ロクな捜索もできないまま、冷淡にも刻々と時間だけは過ぎていく。
それに歯痒い思いをしているのはガイだけでは無い、他の仲間も、そして綱手も
同じだった。
だから彼女は、ただでさえ人員に乏しい木ノ葉の現状で、たった1小隊ではあるが
編成を組んで一度だけ塔へ探索に向かわせる事にした。
但し、内部への侵入はせずあくまで外観からの調査、そして深追いは厳禁。
そんな条件だらけの探索ではあったのだけれど。
だがそれが、思わぬ方向へと話を進ませた。
「……なんだって!?」
火影の執務室、そこで驚いた声を上げているのは主である五代目の綱手。
困惑した表情を見せているのは、そこで報告している4人も同じだった。
「それが、本当なんです………どれだけ近付こうとしても…」
今回の捜索部隊の主軸には、幻術に長けている紅を置いた。
彼女なら、何か向こうが事を起こそうと構えた時に、即座に察知する事が
できるだろうという見解に基づいてのことだ。
だが結局、彼女達は塔に辿り着く事ができなかったと言う。
「まるで塔が逃げていくような感覚で……近付こうとしてもできませんでした。
幻術という風には見られないのですが…でも、まるで幻術でも受けたような
気分です…」
「どういう事なんだ…」
「ずっと、というわけでもないでしょうから、また時間を置いて行ってみようとは
思うんですけど…」
「ああ、いや、残念ながらそれはできないんだよ」
ふぅ、と吐息を零すと、綱手は困ったように頭を掻いた。
今の木ノ葉は塔にばかり時間を費やしている状況では無いのだ。
「明日から紅班には任務についてもらわなきゃならなくてさ。
だから…ひとまず塔への探索は終了としてもらう」
「………そんな…、」
「悪いね紅、今の里の状況も察してほしい」
「………はい」
Aランクの指令書を差し出して綱手が告げると、渋々ながらも紅は頷いた。
直々に言われてしまえば、受け取らざるを得ないのだ。
例え自分が今どれだけ、あの塔に興味を持ち気を取られていようとも。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
上忍待機所へ顔を出せば、ぼんやりと外にを眺めるおかっぱ頭が目に入って、
紅は彼の元へと歩み寄った。
「ガイ、何してるのよ」
「………紅か」
「アンタがボーッとしてるなんて、珍しいじゃない」
「そうか?」
振り返ったガイがそう苦笑を零すと、紅の口から重苦しい吐息が漏れてきた。
「…あのね、その顔やめてくれない?」
「………ん?」
「辛気臭い顔しないでって言ってるのよ」
ガイの向かいの椅子に座って、紅は疲れたように長い髪を掻き上げた。
今日見に行った塔の件について告げようかどうしようか迷ったが、これは言わないで
いた方が良いかもしれない。
そんなにも切羽詰っているのか、この男。
「……今日ね、聞いたんだけど」
「うん?」
「アンタの所の子供達、随分アンタの事心配してるみたいよ?」
「……心配?」
「余りにも普段のガイと様子が違うから、気にしてるんでしょ」
「別に……いつもと変わりないつもりだが」
「そう思ってるのは本人だけなのよね。
ガイ、アンタが思ってるよりもずっと、子供達は聡いわよ」
「…………。」
ガイの元気が無いらしい、と紅はヒナタから聞いた。
そしてヒナタはどうやらネジから聞いたようだ。
あのネジが気にして心配するほどの状態だというのだから、
残りの2人も想像は安易につく。
「いつも通りに振舞う気があるのなら、いつものように笑いなさい」
「紅……」
「全く……自分より一回りも小さい子供達に心配されてどうするのよ。
情けないったらありゃしないわね」
「…………そうだ、な…」
面目ない。そう言ってガイは小さく笑みを見せた。
知らない間に顔にも態度にも出ていたらしい。
「……そんなに辛いの?」
「何がだ?」
「カカシが居ない事、そんなに辛いの?」
「………別に、そういうわけじゃないが、」
「ないが、なぁに?」
居ない事が辛いというわけではない。
普段だって、よく一緒に居ると見られがちだが、実際はお互い任務やら何やらで
すれ違う事の方が多いのだ。
今更1週間や2週間、姿を見ないからといってどうという事は無い。
今回は何処に行ったかが分からないから心配をしているが、辛いというのとは
少し違うと思う。
そういう事ではなくて。
「なんだか、片腕をもぎ取られたような、そんな感じだ」
俺にもよく分からないんだがな、と言って笑うガイに、紅はふぅんと相槌を
打つだけにとどめておいた。
片腕を千切られたら、どう思うだろう。
とにかく不便。
ある筈の物が無い不自然な身軽さ。
そして、アンバランス。
もうひとつ。
耐え難い痛み。
痛いと言うのか、彼が居ない事を。
そこまで理解して言っているのかどうかは知らないが、これは相当重傷そうだ。
更に言えば、どうやら本人にその自覚が無いらしい。
困ったような吐息を零して、紅はどうしたものかと肩を竦めるしかなかった。
<続>
今度はガイと紅姐さん。
なんていうかな、紅はカカシやガイに対して少しお姉さんぶった
態度を取ってるといいなってのが私の希望。(笑)
それをカタチにしたら、こんな風になってしまいましたとさ。
なんか、カカシ不在のままでどこまで話が進むんだ…?(汗)