日もすっかり沈み夜の藍が空を覆う頃、今日最後の回診だと言って綱手が
サクラを伴いやってきた。
やはりガイ班の連中は鍛え方が違う、とこの時になって綱手が感心の吐息を零す。
体力の回復量が半端ではない。
3人の中で一番軽傷だったとはいえ、重い傷と大量の出血をしていたというのに、
ネジなどは明日か明後日にでも家に帰らせて良いぐらいだ。
退屈だったのだろう、修行がしたいと言い出したリーには拳骨をお見舞いしておいた。
「経過は順調だな……とにかく、命があって良かった。
ただし、言いつけを破ったお前達には、退院したらこってりと仕置きを
してやるからな、覚悟をしておくんだよ」
にっこりと笑みを見せながらもそう言った綱手に、子供達は顔を見合わせ苦笑を
零すしか無かった。
医療器具を片付けながら、その様を眺めてサクラも笑顔を浮かべる。
とにかく無事で、良かったと。
そこへ、廊下の向こうから激しい足音をさせて走ってきたシズネが飛び込んできた。
「大変です、綱手さま!!」
やれやれと困ったように頭を掻いて、綱手が病室の入り口に視線を送る。
「……なんだい騒々しい。
病院なんだから、もう少し静かに…」
「ガイさんが何処にもいません!!」
「…………なに!?」
「一通り思い当たるところは捜しましたけれど、どこにも…。
今、他の者にも言って捜させていますが………もしかしたら、」
「あの、馬鹿たれが……」
綱手がシズネを使いにやったのは、そう大した用事でもない。
子供達の話を聞いた上で、どう行動するか、その真意を訊ねてみようと
思っただけだった。
だが、どうやらそれは一足遅かったらしい。
「どうします、綱手さま?」
「どうするって……ああもう、アタシにどうしろってんだい!!」
ガリガリと頭を掻き毟るようにして大仰に嘆く綱手を見て、サクラが
不安そうにリーの傍へと歩み寄った。
「リーさん………ガイ先生、もしかして塔へ…?」
「………大丈夫ですよ、サクラさん」
「え?」
「ガイ先生なら、きっと大丈夫です!!」
ビシっと親指を立てて笑いかけるリーだったが、きっと本当は彼も
不安で仕方無いのだろうと思う。
つい昨日に自分達が酷い目にあった場所だ、その場所の恐ろしさはきっと彼が、
そして彼と共に赴いたネジやテンテンが一番よく分かっている筈だ。
「だからサクラさん、カカシ先生も…きっと大丈夫ですから、」
「リーさん……」
「僕達は、待ちましょう。
2人が戻って来るのを信じて、待つしかないんです」
「…………はい」
リーの言葉に頷いて、サクラは窓の外に聳える塔へと目を向けた。
初めて目にした時から感じていた禍々しさが、より一掃強くなったような気がして、
サクラは強く拳を握り締めたのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
塔全体が見渡せる位置にある木の上で、ガイはただじっと目を向けていた。
子供達の話を聞いた中で、いくつか引っ掛かっている点がある。
それは勿論ネジの言った事も含まれているが、口には出さなかったものの
実際にはまだ不思議な事があるのだ。
ひとつは幻術。
3人それぞれに違った幻を、しかも同時に見せつける。
更には幻術をかけ続けた上で、相手を傷つける。
もし、塔を『生き物』と考えたとして……果たしてそれが、たった『一人』で
可能なのだろうか。
幻術そのもので傷つけるということも可能ではあるが、それはあくまで
精神的な攻撃でしかなく、ああまで外傷ではっきり残ったりはしないはずだ。
しかも、少なくとも幻術の内容を覚えていたネジとテンテンの話からは、
そういったものは窺えなかった。
塔の中に人間が潜んでいる可能性も捨てきれはしないが、もし塔が本当に
生き物であるのならば、まずそれは考えられない。
それこそ取り込まれて糧にされるのがオチだ。
そうならそうで、ネジの言うようにカカシがその中で自由を得ている理由が
説明つかないが。
更に言えば、自由が得られているならカカシはそこから出てくることが
不可能ではないのではないかと思える。
そこに自分の意思があれば、の話ではあるが。
もうひとつ、根底に戻ってしまうがカカシがあの塔へ向かった理由。
それもさっぱり見当がつかないでいた。
「………どちらにしろ、行ってみなければ何も分からんな」
覚悟が決まった、という言い方はおかしいかもしれないが、聞いてしまえば
もうガイに止まることなどできなかった。
まだカカシが生きているかもしれないと思ったら、なおのこと。
足は真っ直ぐに塔の方へ向かって駆けて行く。
鬱蒼とした森を抜けて、そうして程なく辿り着いたのは高く聳える塔。
傍から見た限りでは、あくまでもただの塔にしか見えない。
石造りの重い扉を軽く押し開けて中を覗き込むと、ガイは意を決したように
その身を滑り込ませた。
暫くの後、ギィ…と軋んだ音を上げて、扉は硬く閉ざされる。
ゆらり、と蜃気楼のように塔が大きく揺らめいた。
まるで全身で歓喜を表すかのように。
新たな贄の到着を、歓迎すると。
<続>
やっと行ってくれたよガイ先生…!!遅ぇよコノヤロー!!(><)
なんだかんだでこれで半分。
あとは結末に向けて一気に進めていくだけですね。
ではあと半分、お付き合い下さい(^^)