目が覚めて、ベッドから身を起こしてガイはこくりと首を傾げた。

 

なんだか妙な夢を見た、ような。

 

 

 

 

<The time of the blank which the mutual hand reaches.>

 

 

 

 

 

 

時間が経てば、熱も下がり傷も癒える。
すっかり元の調子を取り戻していたが、近頃のガイは時折ふと考え込む
ようになった。
どうかしたのかと訊ねても何でもない、といった言葉が返って来るだけで
それにアスマや紅なんかは不思議な表情で顔を見合わせるしか無かったが。
様子を探るに何でもないというよりは、むしろ彼自身がよく分かっていないようで、
成程これでは訊ねた所でロクな返事が戻って来るわけもないと、2人は
それ以上を訊ねようとはしなかった。
今暫くは任務も落ち着いているし、好きなだけ悩めば良いだろう。

 

 

 

 

胸の中でしこりのようなものが残っていて、随分と気分が悪い。
敢えて言うなればそんな心境だ。
その原因をどうにかしたいと思うのだが、原因すらもあやふやだ。
まるで歯の間に何かが挟まったような感じ、要するに気持ち悪い。
「……たぶん、アレだな……」
見当だけなら何となく、焦点は合ってないがあるにはあるのだ。
恐らく全てを知っているだろう相手は今、任務に出ていて留守である。
此処でひたすら悩んでいてもしょうがない、一番良いのは直接
訊ねることなのだろう。
「ああそうだ、ガイ」
「なんだ?」
「カカシ、今日帰ってくるってさ。
 先にパックンが報告書持って来たみたいよ」
「………そうか」
なんで俺に言うんだ、と言えば、知りたそうだったから、と紅が
にんまりと笑みを乗せてそう答えた。
まったく、これだから女ってのは侮れないんだ。
「あんたさ、あんまりシリアスな顔似合わないんだから、
 早いことどうにかしてきてくれない?」
「失礼な事を言うな」
肩を竦める紅に苦笑で返して、ガイはゆっくりと立ち上がる。
どう転んだって、とりあえず合わなければ話は前に進まないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あのさ、これって不法侵入って言わない?」
「言わんな」
日もとっぷり落ちたところで漸く落ち着く自宅に戻って来たというのに、
部屋の明かりをつけてみれば、全てをぶち壊しにする存在が居る。
疲れてる時に、疲れる奴の相手なんてしたくないんだけど。
頭の中でそんな風に思ったが口には出さず、ベッドに腰掛けて本棚に
あった本を勝手に読んでいるガイへとカカシは近付いた。
「なんで電気点けないんだよ、目が悪くなるだろ」
「読むというか、見てただけだからいいんだ。
 それにしたってお前……また、えらい格好になってるな」
「……色々あったんだよ」
マスクとベストを鬱陶しそうに脱ぎ捨てると、不貞腐れたような様子で
カカシが口を尖らせる。
そのマスクもベストも、そして下に着ていた服にも、赤い血糊がべったりと
こびり付いていた。
「帰ろうと思った途端に敵の残党に見つかってさ。
 無駄に体力使っちゃったよ」
「そりゃあ、ご苦労な事だ」
「で、お前はなんでこんな所にいるの。
 お前んちは此処じゃないでしょ」
「知ってる」
「俺に用事か?」
「…まぁ、」
パタンと本を閉じて元の場所に戻すと、もう一度同じ場所に腰を下ろして
ガイはトントンと自分の隣を叩いた。
「だから、なんで自分ちのように振舞ってるわけ、お前」
「お前がうちに来た時も似たようなモンだろうが」
「ご尤もですが」
でもなんか釈然としないんだよなぁ、なんて呟きながら、示されるとおりに
カカシも腰を下ろした。
視線を床に向けたままで何も言わないガイの言葉を待つように、カカシがぼうっと
首を上へ傾けて天井を見上げる。
「………なぁ、カカシ」
「何だよ」
「熱も下がったし、怪我も治った」
「……うん」
見上げていた顔を元に戻してこくりと傾げるように向けると、真っ直ぐにこっちを
見てくる目と合って、少しだけ心臓が跳ねる。
正直、全部見透かれてしまいそうで、この目は少し苦手だ。

 

「教えてくれるんじゃ、なかったのか」

 

膝の上でぐっと拳を握り締めて、ガイがそう小さな声で呟いた。
「……そう、」
「なんだ?」
「やっぱり、教えて欲しいのか」
「そのために此処に来たんだ」
ここ暫くの胸のつかえも、きっと答えが見えればスッキリするはずだと。
それなのに。

 

 

なんだ。

なんなんだ、この状況は。

 

 

背中には柔かな布団の感触、目の前にはカカシの顔が、そしてその向こうには
天井が見えている。
「おい……何をしている、カカシ?」
「ん?いや、教えてほしいって言うから」
「それでどうして、」
更に言い募ろうとしたガイの口元をカカシは掌で覆って遮る。
不満そうに寄せられる眉に、小さく笑いが零れた。苦い笑みだ。
「俺としては……お前が自然に思い出してくれることを期待してたんだけど」
「…?」
「なぁ、ガイ」
呼びかけておいて、口を噤む。
逡巡のためか、少しの間沈黙が続いて。

 

 

「お前の全部、俺にくれないか」

 

 

言われた言葉に、呆然とした。

 

 

 

 

 

 

<NEXT>

 

 

 

 

 

 

なんつーか、私も色々いっぱいいっぱいなんですよ!!(><;)

 

とりあえず、次でケリをつけたいカンジ。頑張ろう。