この巨大な塔を倒そうとか壊そうなどという風には考えていない。
たった一人で抗うには、この建造物は大きすぎた。
目的はただひとつ、カカシを見つけて連れ戻す。
それだけだった。
「とはいえ、何処をどう捜したものか……」
子供達のように、微かにでもその存在を感じ取ることができれば良いが、
残念ながら石造りの塔の内部はただ冷えた空気が流れるだけで、何の気配も
感じ取ることができなかった。
奥に階段を見つけたので、周囲に気を配りながらガイはその方へと歩いて行く。
確かネジに聞いた話によると、この階段の上で幻術にかけられたのだったか。
「建物にしか見えないのに………これでも生き物なのか…」
手摺に手を這わせると、ちゃんと冷たい石の感触がする。
一段一段を確かめるように歩きながら、螺旋状に延びる階段を上がっていくと
程なくして踊り場に辿り着いた。
「………これは…、」
ぐるりと周囲を見回して、ガイは僅かに眉根を寄せた。
確かネジは『真っ白な空間』と言った。
リーは覚えていないと言う。
そしてテンテンは『出口の無い迷路』と言った。
一致しない言葉ではあったが、今目の前に広がる光景は、そのどれとも違う。
踊り場を挟んで階段の反対側には、またも巨大な扉があった。
「そういう事か………しまったな」
漸くネジの言葉の全てが飲み込めた。
彼の言った事は正確にいえば間違いだ。
厳密に言えば、入り口の扉を潜った時点で、既に幻術は始まっていたのだ。
「というよりは………内部自体が幻術という可能性も、あるな」
どちらにせよ、これは相当慎重に進まなければ自分も子供達と同じ道を歩みかねない。
面倒なことになったなと呟きを漏らし、ガイは奥の扉へ手をかけた。
開かない。
「…………おい。」
押しても引いてもビクともしない。
鍵でも掛かっているかのような、そんな手応えを残すのみで、その扉が
先を示してくれることはなかった。
「ちょ、待て、これでは先に進めんではないか…!!」
すっかり出端を挫かれて、ガイが慌てふためいたようにガチャガチャと扉を揺らす。
どうにもならないと判断したか、諦めたように扉から手を離すとガイは2歩ほど
後ろへ下がった。
押しても引いても駄目なら、実力行使で砕くまで。
拳を握り締めて、気合いを込めると右の腕を真っ直ぐに突き出す。
周囲に、岩の砕かれる轟音が響き渡った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
安否の気遣われていたカカシであるが、彼は現在塔の内部にいた。
位置としては4階辺りだろうか。
全てが幻術で成り立っているこの塔の内部では時間の感覚が全く掴めないでいたが、
おおよそでこの塔の仕組みや成り立ちについては把握ができてきた。
人を誘い込み糧として取り込んでチャクラを得、そしてそのチャクラでこの塔はまず
己の存在を幻に変えた。
もちろん自分自身を幻にしてしまうなんて無理な話だ、周囲の人々、そして内部に
侵入してきた相手に対して、そのように見せかけているという事になる。
単純な自己防衛本能の成せる技だ。
その幻を掻い潜って、気が付けばカカシは塔の中腹ぐらいにまで辿り着いていた。
「………急がないと、俺もヤバイかもな」
ガイ班の子供達が来た事により、思わぬ所で時間をロスしてしまった。
この塔に関してポイントは2つある。
ひとつは幻術、もうひとつは時間だ。
内部に侵入した人間を逃がさないようにするためだろう、幻術をかけた
相手に対して塔はまずその動きを封じてしまう。
ガイ班の子供達が受けたような、外傷の攻撃だ。
だから、それが起こる前に幻術を破ってしまう必要がある。
正直にいえば、カカシは写輪眼のおかげで免れたといって良い。
幻術を破りさえすれば、外傷を狙った攻撃を避けることは容易いことだった。
ただ、問題としている『時間』とは、これのことではない。
実際のところ、幻術に幻術を重ねてかけられているような状態で、今自分が立っている
この場所が現実なのか幻なのかの区別をつけるのは簡単な事ではなかった。
時間の感覚すら麻痺してしまうこの状況で、塔に入ってからどれだけの時間が経ったかを
知る術はない。
つまり時間とは、自分がこの塔に『完全に取り込まれてしまう』までの時間を指す。
このまま塔から出ることができなければ、自分はこの世界から消えてしまっているという
事実にすら気付くことなく永遠にこの場所を彷徨うことになるか、或いは自分でも
知らない内にこの身が消滅してしまうかするのだろう。
何も残さず取り込まれてしまうのだ、全てを塔の養分とされて。
現にじわじわとではあるが、何もしていないのに己のチャクラは失われつつあった。
(………ま、正気を保ってるだけまだマシか)
4階の幻術からは逃れられたが、だからといってのんびりしている暇はない。
早く上へ続く階段を捜して最上階を目指さなければ。
5階へと続く階段を見つけ、上を目指そうとしたその時。
「……!?」
階下でドン、と大きな地鳴りのような音がした。
そして地震のような揺れ。
何事かと思わず視線を下に向けるが、残念ながら知る事はできない。
「…また、誰か来たのか…?」
思わず舌打ちを零してカカシは眉を顰めた。
ガイ班の子供達を助けられたことも、殆ど偶然だったのだ。
下に戻ればまた幻術が待っている、それらを掻い潜って今下に居るのだろう
人間を助けに行く時間は、恐らくもう自分には残っていない。
「仕方ないか………誰かは知らないが恨むなよ」
ぽつりと独りごちて、カカシは上へと進むことに決めた。
仕方が無かったのだ、自分はまだ死ぬつもりはない。
<続>
折り返し地点にて漸くカカシが出せた…!!(笑)
カカシの安否を心配して下さっていた皆さま、彼はピンピンしております。
捕われの身もちょっと頭を掠めたのですが、そういうのはまたちょっと
うちのカカシやガイとは違うかな?とか思ったので、こんな具合で
追走劇の始まりというかなんというか。
ガイはカカシに追いつくことができるのか!?…みたいな。
そんな空気で頑張ります!!