まだ朝靄の立ち込める早朝。
巡回をしていた忍が、思わず足を竦ませるほどの血を見た。
「頼む……2人を………助けてくれ…!!」
それは、テンテンを腕に抱きリーを背負った、ネジの姿。
朝は綱手よりサクラの方が早起きだ。
ただ単に性根が遊び好きな綱手が夜更かしをしてるだけであって、
サクラが早起きというより彼女が遅いだけだ。
だから、先に連絡を受け駆けつけたのも、サクラだった。
「酷い……何があったの……!?」
思わず口元に手を当てて、こみ上げる吐き気を堪える。
リーもネジも、そしてテンテンも、身体中を切り裂かれて血塗れだ。
それも半端ではない箇所で、全身くまなくと言った方が早い。
ネジは2人を連れて帰って来ただけあって、まだ浅く呼吸があるが、
リーとテンテンはそれも怪しい。
聞けばネジも助けを乞うた直後に意識を失ったのだという。
「とにかく、すぐに病院へ。
集中治療室を借りて下さい!
私も綱手師匠を叩き起こして、すぐに行きます!!」
サクラの言葉に頷くと、そこに居た忍は3人を連れて走っていった。
その石畳にも、色濃く血の跡が残っている。
赤黒い染みを見つめて唇を噛み締めると、サクラは立ち上がった。
モタモタしてるヒマなんてない。
火影の家へと向かい乱暴に扉を開けると、起きたところなのだろう
シズネが半分眠たそうにしながら出迎えてくれた。
「サクラちゃん!?どうしたのそんな慌てて……」
「緊急事態です、師匠を起こしましょう!!」
「ええッ!?そ…それは…ッ!!」
寝起きの悪い綱手を起こすのは自殺行為でもある事を知っているシズネは、
サクラの言葉に驚いた声を上げる。
普段は自発的に起きるのを待つのが平和的解決法なのだが、今はそんな事を
言っていられない。
「師匠は私が起こしますから、シズネさんはガイ先生を呼んで来て下さい!」
「………どういうこと?」
さすがに異常事態だという事に気付いたか、シズネが訝しげに眉を顰めた。
「ガイ先生のところの3人が、大怪我をしてるんです。
それも……命に関わりそうな。とにかく一刻を争うんで……」
「本当かい、それ」
バタン!と勢い良く寝室のドアが開かれ、出てきたのはこれから起こそうと思っていた
綱手その人だ。
一瞬だけ安堵の表情を見せたが、サクラはすぐにそれを引き締めコクリと頷いた。
「全身を斬られています。
ざっと見た限りでは……傷そのものよりも出血量の方が心配です。
意識は既に3人ともありません。
病院へ運んでもらいましたから、とにかくすぐに!!」
「……分かった」
サクラの言葉に頷いて、綱手は屋敷を飛び出した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
綱手とサクラ、そしてすぐに動くことのできる医師が全員総出で治療に当たったからか、
思ったよりも早く3人の傷は癒すことができた。
だが問題なのは、サクラも言った通り、その失血量だ。
輸血はしているが、彼らの体力が先に尽きてしまわない事を祈るしかない。
「大丈夫ですよきっと……ガイ先生のところの面々ですから。
体力なら私達なんかよりズバ抜けてる筈です」
「…………ありがとうな、サクラくん」
彼女なりの励ましを受けて、ガイは僅かに笑みを浮かべた。
シズネに事情を聞いて病院まで飛んできたが、まだ面会謝絶のままだ。
自分を連れて来た後、シズネもすぐに子供達の治療に当たり、入れ替わりに
少し疲れた表情をしたサクラが集中治療室から姿を現した。
そこで粗方の話を聞いたのだが、分からないのはどうやって彼らが
あんな傷を負う事になったのかということ。
昨日の今日だ、何処へ向かったかはガイには予想がついている。
あれほど行くなと言ったのに。
「ガイ……ネジが目を覚ましたよ」
目の前のドアが開いて、綱手が顔を覗かせた。
「綱手様、あいつらは……!!」
「ネジは思ったより軽傷だったからね、……お前と話がしたいそうだ。
リーとテンテンは………まだ、何とも言えないが」
とりあえず入りな、という綱手の言葉に頷いて、ガイが室内へと足を踏み入れた。
3つ並んだベッドには、それぞれリーとネジとテンテンが横たえられている。
ネジだけがその目を開き、視線がガイの姿を認めて僅かに揺れた。
「ネジ………大丈夫か?」
「…………。」
ベッドの傍に椅子を持って来て腰掛けながら問うガイに、だがネジは何も答えない。
心配そうに眉根を寄せて、ガイはその顔を覗き込んだ。
「…話せるか?」
「…………ああ。」
やや間をおいて、ネジの口から肯定する言葉が漏れる。
ホッと小さく安堵の吐息を零すと、ガイが静かに問い掛けた。
「お前達は行ったのだろう、あの塔へ」
「なに!?」
驚いた声を上げたのは、近くにいた綱手だ。
あれほど注意を呼びかけておいたというのに、そういう思いはあれど、だが今は
少しでも情報が欲しいところ。
「それは本当かい?ネジ」
「………はい」
細く小さい声音の返答は、それでも肯定だった。
「中に入ったのか?」
「…入りました」
「どんな状況だったんだ」
その問いに少し考えるような素振りを見せ、ネジはゆっくりと両手を天井に向けて
持ち上げる。
真っ白い包帯が幾重にも巻きつけられているその両手を見つめ、やがてその手は
ネジの顔を覆ってしまった。
「………行くんじゃなかった………」
「え…?」
ネジの言葉尻に微かな震えを感じ、ガイが驚いたような視線を向ける。
表情こそ両手に覆われて見えないが、その腕が小刻みに震えていて。
「あんな恐ろしい場所だと知っていれば………行かなかった………」
普段あんなに気丈で何事にも動じないネジが、こんなにも怯えている。
それだけで、この先を問う事などできなくなっていた。
ただその黒髪を撫で、「大丈夫、もう大丈夫だ」と宥めてやる事しか
ガイにはできなかった。
<続>
うーむ、ちょっとは話が前に進んだか、な…?
なんだかちんたらしててホントすいません。
ていうかコレ、ちゃんと終われるのかが心配だよわたしゃ…。(汗)
私の中ではどうも、ネジは強い子というイメージがあるらしい。
強い子。泣かない子。捻くれてるけど、どこか純なトコロが残ってる子。
そんなイメージですね。