あの塔が現れた日、確かガイは言った。
あれには決して近付いてはならない。
近付いてしまったら……呪われるのだ、と。
なんとなくそれで想像してしまうのは幽霊屋敷とか、そういった類のものだ。
まるでお化け屋敷に入るかのような、そんな軽い気持ちしか、その時は無かった。
だがネジの見たものは、想像をはるかに超える存在。
「ありえないだろう…?
 塔に……大量のチャクラが流れているなんて」

 

 

 

 

要するにそれは、塔が『生き物』であるという証明であって、だがそれは理解すれど
目の前にあるのは単なる建造物、謎が解けたわけではない。
少し迷いはしたものの、中へ踏み込むために来たのだから、と3人は入り口である
大きな両開きの扉を開けたのだった。

 

 

 

 

「そ…それで……中は、どんな風だったんだ?」
息を呑んで訊ねてくる綱手にチラリと視線を向けた後、ネジは静かに目を伏せた。
「石造りの塔で、中は何も無い。奥には上へと続く螺旋階段があって……、
 怪しいとは思ったが、普通の塔のように思えた…………初めの内は」

 

 

 

 

異変に気付いたのはリー。
螺旋階段を上り始めたところで、彼は足を止めた。
「ちょっと待って下さい、何か……聞こえませんか?」
「な、何かって……何よ?」
「………なんでしょう……トクン、トクン、って………心臓の音、みたいな…」
「ちょ…気持ち悪いこと言わないでよ、リー!!」
だけど気になって仕方が無い。
ネジに目配せをすると彼は了解したようで、その特殊な目をもって様子を探ってくれた。
だが見えたのは、無機物の中に隠れるチャクラの流れ、それだけだ。
「気のせいじゃないか?」
「それならいいんですけど…」
「そうよ、きっとリーの気のせいよ、ほら、行きましょ」
2人にそう言われるとそれ以上の反論もしにくく、リーはまた階段を上っていく。
しかし無情にも、『それ』は直後に襲ってきた。

 

 

 

 

「……階段の先にあった部屋、そこに踏み込んだ瞬間……だった」

 

 

 

 

視界は白、飛び散るのは赤、響いたのはリーの、  絶叫。
「リー!!」
「待て、テンテン!!迂闊に近付いては…!!」
血塗れになってその場に倒れ込むリーへと駆け寄ろうとしたテンテンは、
彼と同じように足を止め、そして。

 

 

 

 

「テンテンにも、同じ事が…?」
「一瞬で身体中を切り刻むなんて……できるのか」
「斬られた瞬間は…俺にも見えなかった。
 いきなり身体中から血が吹き出すような…そんなイメージだ」
助けるために踏み入れば、自分にも同じ事が起こるかもしれない。
だが、ネジには2人をこのまま放っておくことなどできなかった。
「恐らく……幻術をかけ我を失わせ、その間に身体を傷つけ動けなくする。
 その後は……ゆっくり塔と同化させられていくのだろう」
「同化…?」
「言い方を変えるなら、塔の腹の中で消化されると言えばいいか?
 だから中に入った者は誰も戻らないし……痕跡すらも残さない」

 

 

 

 

真っ白な空間へ踏み込んで、ネジは軽く瞬きをする。
幻術がくるかと身構えていたのに、何故か何も起こらない。
ぐるりと辺りを見回して、ネジは唖然としてしまった。
「リー……テンテン、どこだ!?」
さっきまで目の前で倒れていた筈の2人の姿が何処にもない。
慌てて今入ってきた入り口を振り返ると、既にその姿は無く、
ただ前と変わらぬ白い空間が広がるのみ。
思わず強く唇を噛んで、ネジは己の不注意を後悔した。
違う、何も起こらなかったわけではない。
幻術はとっくに、とっくの昔に自分にもかけられていたのだ。
手探りで前に進んでみるものの、前も後ろも右も左も分からない状態では
進んでいるのか分からない、大体にして本当に自分が歩いているのかも
ハッキリしない。
音もない、気配もない、何もないその場所でたった一人。
決して狭い場所では無いはずなのに、感じたのは強い閉塞感だった。
息の詰まりそうな世界に思わず叫び出しそうになる。

 

 

 

 

「俺達があの塔から出られたのは……多分奇跡か偶然だ。
 きっとあのままでは、いずれ完全に取り込まれていただろうな。
 自分自身が……そうと気付かぬ内に」
「……もしかして、だからチャクラが流れているのか……?」
「ああ、なるほど………そうかもしれない」
綱手の呟きに、ネジが小さく頷いた。
塔に流れるチャクラは、恐らくそうやって取り込まれていった人々のもの。
だから定期的に『餌』が要る。
確かにそう考えた方が、無機物にチャクラがあると考えるよりも余程自然だ。
「…なら、どうやってお前達は出てきたんだ?」
「説明するのは少し、難しいが……」

 

 

 

 

ふいに、ぐいと誰かに手を引っ張られた気がして、ネジが思わず身を竦ませる。
周りには何も無い、何も見えない、だけど確かに腕が引き寄せられる。
なすがままに連れられた先、足元に手を這わされて、指先が凍りついたように固まった。
「何だ……?」
何かがあるのだ、この場所に。
感触だけで確かめていくと、それは人の身体。
腕に触れ、肩らしき部分に当たり、そのまま顔を撫で髪に触れ、初めてネジは
安堵の息を零した。
「リー…」
間違い無く此処にいるのだ、姿は見えないけれど視覚でなく触覚で繋がった事を知る。
「テンテンもいるのか…?」
呟くと、またぐいと腕を引かれる。
今度は近い。
歩かなくても腕を伸ばして済む範囲に、もう一人いることを知った。
テンテンだろう。
だが見つけたところで出口が分からなければ動きようが無い。
ためしに白眼を使ってみたが全くの無駄だった。
すると今度は立てと言わんばかりに腕を上へと引っ張られて、ネジは促されるままに
立ち上がった。
相手が何だか知らないが、今はもう任せるしかない。
トン、と肩を強く突き飛ばされ、ネジは思わず強く目を瞑った。
受け身を取るにもこの白い空間では何処が床なのか分からない。
距離感が掴めないのだ。
頭を庇うようにして床を転がり、気がつけば瞼を下ろしても眩しいぐらいの白だった
その世界が暗く歪んで。
突如全身に襲った激痛に声を上げそうになりながら、少しずつ闇に慣らして
瞼を上げたそこは、塔の入り口だった。
己の身体を見回して見れば、全身を何かに斬られたような状態で、手を持ち上げれば
指先からボタリと赤が零れ落ちる。
「………俺は………一体……?」
理解できなくて混乱した頭で階段の上の入り口を見上げると、そこから何かに
投げ飛ばされでもしたかのように、リーとテンテンが放り出されてきた。
「……っ、リー……テンテン……」
足に力を入れてなんとか立ち上がると、痛みを堪えながら2人の元へとネジは歩み寄る。
「おい、しっかりしろ、2人とも…!!」
見れば2人とも全身から血を流している。
やはりあの時見た姿は、幻影でも何でもなくて、現実。
「くそ………死なせてたまるか……!!」
まだ自分に意識があって、動けることを幸運だと思った。
連れて帰ることができる。
医師を呼ぶこともできる。
まだ、助けられるのだ。
そう考えれば、自分の傷も身体の痛みも、どうでも良く思えてくる。
テンテンを腕に抱えリーを背中に負ぶって、ネジは足を踏み出した。
木ノ葉の里へと向かって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの塔には何かがいる。
 それが敵なのか味方なのか、塔に住まうものか喰われたものか、
 もしくは塔自身なのか………それは分からないけどな」
これで全部だ、と告げてネジは少し疲れたような吐息を零した。
誰が何と言おうと、二度とあの塔には近づきたくない。
取り込まれなかっただけ、命があっただけ儲けものだ。

 

「呪いか………上手いことを言ったもんだ。
 塔が生きて人を喰うだなんて、言ったところで誰も信じやしないだろう」

 

ふいにネジが視線をリーの方へと向けた。
変わらず昏々と眠り続ける彼、そしてもうひとつ向こうのベッドに寝かされている
テンテン、この2人はどんな幻を見せられたのだろうか。
それは分からないけれど、ただひとつ。
「もう、俺はあの塔に関わりたくない。
 興味を持って誰が行こうが、知ったことじゃない。
 俺はリーとテンテンが目を覚ましてくれたなら、もうそれでいい」
「ネジ…」
「ガイ、あんたが何をどう考えているかは知らないが…、
 とにかく俺は、あんたにも行くなと言っておく」
あんな巨大なものの前に、人間なんて何ができると言う。
例えガイがどれだけ強靭な肉体を持っていて腕っ節に自信があったとしても、
あの塔を外から一撃で破壊できるかと問われれば、答えはNOだ。

 

「…………怖いんだ」

 

大事なものだから、なおさら。
呟いて布団を頭まで被ってしまったネジに、ガイと綱手は言葉無く顔を見合わせる
ことしかできなかった。

 

 

 

 

 

<続>

 

 

 

 

 

久し振りに続けてみました。
この話、一旦下げて練り直そうかなとも考えたのですが、
なんとかなりそう、と思ったので。
もしかしたらラストで若干ツジツマが合わなくなるかもしれませんが。(汗)
できる限り頑張ってみようかと。

ネジは、カカシよりもリーやテンテンそしてガイの方が大事なだけです。
彼らを守るのにどうしても必要ならば、きっとカカシを見捨てることも
厭わないと思います。
それぐらい、ネジがガイ班の仲間達を大事にしているといいな、っていう
私の願望なんですけどね。(^^;)
同じ日向の一族の誰よりも、他のどの友人よりも、彼らが一番大事。

…まぁ、口に出して言うことなんて永遠にないと思いますけど。
言わないだけでそう思ってるといいな、っていう希望。