翌日。
男達はなんだかすっかり打ち解けてしまった様子で、相変わらず屋敷から
出ることは出来なかったが、それでも庭へ下りて組手などをやり始めた。
起きて最初に見たものがネジと我愛羅の談笑(?)している姿だったので、
それを目の当たりにした時には、さすがにまだ夢でも見ているのだろうかと
思ってしまったものだが、組手をしようと言い出したリーに素直に頷いた
ところを見ると、我愛羅は本当に彼らに心を開き出したようだ。
「まぁ……それはそれで、複雑な気分、だな」
ずっと見守ってきた姉としては。
<Be well-informed each other in the feelings.>
それにしても男達はみんな元気だ。
朝食を済ませたところで全員元気に庭へ飛び出して、代わる代わる
相手を変えて手合わせを続けている。
テマリはといえば、混ざる気にはならなかったので縁側でお茶を片手に
見物しているだけだ。
しかし、ただ見ているだけというのも、なかなか。
「………おなかすいたな…」
7時に朝食を済ませ、それから大体3時間ほどになるか。
いい加減見飽きたと大きく伸びをすると、テマリはそのまま仰向けに転がる。
庭先からはまだ元気な声が聞こえてくるが、彼女の思考は今少し違うところにあった。
(木ノ葉には確か、美味い団子屋があったな……)
一度だけ食べた事があるのだが、あの団子は余所の街ではちょっとお目にかかれない
ぐらい絶品だった。少なくともテマリの中ではそうだ。
そんな事を考え出すと、急にその店の団子が食べたくなる。
食べに行ければ良いのだが、生憎自分はこの場所を離れてはいけない状況だ。
リーあたりになら、頼めばひとっ走り買いに行ってくれそうなものだが、
この組手の状況を見ている限りでは、頼む以前にこっちの声を聞いていそうもない。
もう少し待てば、組手も一段落するだろう。
とはいえ、一度食べたいと思ってしまうと、それをのんびり待っている余裕すらも
奪われてしまうのが女の子の悲しい性というものである。
どちらかといえば、
(……今すぐ団子が食べたいんだ、私は)
時間的にもおやつに最適である。
大体、これ以上時間が経ってしまうとおやつの時間などとうに過ぎ、
昼食の時間に突入してしまうだろう。
そうなってしまえば団子は更に遠のいてしまう。
さてどうしたものか、と目を閉じて頭の中で算段を練っていたところで、
テマリの傍で声がかかった。
「何してるの?」
ん?と目を開ければお団子頭の少女が自分を覗き込んでいた。
見覚えがある、ネジやリーと同じチームで名は確かテンテンといったか。
一度だけ、中忍試験の時に対戦したから割と印象に残っていた方だ。
彼女は縁側に寝そべっている自分を気にしたのか、少し心配そうな目で。
「もしかして、体調悪いとか…?」
そう訊ねてくるのにニヤリと笑みで返して、テマリは勢い良く身体を起こす。
テンテンの腕を強く掴むと、驚いたのか彼女は一歩身を引いた。
いつ来たのかとか、どうして来たのかとか、とりあえずそういうのは
全部後回しでいい。
「ナイスタイミングね、助かった」
「え、な、何…?なんの話よ!?」
「悪いけど、頼まれてくれない?」
「え…」
嫌な予感がしているのか完全に怯んでいるテンテンに、テマリは
これ以上無い笑顔で言った。
「お団子、買ってきて」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
一番食べたいものを、一番食べたい時に食べる。
これぞ、至福のひと時と言えよう。
とにかく今、テマリは最高に上機嫌だった。
縁側に置かれた団子の包みと、お茶を煎れた湯のみが2つ。
それらを挟んでテマリとテンテンは隣り合って座っていた。
「…いきなり何言い出すのかと思ったら、驚かせないでよねー」
「ごめんごめん。
どうしても自分ではどうにもならない時に限って、こういうのって
欲しくなるのよね」
「まあ、その気持ちは分かるけど」
お茶を飲んで一息つきながらテンテンが吐息を零す。
とりあえず言われるままに団子屋へ走って、手に入れたそれを手渡した時の
テマリの目の輝きは、今でも思い出し笑いが漏れてくるほどだ。
それだけこれが食べたかったという事なのだろう。
「お前に借りができてしまったな」
「こんなので借りとか貸しとか勘弁してよね」
「そういうわけにはいかない、私は借りは作らない主義なんだ」
「うーん……じゃあ、コレでガイ先生とカカシ先生のこと、許してあげて?」
「………?」
3本目の団子を口に頬張りながら、テマリが不可解そうに眉を顰めて首を傾げる。
「あの2人が何をしたいのかは全然まったく知らないし、別に知りたくもないけど、
どっちにしたってあなた達は巻き込まれたみたいなものだからね。
こう、お詫びみたいなもの?かな」
「……………、別に、………。」
団子を咀嚼してテマリは口を開きかけたのだが、ふいにそこで言葉を切った。
別に彼らに対して、自分は怒ってるわけでも許してないわけでもない。
だが確かに、巻き込まれただけ、と言われればそうかもしれない。
特に何が目的なのか、自分達が関係あるのか無いのか、それすらも分からない
今の状況では。
けれど、全く意味が見出せなかったわけじゃない。
2人は自分達に「待て」と言った。
自分達の上司が此処に来るまで、待てと。
一体そこにどれだけのことが隠されているのだろうか。
「なぁ…」
「ん?」
「アンタ達の上司って……あの、濃ゆい方よね?」
「濃ゆいって………まぁ、間違ってないからいいけど。
そうだけど、なに?」
「どんな奴なの?」
「どんなって…………」
そう言いながらテマリが団子を一本手に取って手渡すと、テンテンはそれを口に
運びながら、空を見上げてうーんと唸った。
「……見たまんま、かなぁ。
濃ゆいし暑苦しいし熱血だし青春だし眉毛だしバカだし」
「結構言うわね、アンタも」
「でも、忍としてはやっぱり一流だと思う。
その点は私だけじゃなくてネジもリーも尊敬してるわ。
あとは…………そうね、」
少し考える素振りを見せてから、テンテンは綻ぶような笑みを零した。
「ガイ先生のやる事に、意味の無いことなんてひとつもないわ」
だから、今回の件もきっと何かある筈なのだ。
ガイやカカシが用向きを持っているのは砂の3人ではなく、その上司なのだと
いう事は、昨日のやり取りで大体把握できている。
だがそれならば、子供達を盾に取らずとも彼らならもっと他に方法はいくらでも
あっただろう。
それなのにその部下達までもを巻き込んだということは、彼らを捕えること自体にも
何かしらの意味があるということだ。
「まぁ…意味があっても言わないんだけどね、あの人達は。
だからこっちは振り回されてばっかりよ」
「ふぅん……」
「あなたの所の先生は、どんな人なの?」
「え…」
テンテンに言われて、初めて気がついたとでも言いたげな表情を見せてテマリが
顔を上げる。
どんな人、と問われても。
「よく…………知らない」
「え?」
「任務以外であまり一緒に居た事が無いからな」
「そうなんだ…?」
「まぁ…私達兄弟は一人、ちょっと手のかかる子がいるからね。
あまり一緒に居たくないのかもしれないな」
ふ、と自嘲の混じった笑みを零しながら言うテマリの目が、ほんの少し
寂しそうに揺らぐ。
その様を見ていたテンテンが、かける言葉も無くこくりと首を傾げた。
もしかして、あまり訊かない方が良かったのだろうか。
「手のかかる子って……我愛羅くんのこと?」
「まぁ、ね」
「そんなに悪い子には、見えないけどなぁ」
「………嬉しい事言ってくれるじゃない」
例えどんなに問題児であっても、テマリやカンクロウにとっては
血の繋がった兄弟に違いなく、だからこそ、そういう風に言ってもらえると
とても喜ばしいことなのだ。
「きっと、あなたの所の先生も、我愛羅くんの良いトコロ、ちゃんと
分かってると思うんだけどなぁ」
「……どうしてそう思うの?」
「うーん……そうね、強いて言うなら、
ガイ先生のお友達なら、そういう人かなぁ、って」
「どういう基準なの、それ…」
とはいえそれだけの信頼を寄せているという事なのだ、そんな風に思える
人間が上司であるなんて、テマリにとっては少し羨ましいことだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
さて、忘れてはいけないのが、カカシ率いる7班の連中だ。
彼らは只今、とある任務の真っ最中である。
とはいえ正式に出されたものではないので、正確に言えばカカシに
こき使われている、と言った方が良いだろう。
「ったく……なんで俺達がこんなことしなきゃなんねーんだってばよ」
「いやぁ、悪いね。
ガイとのジャンケンで負けちゃったモンだからさぁ。
……あ、サクラ、それもうちょい右、ね」
「はぁ〜い」
木ノ葉の正門から真逆に位置する場所、裏門の場所からさらに4km先の地点。
そこで彼らはトラップを仕掛ける作業の真っ最中だった。
恐らく通行証のひとつも持たずに来るだろう、砂の子供達の上忍を
それこそ真剣に迎え撃つためだ。
正門からは入れない、となれば侵入は此処からの可能性が高い。
何故そこまで、とは訊くなかれ。
やるならとことんやった方が楽しいだろ、という頭の痛い返答が
戻って来るのがオチである。
「サスケくんは何処まで偵察に行っちゃったのかなぁ……」
「まぁ、捕まるようなヘマは流石にしないでしょ。
ナルト、次コレな」
「へーい…」
カカシから起爆札付クナイを受け取って、ナルトがげんなりと声を漏らす。
こんなことなら朝イチでネジの家にでも逃げ込んでいれば良かったかもしれない。
手頃な木の幹に細い糸でクナイを仕掛けながら、ナルトはそんな風に考えて
心底からの重苦しいため息を零したのだった。
<NEXT>
今回はテンテンとテマリを頑張ってみました。
男の子がみんな個性的なので女の子って基本的に一歩下がったところにいる
イメージがあるんですが、そんな彼女達もちゃんと見てるんだぞー?という
雰囲気が出せてれば自分的には及第点かな…。
しかしココまできちゃうとだ、やっぱやっとかんとアカンかなぁと思うもので、
次の主役はリーとカンクロウでいってみようかなぁ、とか。
どういう話になるんだろうなぁ、この2人だと……現段階では想像つきませんが。(汗)
となると少なくともあと2本続きそうな雰囲気なんですが。
やっぱり長くなっちゃってごめんなさい。
どうでも良いコトですが、どうやらこの話がSS50本目みたいです。
20万ヒット御礼リクと長編を除いた本数ですが。
よくもまぁ、こんなに書いたものだと(しかも半年で)ちょっと自分にビックリ。
まだまだ頑張ります!!