砂隠れの風影を救って、数日。
多少の犠牲を伴いはしたが、とにもかくにも任務完了と相成り、まずそこで
最初に力尽きたのはカカシだった。
単なる写輪眼の使いすぎによる疲労だ。
だがこの疲労というもの、怪我や病気と違って治療というものができないため、
とにかく回復に時間がかかる。
全く動けない上司を放って自分達だけ帰るわけにもいかないので、とりあえず
子供達は、彼が動けるようになるまで砂隠れに厄介になることにした。
そんな中で、珍しくも次に膝をついたのは、この男。
<無限ループ>
「………はい、これでもう大丈夫だと思います。
あとはカカシ先生と一緒で、休んでればすぐに元気になりますよ」
「悪いな、サクラくん」
「いいえ、これが私の役目ですから」
にっこりと笑うと、医療器具を片付けてサクラは立ち上がった。
でも、と首を傾げて。
「あんな大きな痣……よっぽどの力でないとできないと思いますよ。
それも、心臓から逸れてたからこの程度で済みましたけど……、
もう少し左だったら、ちょっと危なかったです」
「………そうか」
包帯を巻かれた上から服を着て、更にベストに手を伸ばした時に、
ガイはそこで手を止めた。
強く打たれた痕跡が、ここにも残っている。
「その後に八門遁甲でしょう?
……ほんとに、凄い体力ですよね」
八門遁甲の恐ろしさは一度目の当たりにしているので、サクラにもよく
分かっている。
命知らずというか、無謀というか。
「とにかく、今日明日ぐらいは安静にしてて下さい。
……みんな心配してますから」
目の前でバッタリ倒れたのだ、ナルトやリーの心配の仕方はそれはもう
尋常ではなかった。。
共にいたネジやテンテンに宥められて、今は落ち着いているけれども。
倒れた直接的な原因は怪我でなく疲労なので、心配は要らないだろう。
「じゃあ私、リーさん達に説明してきますから。
後はゆっくり休んでください」
「…………ああ、」
部屋のドアを開け出て行く前に、あ、とサクラは小さく声を出して。
「カカシ先生も!
もう無理は禁物ですからねッ!!」
そう釘を刺して出て行った後に、のんびりと声が上がった。
「……無理をしようにも、もう体が動かないっての……」
「ははは、お互いに体力が落ちてるみたいだな」
「一緒にするなよ。
俺は単なる疲労、お前の場合は死に損ないだろうが」
「…いやに機嫌が悪いな」
隣のベッドに腰を下ろすと、それも仕方が無いか、とガイは苦笑を浮かべる。
「言い訳をするつもりはない、あの時はそれしか方法が無かったんだ」
名前は結局思い出せないままなのだが、あの大刀を持った男はそれだけの
手強い相手だった。
力もある、忍術もかなりの使い手、更に部下達まで盾に取られては。
「裏蓮華を使うなんて、無茶しやがって」
「それこそ仕方無い話だ。
でなければ俺は……たぶん負けていただろうな」
試合でない場での敗北は、死に直接繋がっている。
しかもあの時、自分の死と部下達の死はイコールで繋がっていた。
こんな状況で躊躇う方がどうかしている。
「まぁ、第六までで済んだのが幸いだったというか、
偽者だったからあれで済んだと考えるべきか……。
それは分からんがな」
「ホント、用意周到だよアイツら。
……けど、どうやらそっちもまだダメみたいだな」
「頼りにはなると思うがな、ああいう相手にはネジですらまだまだ
未熟さが浮き彫りになる」
「………鍛え直しか」
「そうだな」
ガイが鬼鮫と戦った時もそうだが、カカシがイタチと戦っていた時も、
自分達の部下が役に立ったかと問われれば微妙なところだ。
上司や部下という関係でなく、仲間という括りで見るならば、逆に
足手纏いだったと言わざるを得ないだろう。
ナルトにしたって大技はあっても、それを上手く使いこなすことが
できていない。
だが、本当に足りないのは力でも技でもなく、経験だ。
自分達と子供達を比較して、それは圧倒的な差となる。
こういうギリギリでの戦いになると欠点ばかりが見えてしまうのは
仕方の無いことだろう。
だが、そこを見逃してやるほど大人達は甘くない。
そしてそれ以上に、彼らは自分に厳しかった。
「この程度でバテるようじゃ、俺らもまだまだだよ」
「鍛え直すか、この際」
視線を交わして苦笑を浮かべる。
まだこの命、捨てるわけにはいかない。
「しっかし……お前と任務すんの久々だったけど……、
相変わらずヒヤヒヤさせてくれるよ」
ばったりとベッドに突っ伏したままで唸るカカシを、物珍しげに
眺めた後に、ガイが軽く首を捻った。
「……そうだったか?」
「もう忘れたのか単細胞。
あの時俺が写輪眼で助けなかったら、お前の班は今頃全滅だ」
「ああ……お前の、新しい技だな」
「ほんと、アレのお陰で俺は再起不能になったんだから。
死ぬほど感謝しろよ、ガイ」
周囲を飲み込んでいく大規模な爆発、もちろんすぐに退避はしたが
あの時は誰もが間に合わないと思った。
それを、あの爆発ごと写輪眼で別の場所に送ったと言われた時は、
思わず身震いをしたものだ。
少し見ない間に、一体彼はどこまで強くなってしまったのだろうかと。
「まぁ……感謝はするがな。
あの力は余程消耗すると見える。
お前も相当無茶をするじゃないか」
「うーん………ま、これぐらいの事で皆が助かったなら、
お安い御用だと思うけどね」
大人しく布団に潜り込むと、そう呟いてカカシは目を閉じた。
寝るつもりなのだろう、ならば邪魔はするまいとガイはそれ以上声を
かけようとはしなかった。
差し込んでくる太陽の光を遮るためにカーテンを引こうと立ち上がった、その時。
「俺は、俺の選んだ大事なモノを守るためなら、何だってするよ」
驚いたような表情で振り返るガイを手招きすると、呼ばれるがままに傍に立った彼の右手を
布団から手だけを出してカカシはぎゅ、と握り締めた。
何もかもを失って、手ぶらが一番ラクだと思っていた自分が、もう一度手を伸ばしたもの。
それを再び失うぐらいなら、身を削ってでも守り抜いてやる。
今は亡き友から貰った目は、きっとその為にあるのだから。
「……大丈夫だ。
まだ、ちゃんと繋がってる」
「そうだな………この手はまだ、お前と繋がっているぞ」
自分で選んだ、大事なもの。
たぶん、最初に伸ばしたのは自分からだったろう。
昔のことを思い出しながら静かにガイが応えると、カカシは満足そうな笑みを浮かべる。
何よりもこの手を欲したのは、自分だった。
離したくないから、そのために必要な事ならば、どんな事だって。
「俺はね、お前と生きるためだったら、何だってしちゃうんだよ」
何故だか少し泣きそうな顔をしたガイのことを、カカシは気付かないフリをした。
<END>
うーん…最初に考えていたのとは若干話が違うんですけれども。(汗)
なんか、ちょっとずつ近づいてきたかな、ってぐらいで。
しかしラブ要素まではまだまだまだまだ遠いんですけど……どうなってんだお前ら。
たぶん、カカシがガイに対して最初に求めたものは許容だったんだろうなぁ。
どれだけ深い罪を自分が犯しても、きっとガイだけは笑って自分を受け入れてくれるんだと、
そんな風に思ってたのが、途中からちょっとずつ変わってくる。
色々ダークな出来事を繰り返してる内に、カカシにとってガイは自分を赦すことのできる
唯一人の人間になっていくんだ。
だから、できるだけ傍にいて、赦されて、笑顔をもらって、心を軽くしてもらいたいって
思うようになるんだ。
そんな唯一の人を守るためなら、それこそ命だって投げ出しちゃう覚悟で。
だけどそんなカカシの気持ちをガイ自身が知っていたとしたら、それは少し切なかろう。