<Be well-informed each other in the feelings.>

 

 

 

 

2日目も日が傾き始めた頃、ふとリーが口を開いた。
「本当に、来るんでしょうか?」
「…何がだ」
「だから、我愛羅くん達の先生、ですよ」
ガイはリミットを2日としていた。
理屈で考えると不可能だとは思うが、心のどこかではもしかして、と
思っている部分もある。
我愛羅とカンクロウを風呂に放り込み、テマリはテンテンと夕食の
準備を手伝いに行って、その僅かな時間をネジとリーは縁側に座りながら
ぼんやりとすごしていた。
そこで出てきた言葉がこれで、内心でネジは近くに砂の彼らがいなくて
良かったと胸を撫で下ろす。
「リーはどう思うんだ?」
「うーん………来れるかどうかは置いといて、来て欲しい、とは思います」
「………そうだな」
「ネジは、どう思いますか?」
問われてネジは僅かに目を伏せた。
気持ちの上では理屈が勝って無理だろう、と思っている。
思っては、いるのだが。
「どうして……ガイは2日なんて無茶を言ったんだと思う?」
「え…?」
「普通に考えたら不可能なのは分かりきっているだろう?
 ガイもそこまで馬鹿じゃない、ノリと勢いでそこまではしない。
 ……となると、だ」
「は、はい…?」
ふと目を開いて、ネジはちらりとリーの方へ視線を送った。
思わず息を呑んでリーはネジの言葉を待つ。

 

「砂の上忍が、『2日で木ノ葉まで来ること』が、今回の件の
 最大のポイントだと思う」

 

それにリーがこくりと首を傾げた。
「だから、それが可能か不可能か、って話で…」
「だからだよ、リー。
 俺達は……いや、俺達だけじゃなく、みんな無理だと思っている。
 だがもし……その不可能を、可能にしてしまったら…?」
「可能に、できるんでしょうか……?」
「ガイのことだ、できるかできないか、じゃなくて、
 『やってみせろ』という意思表示にも受け取れるな」
ネジの言葉に、リーがはぁ、と感嘆の吐息を零しながら橙色の空を見上げた。
確かに2日で木ノ葉に辿り着く事ができたら、それは凄い事だと思うし、
絶対に来ないと言い張っていた我愛羅にだって、それまでの上司の姿とは
きっと違った風に見えるだろう。
けれども、もし、来なかったら?
その不安がリーの中では消えてくれない。
「…間に合わなかったら、きっと我愛羅くんは……いえ、彼だけじゃなくて、
 きっと皆、がっかりします」
「これは俺の偏見かもしれないが、」
「はい?」
腕組みをして、ネジがぽつりと口を開いた。

 

「何か…そうだな、確信のようなものが、ガイの中にはあるんだと思う」

 

それは『絶対』というあまりにも不確かな、けれど彼の中では確かに存在する思い。
頼りないように見せかけて、けれどもその思いの力強さに皆が引っ張られる。
だからカカシもあっさりと手を貸したし、自分達もなんだかんだで素直に従おうと
いう気になったのだ。
「お前もよく言ってるだろ?
 ガイ先生が言うことに間違いありません!…ってな」
「それは…………そうです、けど」
僅かに首を傾けて俯くと、リーが膝の上で組んだ手を強く握り締めた。
一度それに目を向けてから、ネジはぽんぽんとあやすようにリーの頭を撫でる。
「大丈夫だ、リー」
「ネジ…」
「心配するな、大丈夫だから」
その声があまりにも優しく、そして力強かったから。
少し目の端に涙が滲んで、リーはぎゅっと唇を噛み締めたのだった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 

西の空が茜色に染まり出した頃、ひとつの木に身を潜ませるようにして
待機していたサスケは、その妙な感覚に周囲を見回した。
言うなれば、風が通り過ぎたような、そんな感じだ。
「なんだ…?」
風の向かっただろうと思われる方向へ目をやれば、木ノ葉の背の高い外壁が
遠く視界に入った。
何が、と考えるよりも早く。
「おいカカシ、聞こえるか!!」
『………どうした?』
手にしていた片手では少し足りないやや大型の無線機を手に取り、
サスケが慌てたように声をかける。
少しの間があって返ってきたカカシの声は、のんびりとしていて。
「悪い、見逃した!!
 ターゲット、A地点突破だ!!」
『……………。
 予想より、ちょっと早いな……』
「姿を確認はできなかったが、多分間違いない」
『そうか……よし、分かった。
 サスケ、お前はとばっちりを食わないように適当に時間を潰してから
 正門の方から戻るようにしてくれ。いいな』
「了解」
ぶつり、と無線機の通信を切った直後に、ドン、という大きな音が響いて
サスケは顔を上げた。
此処からでは他の木に邪魔されてよく見えない。
軽い動きで木のてっぺんまで駆け上がり、そこでサスケは息を呑んだ。
「………おいおい、マジかよ…」
大地が吹き上げられて、高く砂の柱が出来上がっている。
その位置は、サスケの記憶が正しければ第1のトラップを仕掛けて
いた場所だ。
あれだけの規模の術だ、恐らくは今の一発でトラップは全て壊されて
しまっただろう。

 

「俺らの苦労が一瞬かよ……」

 

あーあ、と嘆息を零してサスケが額に手を当てた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 

「よォ、お前……んなトコで何やってんだ?」
「あ…」
誰も居ない庭の片隅でぼんやりと空を見上げていたリーは、
突然かけられた言葉に驚いて振り返った。
「…………?」
「…なんだよ」
無言でこくりと首を傾げて考えること数十秒。
漸く閃いたとでも言うかのように、リーはポンと手を叩いて。
「………ああ!!カンクロウくんですか!!」
「お前なぁ……」
「いや、ほら、だって、その。
 いつもと違うので……すいません」
風呂上りなのか、首にタオルを引っ掛けたままで立っている
カンクロウは、普段の黒い衣装でなければ顔のメイクもない。
素顔の彼を見たことが無いので、気付かなかったのは仕方の無い事だろう。
本人なのだと分かるのは、声と目の2ヶ所だけと言っても過言ではない。
「随分……印象が変わりますね」
「そうか?」
「なんだか普通の人に見えます」
「ブン殴られてぇのか」
「あははは、じ、冗談ですよ」
「……どうだかな」
グッと握られた拳を見て慌ててリーがそう言うのに、カンクロウは軽く
肩を竦めただけで、すぐにその拳は解かれた。
目線を空へと向けると、東の方から染まり出した藍にぽつぽつと
星が混じって見える。
ぐるりと辺りを見回しても、他には何も見当たらない。
こんな所で、まさか星でも眺めていたとか言うわけでも無いだろうに。
「何してたんだよ?お前」
「別に何もしてませんよ」
「じゃあ突っ立ってただけってコトか?」
「……そう言われると返す言葉もありません。
 まぁ……本当は、考え事をしていたんですけど」
「へぇ、お前にも悩みとかあったりするんじゃん?」
「………言ってくれますね」
言葉を交わして、お互いに苦笑を滲ませ合う。
そういうカンクロウの方の事こそ、どうして突然自分に声をかけてきたのか
リーには真意が汲み取れなかった。
「キミこそ、どうしたんですか?」
「あん?」
「お風呂上りにこんな所に来て、風邪ひきますよ」
「………あー…まぁ、………なんとなく、な」
歯切れ悪くそう言って目を逸らすカンクロウに、リーはまた首を傾げた。
本当に、どうしたというのだろう。
「なぁ………お前さ、」
「はい?」
目は逸らされたままで、だが問い掛けられたのは間違いないのだろう、
カンクロウの言葉に素直に返事をして、リーは言葉の続きを待った。

 

「本当に、来ると思うか?」

 

きょとんとしたままで、リーは目を瞬かせる。
言葉の意味がすぐに分からなかったからだ。
「来るって…?」
「だから、うちンとこの先生だよ」
「………ああ、」
ガリガリと頭を掻いて決まり悪そうに言うと、カンクロウはそっぽを向く。
漸く言葉の中身が繋がったと頷いたリーは、そうですね、と少し考えるようにして、
そういえば、カンクロウのこの質問は、先に自分がネジへと投げかけた問いと
全く同じだと気が付いて苦笑を浮かべた。
「……実は、今カンクロウくんが言ったのと同じ質問を、ネジにしたんです」
「へぇ……そんで?」
「ネジは、大丈夫だと言いました。
 大丈夫だから、心配しなくてもいいって」
「…何がどう大丈夫なんだよ」
「さぁ?」
肩を竦めて努めて軽く返すと、リーがにこりと笑みを浮かべる。
それにやはりよく分からないといった風に眉根を寄せると、カンクロウが首を傾げた。
「お前らって、分かり合ってんのかそうじゃねぇのか、よく分かんねぇな」
「そうですか?」
「そうだよ」
「うーん………たぶん、分かり合ってはいないと、僕は思いますよ。
 今でもネジのことは理解できないし、テンテンもよく分からない時があるし、
 ガイ先生は……分かり合うというよりは、僕が信じてるだけですから。
 一方的な感情みたいなものですしね」
「……へぇ、」
思ったよりもしっかりとモノを考える人間だと、そこでカンクロウはリーに対しての
考えを改めた。
ナルトとよく似たタイプだと思ったのだが、リーよりナルトの方がより直情的で、
リーの方がより思慮が深いようだ。
分かり合えない相手と共に長く居るのは、難しいことだけれど不可能じゃない。
理解できないならできないなりのやり方というものがある。
相手を認め、ありのままを受け入れること、それができれば良いだけだ。
そしてきっと分かり合えていないと言いながらも睦まじく共に在る彼らは、
正しくそれができている人間なのだろう。
男勝りで勝ち気な姉と、無口で冷徹な弟、その間に挟まれたカンクロウは
どちらかといえば彼らに近い性質である。
姉の高慢も弟の孤独も、そうと知った上で認め、受け入れている。
だからかもしれない。

 

「分かり合えていないと思っていた相手と、一度でも、一瞬でも。
 同じ思いや感じ方を持っていることを知ると、とても嬉しいんです」

 

この言葉は、すんなりとカンクロウの中で受け入れることができた。
それは自分も同じ思いを持っていたからだ。
だから、今この時にリーと話せた事を、一時でも共に居ることを、
素直に嬉しいと感じた。
つまりは、そういう事なのだろう。
「そういう時に、相手と繋がったっていう気がしませんか?」
「……ああ、そういうのは、なんか分かるぜ」
「ね?」
テマリとカンクロウは昔からそう仲が悪いという事はなかったが、
我愛羅に関してはまた別だった。
お互いがお互いを遠ざけるようにしてきたから、その距離はどんどん
離れていったように思う。
けれど、自分達は決して我愛羅を厄介者だと思ったことはない。
ただ、どう接して良いか分からなかっただけだった。
「我愛羅がな……やっぱり言うんだよ、来るわけがない、
 待つだけ無駄だって、な」
「そうですか………」
「でもな、もし………俺らやお前らが来ると信じているのなら、
 一緒に信じてみてもいいかもしれないって、そう言うんだ」
「……………それは、」
すごいです、と呟くように零してリーは大きく目を見開いた。
な、と笑うカンクロウは笑顔だ。
「だからな、俺は信じてみることにしたんだ。
 テマリの奴もなんだかんだで期待してるハズだぜ。
 先生はきっと来る、ってさ」
「そうですね、僕も………信じます。
 ガイ先生やカカシ先生も大丈夫だって言いましたし、
 ネジも、それにテンテンも信じてますよ。
 そしてキミ達の先生は、きっとその思いに応えてくれます!!」
グッと親指を立てると、満面の笑みでリーは言い切った。

 

 

「僕達の班のお墨付きですから、絶対です!!」

 

 

不安に思う気持ちも迷う気持ちもあっという間に消えていった。
彼らの上司が迎えに来たその時、きっと彼らの思いはひとつに繋がって、
その絆は今よりもっと強く深いものになっている筈だから。

 

 

 

 

 

 

<NEXT>

 

 

 

 

 

 

今回はリーとカンクロウで。でもそこはかとなくネジリっぽく。(姑息)
やー…今回ばかりはホント難しかった…。
書きながらだんだんワケわかんなくなってきちゃって。(汗)
半分ぐらい削ったり足したりを繰り返したなぁ…。
なんせカンクロウが今イチよく分からないもんで。
ただ、前々からカンクロウは『いいお兄ちゃん』っていうイメージがあったので、
とにかくそんなイメージにしてみました。
初めて漫画読んだ時、カンクロウが一番上だと本気で思ってました…ハイ。

さて、次がラストになります。
バキ先生ごめんね、最初と最後しか出番なくて。(大笑)

とりあえず、シメはやっぱり大人たちでいきましょうか。
もちろん子供達は巻き込まれる運命ですが。