、大丈夫か?
お前……もしかして、もう死ぬのか?」
耳に飛び込んできた声と、ぺちぺちと頬に触れる柔らかい感触。
億劫に思いながらも両目を開けば、視界に入ったのはなんとも不思議な光景だった。
「お、目が覚めたか。
まだ息があったようで良かった良かった。
ちょっと待ってろ、今……」
ごそごそと腰元のポーチを漁りながら、何かを探しているのだろう相手を
何とも言えない気持ちで眺めていた。
なんだろう、これは。
なんだろう、こいつは。
人の姿をしているようであるが、到底人間とは思えない大きさだ。
恐らく掌に乗せることができそうなぐらいの小ささで、そして背中には
羽が生えている。
(……とうとうお迎えが来たかな?)
そう思いはすれども、その相手は腰元に木ノ葉の額当てをしているのだ。
木ノ葉印のお迎えというのもどうかと思う。
俺ってばそこまで木ノ葉を愛してたつもり無いんだけど、などと考えていたら、
漸く探し物が見つかったのか、手に浅黄色の草を握って相手は誇らしげに笑った。
「お、あったあった!
怪我に効く薬草だ。
少ししか無いから、一番大きな傷にだけだがな、無いよりマシだ」
「お前………一体なんなの…?」
脇腹の切り傷が一番重いと判断したのか、その羽を生やした小さな人は、
草を歯で噛んで磨り潰して傷の上からぺたりと貼り付けていった。
そんな作業を目で追いながら、カカシが疲れたような声を出す。
それも仕方の無い話だ、この現状に全然頭がついていっていない。
「ん?俺か?
俺の名前はマイト・ガイだ!!よろしくな!!」
「あー………別に、名前訊いてんじゃないんだけど……」
まあいいや、と半ば投げやりに考えて、カカシはそこで思考を中断した。
思ったよりも出血が多かったか、頭がぼんやりと霞みががってきている。
「だから……お前、なんなの…?」
「なんなのって、だから………え、あ、おい!?
しっかりしろッ!!こら、死ぬな!!」
べちべちと頬を叩く手はあったが、残念ながらこれっぽっちも痛くない。
これだけ小さな掌では仕方無い話ではあるが。
ガイって言ったっけ?それにしたって濃い顔だな……なんて事を考えながら、
カカシの意識はそこでフェードアウトしてしまった。
「あ、こら!!…………しょうがない、な。
木ノ葉か……それならすぐだ、ちょっと行ってきてやるか」
本来ならば素通りするつもりだったのだが、どうしてだろうか、彼が倒れて
いるのを見た時に、助けなければとそんな風に考えてしまった。
助けなければ、きっと自分は後悔する。
「もう……戻る気は無かったのだがな……」
しょうがない、と呟くと、ガイは翼を広げて空へと舞い上がった。
木ノ葉の里まで自分のスピードならば半日もかからないだろう。
「行くぞッ!青春フルパワーーー!!!」
大きく翼を羽ばたかせたかと思うと、ガイの姿はあっという間に見えなくなった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「なに!!それは……本当か!?」
「………はぁ、」
木ノ葉の里のトップに立っている火影の部屋、そこでガイは困ったように頭を掻いた。
知らない間にまた火影が変わっている。
しかも今度は伝説の三忍と謳われた一人、綱手姫だ。
これには少し驚いた様子を見せたガイだったが、気を取り直して事の経緯を話すと、
綱手はすぐに増援部隊と、カカシの元へ救援部隊を向かわせてくれたようだった。
それにホッと胸を撫で下ろして、これで用は済んだとガイはまた入ってきた窓から
出て行こうとした、その背中に綱手の声がかかる。
「それで?お前は何処へ行くと言うんだ………ガイ」
「いえ、別に………何処という、ことも」
「お前が姿を消して……三代目も、他の皆も随分お前を捜したんだぞ。
今までどこをほっつき歩いていたんだ」
「………………。」
「もう、充分だろう?戻って来い、ガイ」
綱手の言葉に返事をする事無く、ガイは窓から飛び立っていった。
その姿を見送って、綱手が僅かに眉根を寄せる。
「もう………自分を許してやれ、ガイ」
あれは、誰の責任でも無かったのだから。
ましてや、ガイの責任でなんかあるはずが、無いのだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
次に目を覚ました時には森の中ではなく、病院にいた。
ぼんやりとした視線を周囲に向けると、気がついたか、と声をかけられて
その方を向けば、窓際に凭れかかるようにして綱手が佇んでいた。
「………生きてましたか、俺」
「もう少し遅かったら危なかったがな、ま、ギリギリで間に合ったよ」
「そういえば………なんか、変な人だか鳥だかに……」
「ガイと話したのか、お前」
こくりと頷いて言った綱手に知っているのかと問い掛ければ、お前が危ないと
報せに来てくれたのもそいつだ、と綱手は笑った。
「あれ……何なんでしょう?」
「あれって………ああ、もしかしてお前、ガイを知らなかったのか?」
「ええ、まぁ」
「あいつは………以前、木ノ葉で最速と言われていた忍鳥だ」
「………え?」
忍鳥と言えば、主に密書運搬を担っているに忍の鳥だ。
カカシにだって何匹かは面識もあれば、任務に必要で借り受けたこともある。
だが、あんな忍鳥は見たこと無かった。少なくとも鳥じゃない。
大体にして、あの濃さは一度見たなら忘れないだろう。
「忍の獣たちの中で稀に起こる、突然変異なんだが……とりあえず、
細かい話は置いておこう。
ガイはずっと木ノ葉で忍鳥として任務をこなしていたが……、
九尾の一件があった後に、姿を消してな」
「………はぁ、」
「見てくれはああだが、有能な奴だ。
随分捜しはしたんだが……見つからず終いで諦めていた。
まさか、今になって出てくるとは思わなかったがな」
突然変異でどうこうという話はさておき、有能なのは納得がいく。
確かに自分と会話もしていたし、己で考えて最善の行動をしてみせた。
それだけの応用力があるのなら密書運搬以外にも活用方法はいくらだってある。
いわば、人間に羽が生えたようなものなのだ。
加えて木ノ葉最速とくれば、言う事なしだろう。
「それで……アイツは、どうしたんです?」
「さぁな、増援部隊の要請と、カカシ、お前の救出だけ頼んで……
また何処かへ行ってしまった」
「………そうですか」
暫くは安静だから寝ていろと言い残して、綱手は病室を出て行った。
誰も居なくなった病室で、ベッドに横たわったまま窓の外を眺める。
この青空の中を飛び回っているのだろうか、あいつは。
礼を言いそびれたな、と呟いて、カカシはゆっくりと目を閉じた。
<続>
ちょっと書きたくなってしまって、気がついたら書いてました。(笑)
テニスならともかく、ナルトでこういったパラレルってどこまで受け入れられるのか
凄く凄く不安でしょうがないのですが。(汗)
またスレ部屋とは違った感覚で、楽しい話が書けるといいです。
あ、と。
入り口でも述べてます通り、100%捏造ですので原作ストーリーとは
一切が変わってます。ついてこれる方のみ今後とも宜しくお願いしますということで。
想像以上にカカシとガイ鳥の出会いがシリアスじみてて自分でビックリでした。
というよりは、予想以上にガイ鳥の過去が暗くなった。(笑)
別に私はそれでも構わないのですが。暗い過去を持てば持つ程、深く味のある男に
なりますからね!!(忍鳥前提でどこまでを求める気だ…!?)
なにはともあれ、あと半分。
ガイ鳥がカカシのパートナーになるまで頑張るぞー!!