カカシが消えてから3日が過ぎた。
最初は里を中心に捜索していたのも、今では里の外も含め随分範囲が
広がっている。
任務と、部下の修行の面倒と、空いた時間でカカシの捜索。
ただでさえ大忙しだというのに、厄介な事この上ない。
「ガイ」
任務の報告書を提出しているその背中に声をかけられ、振り返ると五代目火影が
立っていた。
「これは…綱手様、」
「カカシは見つかったかい?」
「いえ……それが、まだ」
「そうか…」
難しそうに眉を顰めて、綱手が瞳を閉じた。
可能性なら充分に考えられるが、その理由に見当がつかない。
そうだ、可能性ならあるのだ。
カカシがあの『人喰い』に向かったという、可能性だけなら。
確かめたいという気はすれど、それをするには危険すぎる。
「あの………綱手様」
「なんだい?」
名を呼ばれて顔を上げると、いつになく真摯な表情をしたガイと目が合った。
続きを促せば、どこか言い難そうに口を開く。
「あの塔の呪いとは……何なのですか」
「…………。」
「誰も口に出して言わないだけで、本当は皆考えてます。
カカシはあの塔に行ったのではないか、とね。
実際あの塔の周辺だけです、まだ捜しきれていないのは。
捜索隊は……」
「ダメなんだ、ガイ」
キッパリと否定する綱手に、ガイの表情が驚愕に変わる。
その咎めるような視線に綱手は辛そうな目を床に向けることしかできなかった。
「……何故なんですか」
静かに問い掛けてくるガイに、この頑固な男はちゃんと説明しなくては
納得などしないのだろうとふんで、綱手は彼を火影の部屋まで連れて行く事にした。
ゆっくり、落ち着ける所で話せた方が良いからだ。
それにこの場では、他の人間の目もある。
ソファに座るように促せば素直に従うガイへ笑んで見せ、綱手は窓から見える
呪われし塔へと視線を向けた。
蜃気楼のように揺らめく塔は、今日も変わらずあの場所にある。
「昔あの塔が現れた時にも、何人かが居なくなったことがあった。
その時も随分止められたが……2小隊の編成で捜索隊を出す事になってな。
私も……そのメンバーの一人だった」
「では、あの塔の中に…!?」
「ああ………探索するために侵入した……らしい」
「らしい?」
行方不明になった数人を捜すために向かった塔の内部で、何を見たのか。
何度思い出そうとしても、綱手には思い出すことができなかった。
ただ気がついたら、病院のベッドに寝かされていたのだ。
満足に指一本動かせない状態で、それでも目を開いた自分に医師たちは
半分涙目になって喜んでいた。
「だけど残念ながら、あの塔の中に入った後の事は何ひとつ覚えちゃいなくてね。
当時の医師の話によると、強い幻術に良く似た類のものにやられたようだと
言っていたが…」
「幻術…?」
「厳密に言えば幻術じゃ無いと、私は思ってるんだがな。
大体、塔の内部に誰かが潜んでいるならまだしも、無人の塔が幻術を仕掛けてくる
なんて……ちょっと想像しにくいだろう?」
「……確かに」
綱手はあの伝説の三忍と呼ばれた者の一人だ、仮に幻術だったとしても、生半可な術は
通用などしないだろう。
だけど、この綱手の説明だけでは不満が残る。
それだけで誰一人塔に近づくことを許さないだなんて。
「私は……運が良かっただけだった」
そんなガイの心中を知ってか知らずか、綱手はそうポツリと零す。
膝の腕で組み合わせた両の手を強く握り締めて。
「私以外の者は………皆、死んだよ」
8人で向かった捜索、命があって戻って来れたのは、綱手を含めて5人。
残りの3人はこと切れていたわけではなく、どれだけ捜しても見つからなかった。
そして綱手以外の4人も、皆病院で息絶えた。
「……とても恐ろしい……今思い出してもゾッとする光景だったよ。
叫び、悶え、喉を掻き毟り……引き裂いて。
発狂するっていうのは……ああいうのを言うのだろうな」
「それが……呪い、ですか」
「本当に呪いと呼んで良いのかどうかも、正直分からないんだよ。
確かめるには……あの場所はヤバすぎる」
「最初に行方不明になった人は、どうなったんです?」
「………結局、帰っては来なかった」
そして綱手が目を覚ましてから数日後、塔はまるでそこに在ったのが幻であったのでは
無いかと思うぐらい鮮やかに、跡形も無く消えていた。
今となっては彼らが本当は何処に居て、どうなってしまったのか、知る術は無い。
「出せるものなら塔へも捜索隊を出してやりたい。
私もこの事を知らなければ…そして、その結末を知らなければ、
上に掛け合って無理矢理にでも小隊を編成していたと思う。
だが……………ごめんよ、ガイ…、私には………それが、できないんだ」
「………。」
項垂れるようにして小さく呟く綱手に、ガイは何も答える事ができなかった。
もしも、本当にその塔へカカシが向かったのだとしたら。
「綱手様、カカシが塔に居るとして………もし、その塔が消えてしまったら……、
アイツは、どうなるんでしょうか?」
「生死まではハッキリ言えない。
だけど……きっと、二度とは戻って来ないだろう、ね」
普通の人なら逡巡するような事でも、この歯切れの良い五代目はきっぱりと物を言う。
だがその顔は、今にも泣き出しそうに歪んでいた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
火影の部屋を出て、帰路に着くため夜道を歩く。
歩きながら考えていたのは、ある日突然姿を消したライバルの事だ。
今頃何処で何をしているのか……本当に、塔へと向かったのか。
あの日、共に塔を見上げたあの時の彼の視線が、ずっと引っ掛かっていた。
「まさか……な」
何となくあの塔が危険なものであるという事は、書面が回って来なくても
勘付いていた。
それはきっとカカシも同じだっただろう。
わざわざそんな場所へ、自分から飛び込んで行くなんて、考え難い。
「その内ひょっこり帰って来ると思いたいが……」
森の向こうに聳える塔を見上げて、ガイが細く息を吐く。
夜の闇に浮かび上がるような塔に寄り添うようにして、赤く染まった月が浮いていた。
それがまた、余りにも毒々しいまでに似合っていたから。
「………チッ」
思わず舌打ちが零れて、ガイはまた顔を顰めたのだった。
<続>
うーわー……シリアスガイだー。(いまさら何を)
なんか、一話丸々ガイと綱手さましか出てこなかったですねー。あはは。
最近私、こういう系統の話が多いですね。
ホラーというかミステリーというか。なんかよく分かんない系。(なんじゃそら)
まぁアレだ、これに煽り文句をつけるとすれば、
「呪われた塔に消えたカカシ、ガイはライバルを救えるか!?」
…という風になるのかな。なんか笑える。いえ、笑うところですココ。
なにはともあれ、地味に続けていきますので。頑張ろう、うん。