カカシが消えた5日目の朝、リーは偶然サクラと出会った。
何をするでもない、ただ正門の近くに置かれたベンチに座ってブラブラと足を
動かしながら、サクラは門の外を見ているだけだ。
それを不思議に思って、リーはサクラに近付いた。
「おはようございます、サクラさん」
「あ……リーさん…おはようございます」
「どうしたんですか?こんな早くに一人で…」
「ええと……」
どう答えたものか、困ったように首を傾げて苦笑するサクラに、隣に座っても
構わないかと訊ねたら、サクラはこくりと首を縦に振った。
にこりと笑んでベンチに腰を下ろすと、サクラはおずおずと訊ねてきた。
「リーさん…怪我はもう大丈夫なんですか?」
「ええ、綱手様が手術して下さった後は、あっという間に身体の痛みも
 消えちゃいました」
「そう……良かったぁ……」
「サクラさんは、どうして此処に?」
「………理由は……特に、無いんです」
ただ何となく、足がこっちに向いてしまった。
サスケが居なくなり、ナルトも修行に出て、今度はカカシまでもが消えた。
なんだかんだで今は綱手が師匠だが、それでもやっぱり過去に培った絆は
そんな簡単に消えやしない。
ふと一人ぼっちになってしまったような気がして、少し不安になったのだ。
「サスケくん……は…無理でも………、ナルトかカカシ先生が、ひょっこり
 帰ってくるんじゃないかって思ったのかも……」
「……待ってたんですね、サクラさん」
「捜しに行きたいのは山々なんだけど……綱手師匠から強く止められてて」
悲しそうに寂しそうに笑うサクラの表情は、どこかリーをもどかしい気持ちにさせた。
早く見つけなければ、という焦燥感。
それは何もサクラの為だけでは無い、他にも必死に捜している里の皆の為でもあるし、
何より己の師であるガイの為でもあった。
今のリーには納得できない事がひとつある。
あのガイが、一向に動こうとしない事だ。
自分の知るマイト・ガイという男は、結果よりもとにかくその経緯に重点を置く。
つまり、見つかる見つからないよりも、捜すという行為を重要視するということだ。
なのにそんなガイが、今回は何故か全く動かないのだ。
いわばもう結論は出ているに近い。
あの『人喰い』と呼ばれる塔以外に、もう可能性は見出せないのに。
「サクラさん」
「はい?」
「サクラさんは……あの塔のこと、どんな風に思いますか?」
「あの塔って…綱手師匠が行っちゃいけないって言ってる…」
「そうです」
リーが頷いてみせると、サクラは視線を塔の方へと向けた。
蜃気楼のように揺らめく塔が、そこには変わらず存在している。
「……ハッキリした事は言えないけど……、なんだか…怖い、です」
「怖い……ですか?」
「近付いたら、呑み込まれそう」
「………。」
サクラの言葉に、リーも同じようにして塔を見上げた。
ぼんやりと浮かび上がるその塔の姿に、リーは残念ながらサクラのような
感想を見出すことはできなかった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 

昼過ぎに、リー・ネジ・テンテンが普段修行するのに使っている演習場へ
ガイがやってきた。
いつものように3人の修行を見てやるためだ。
昨日紅に言われた事もあって、なるべく普段と変わらない調子を出そうと
そう試みてはみたのだが。
「3人とも、頑張ってるかー!?」
「あ、ガイ先生!」
「ガイが此処に来たという事は……今日は非番なんだな」
「それならむしろ好都合なんじゃないの?」
「ん?………なんだなんだ、お前達」
むしろちょっと普段と違うのはお子様達の方だ。
どこか神妙な顔つきで、リーがガイの元へと歩み寄る。
「ガイ先生!」
「どうしたリーよ」
「カカシ先生を捜しに行きませんか?」
「リー……それは、」
「もう捜す場所なんて、あの塔しか無いでしょう?
 ガイ先生、行きましょう!!」
「………もしかして、お前達もか?」
戸惑った視線をリーから傍に立つネジとテンテンに向けると、彼らもまた
頷く事で答えた。
「私も、あの塔が気になってたし」
「この2人だけじゃ不安だろう、2人が行くなら俺も行くしかない」
子供達に言われなくとも、行けるものならガイだってとっくに行っていた。
一向に動かなかったのにはそれなりに理由がある。
それもこれも全て、綱手の言葉があったからだ。

 

 

 

 

【私以外の者は………皆、死んだよ】

 

 

 

 

発狂して、あるいは忽然と姿を消して。
あの塔へ向かうという事は、須らくその可能性を秘めるという事だ。
死を恐れるのは忍としてあるべき姿では無いが、ただその危険があると
分かっていて、そこへ子供達を放り込むのは馬鹿のすることだ。
だから、ガイにはこの答えしか残されていなかった。

 

「…………駄目だ」

 

「そんな、ガイ先生はカカシ先生が心配じゃないんですか!?」
「そういう事が言いたいんじゃない、リー」
詰め寄って訴えてくるリーの頭を撫でて宥めてやりながら、ガイが困ったように
苦笑を滲ませる。
もちろん子供達の気持ちはとても嬉しい事なのだが。
「ひとつ、お前達はもう忘れているかもしれんが、火影様からの直々の命令で
 あの塔に近づく事を禁じられている。
 それともうひとつ、我々が調べてみたところ、あの塔はかなり危険なもので
 あるという事が分かった。前回現れた時にも死者が出ているらしい。
 そんな所へ可愛い部下達を送り込む事など、俺にはできんよ」
「でも…!!」
「もちろん、我がライバルのカカシの事は心配だが、やはりそれとこれとは
 別なんだという事を、理解してくれ」
まだ何か言いたそうにしているリーに、それじゃあ修行を始めるか、と告げて、
ガイは子供達の背中を押した。

 

今はまだ、こうするしか無いのだ。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 

「………って、言われてもねぇ……」
夕刻になってガイの元へ召集を告げる伝書鳩が訪れ、彼はまた明日な、と
子供達に笑いかけ去って行き、それから程なくして修行を切り上げた3人は
たまには一緒にご飯を食べようと、近くの食堂に足を運んだ。
テーブルに頬杖をついて、深く吐息を零すのはテンテン。
「やっぱり、気になるモンは気になるよ、ねぇ?」
「やはり、カカシ上忍はあの塔に居るのだろう……という考えは、
 正しいようだしな」
「ガイ先生は駄目だって言いましたけど…でも、それじゃいつまで経っても
 解決しませんよ」
「ホントに捜しに行かないつもりなのかなぁ、ガイ先生」
「それは分かりませんけど……僕はここまで分かってるのに放ってなんか
 おけません!!」
「それじゃ…、行くんだな?」
声を潜めて静かに問い掛けたネジに、リーとテンテンは無言で頷いた。

 

 

 

 

 

<続>

 

 

 

 

 

漸くお子様達が出せました!
なんだかんだでガイ班の子供達も怖いもの知らずだといいなぁ、と。
ネジは大概に付き合いの良いヤツです。相手がリーとテンテンに対して限定で。

さて、ぼちぼち大きく話が動きそうな予感。
カカシせんせの登場はもう暫くお待ち下され。
(だからなんでそれでカカガイとか言ってんの私…!!/笑)