「よォ、ゲジマユ!!邪魔するってばよ!!」
「……たまには玄関から入ってきたらどうですか、ナルトくん」
「俺んちからお前んちってば、最短距離突っ切ったらこっち側に
辿り着いちまうんだから、しょうがねーだろ?」
「まぁ…いいですけど。それで今日はどうしたんですか?
そんな大荷物抱えて……」
部屋の窓からひょこりと顔を出したのは、もうすっかり顔馴染であるナルトだ。
初めて受けた中忍試験で出会い、それからずっと、なんだかんだで一緒に居る。
チームが違ったので任務が一緒になるのは稀だったけれど、休みの日などは
一緒に遊んだり修行をしたりしていた。
もちろんお互いの家を行き来することもあったのだが、彼がリーの家に
来る時は、決まって庭に面した部屋の窓から入ってくる。
理由は先にナルトが述べた通りなのだろうが。
そして今日、不思議な事にナルトは大きな風呂敷包みを背負ってやって来た。
「あのさ、あのさ!!
俺、今日から此処に住むってばよ!!」
「…………はい?」
笑顔満面でそう言ったナルトの言葉に、さすがのリーも眉間に皺を寄せるしか
なかったのだった。
< Preparations were completed? 〜10月10日の変革〜 >
何故ナルトの中でそんな結論に達したか、よく分からない。
別にそれを了承したつもりもなければ、彼から一緒に暮らしたいなんて
言葉を聞いた事すらなかった。
つまり、何もかもが唐突で何の前触れも無かったということだ。
「………ナルトくん、ひとつ聞いていいですか?」
「おう、何だってばよ?」
「いつ決めたんですか、それ」
「えーと……今さっき?」
「…………。」
頭痛のしてきたこめかみを押さえ、リーが重い吐息を零す。
確かに意外性No.1の座を欲しいままにしてきただけのことはある。
ナルトはいそいそと部屋の中に上がり込むと、座布団の置いてある自分の
定位置へ座り込み、持っていた風呂敷包みを広げた。
「えーっと……とりあえず着替えと、食器と…、そうだったそうだった!
ゲジマユと一緒にやりかけだったゲームもちゃんと持ってきたってばよ」
「あのね……」
にこにこと笑顔を振り撒きながら言うナルトを見ていると、他に何も
言うことはできず、リーがガクリと項垂れた。
別に彼が此処に居座る事に対して、困ることなんて何ひとつない。
自分もナルトも親兄弟はとうの昔に亡くして、家族なんてものがない。
お互い一人ぼっちだったから、何となく一緒に居る事が増えて、
そうして現在に至るぐらいだ。
お互い泊まる事だってよくあったし、他の誰かと生活を共にするより
ナルトとの方がずっと上手くやっていく自信はある。
「それにしては突然じゃないですか。
何かあったんですか?」
「……何かってほどの事じゃねーんだけど、さ……」
「はい?」
持ち物を整理する手を止めて、ナルトがぽつりと言葉を漏らす。
「今日さ、目が覚めて……当たり前なんだけど、誰もいねぇじゃんか。
それが……今日はなんか、すげぇイヤだったんだ。
毎日そうなんだから慣れてるハズなんだけどな…。
なのに何でか全然分かんねぇけど……気がついたら荷物纏めてて、
勝手に足がこっちに向いちまってた」
たはは、と苦笑を零しながら言うナルトに、ふぅん、と声を漏らして
リーは壁にかけてあったカレンダーに何気無く視線を向けた。
その口元が、ゆるりと弧を描く。
「ナルトくん」
「う……わ、悪かったってばよ。
やっぱ……迷惑だろ?」
「誰もそんな事言ってないじゃないですか。
それに……僕は嫌だとも駄目だとも言ってませんよ」
まぁ、あまりにも急すぎて頭がなかなかついていきませんでしたが。
そう言えばますます小さくなったナルトを見て、思わず笑みが零れ出た。
「ナルトくん、今日は何の日か知ってますか?」
「……へ?」
「今日は、10月10日です。
キミの誕生日ですよ」
「ん?…………おー!!そういやそうだ!!んで?」
「なかなか誕生日のプレゼントが思い浮かばなくて、実はまだ
僕は何も用意できてないんです」
「べっつに、イイってばよ、そんなの」
「そういうわけにはいきません!去年、僕にちゃんとくれたじゃないですか。
だから、僕もちゃんとお返ししなきゃいけないんです!!」
「……変なトコロで律儀だよなぁ、お前ってばさ……」
胸を張ってそう言い切るリーへ、ナルトは珍しいものでも見るような視線を送る。
そんなナルトの腕を取って立たせると、リーはリビングを挟んだ向こうの部屋へと
連れて行く。
そこは、昔は両親が、両親が死んだ後は育ててくれた祖父母が使っていた部屋で、
当然ながら今は空き部屋というか、半分物置のような状態になっていた。
とはいえ暮らしていたのがリー1人なので、置いてある物の量など知れている。
「この部屋を、キミにプレゼントしようかと思います」
掃除は手伝いますから一緒にやりましょう!!と親指を立てながらそう言うリーに
驚いて目を見開いたナルトが、おずおずと訊ねた。
「え、え、………マジでいいのかよ、ゲジマユ?」
「それが問答無用で押しかけてきた人の言うセリフですか。
どうせ使ってない空き部屋でしたし……それに、」
「それに?」
「……キミと一緒に暮らすのは、きっと楽しいと思いますから!」
ね?と笑って言うリーの顔を、ナルトはぼんやりと見つめていた。
嬉しいのを素直に表現したかったのだけれど、それよりももっと大きく胸を
揺さぶった、衝動の方が、強くて。
「わあッ!?
な、ちょ、どうしたんですか、ナルトくん??」
その腕を引き寄せて抱き締めれば、驚いた声が耳に飛び込んでくるけど
それにもお構いなしで。
ぎゅうと腕に力を込めると、ちょっと痛いです、という呟きを最後に
リーの声は聞こえなくなった。
「…………あのさ、」
「…はい?」
「言いたい事が山ほどありすぎてさ、ひとつも口から出てこねぇんだけど、
どうすればいいんだと思う?」
僅かに身体を離してリーの顔を覗き込みながらナルトが言う。
それに少し考えるかのように首を傾げて、リーが静かに微笑んだ。
「……さあ、どうしましょうか?」
「ちょっと困るよなぁ、これ」
「でも、時間はこれから沢山あります。
急いで探して纏めなくったって、大丈夫ですよ」
いつでも言えばいいし、自分だっていつでも聞いてやれる。
一緒に居るということは、そういう事なのだ。
「誕生日おめでとう、ナルトくん」
にこりと笑んで言うリーに、へへ、とナルトからも自然な笑みが零れてくる。
「サンキュな、ゲジマユ」と答えたナルトは、本当に嬉しそうな顔をしていた。
これは10月10日、ナルトが18歳になった日のはなし。
<END>
一度やってみたかっただけです。(笑)
なんとなくナルトの場合は問答無用で押しかけてきそうな気が。
こうって決めるともう止まんないから。(苦笑)
ちなみに全然誕生日シーズンじゃないのにアップしてごめんなさい。
それと、最初ナルトの誕生日を7月7日だと思っててごめんなさい。
7月7日ったらナルトじゃなくてキバだった!!えらい間違いだ!!
続きがあるかどうかは不明なのでとりあえずエンドマークで。
ネタは無いことも無いけど……まぁ、読みたい人がいるなら書いてみようかな?
明らかに需要は少ない気がしますな。はっはっは。(所詮、自己満足ですから/笑)