夜も更けて随分と経った頃、まず最初に潰れたのがカンクロウだった。
その次にはリーが撃沈。
テマリもうとうとしているのを見つけた我愛羅が寝ろと言えば、彼女は
素直に従った。
残ったのは、我愛羅とネジ。奇妙な組み合わせだ。
虫の音が聞こえてくる縁側に座り、何をするでもなくぼんやりとしている
我愛羅へ、どうしたものかと迷った挙句にネジは声をかけてみることにした。

 

 

 

 

<Be well-informed each other in the feelings.>

 

 

 

 

 

 

「寝ないのか?」
驚かせないように静かに声をかけて、ネジが寝ている者を起こさないよう
部屋の障子を閉めてから、我愛羅の隣に腰を下ろした。
手には湯飲みを乗せた盆を持っている。
それを置いてひとつを我愛羅に差し出すと、彼は素直に受け取った。
「俺は………眠ることがないから、必要ない」
「必要ない…?」
怪訝そうな視線を向けて、ネジが鸚鵡返しに問う。
睡眠は人間が生きていく上で絶対に必要なものだ、眠らない人間などいない。
「…眠れない、といった方が正しいかもしれない」
「………。」
「俺は身体の中に化け物を飼っている。
 眠ってしまえば、ここぞとばかりに俺の身体を支配する。
 だから……一時も気を休めることができない」
木ノ葉崩しの時の騒動に立ち会っていた者なら、誰もが知っていることだ。
今更隠す必要もないと正直に我愛羅がそう答えると、少し考えるようにしていた
ネジは、そうか、と一言漏らしただけで、特に何も言わなかった。
「お前も……俺を怖いと思うなら、無理に一緒に居る必要は無い」
「なに…?」
「一人でいるのは、もう慣れた」
ぽつりとそう落とされた言葉が、夜の帳にあまりにも小さくて寂しく響いたから。

 

 

「………誰か起きてくるまで、話し相手になってやる」

 

 

一人でこんな静かなところにいてもつまらないだろう。そう言えば、少し驚いたような
目が自分を見てきたので、居心地悪そうにネジは持っていた湯飲みを口元に持っていった。
「お前のところは………みんな、そうなのか?」
「みんな?」
「あのリーとかいう奴も、一緒に居る上忍も、お前も……みんなおせっかいだ」
「ああ……アイツらはちょっと、特殊だ」
苦笑を滲ませてネジが答えるのに、我愛羅はこくりと首を傾けるだけだ。
「あの2人とは、俺が下忍になった時からの付き合いだが……今だに理解できないな。
 だがひとつだけ……思い知った事はある」
ことりと盆の上に湯飲みを置いて、ネジは月の浮かぶ夜空を見上げた。
彼らに初めて出会った時には全く想像もしていなかった。
まさか自分が、こんな風に変わってしまうなんて。
「どうやら、おせっかいは伝染するようだ」
「伝、染…?」
「ああ、でなきゃ俺がこんな風に誰かと話をするなんて、有り得ない」
きょとんとした目で見てくる我愛羅に、ネジはどこか少しくすぐったそうな
笑みを浮かべた。
どちらかといえば、リーともガイとも正反対な性格をしている筈の自分が、
こんな風に誰かに手を差し伸べるなんて、まず考えられない。
少なくとも、昔の自分は自分の事しか見えてなくて、周りのことは二の次だった。
なのに今のこの状況はどうだろうか。
確かに上忍2人のとばっちりを受けてしまったとは思っているが、しようと思えば
知らぬ存ぜぬを貫き通せたはずなのだ。
「ガイもカカシ上忍も、そうバカじゃない。
 お前達を木ノ葉まで連れて来たのにも、何か理由があるはずなんだ」
「………俺には分からん」
「ああ、俺にも分からん」
何がしたくて彼らがこんな事をしでかしたのかは知らないが、己の損得だけで
動くような奴らじゃない事は分かるし、その程度になら自分の上司を信頼している。
「そのうち、嫌でも答えは見つかるさ」
「……そういうものなのか」
「そういうものだ」
よく分からないといった風のままで相槌を打つ我愛羅を見て、ネジの口元にも
柔かな笑みが浮かんだ。
こうやって見ていると、ただの不器用な子供にしか見えない。
と、背後の障子がガラリと開いたので、2人は揃って視線を向けた。
そこに立っていたのは寝惚け眼を右手で擦っているリーだ。
「起きたのか、リー?」
「……トイレ…」
まだ半分寝ている声でぽつりとそう漏らすと、ふらふらとリーは廊下を歩き出したが。
「バカ、そっちじゃない、逆だ」
立ち上がってリーの襟首を掴まえると、ネジはそのまま回れ右をして背中を押した。
突き当たりだぞ、と言ってやれば、ありがとうございます、とやっぱりまだ半分
夢見心地のような声で返事があって、そのままリーはよろよろと歩いていった。
その姿を見送って、肩を竦めるとネジはまた我愛羅の隣に腰を下ろす。
一連をずっと眺めていた我愛羅は、ぽつりと小さく呟いた。

 

 

「………なるほど、おせっかいだな」

「世話が焼けるだけだ」

 

 

やがてふらふらと戻って来たリーにネジが寝るのか?と訊ねると、丁寧に2人向かって
おやすみなさいと深々と頭を下げ、リーは自分で障子を閉めていった。
途中でぐえっとかいうカンクロウの呻き声が聞こえてきたところを考えると、
どうやら身体でも踏みつけられたらしい。
「すまない、兄君をキズモノにしてしまったようだ」
「気にするな、アレは結構頑丈にできているからな、どうという事もない」
そう言葉を交し合って、2人は顔を見合わせる。
素直に苦笑を零したネジとは違って、我愛羅はまだ表情をちゃんと表に
出す事ができないのだけれど。
ほんの少しだけ唇の端が持ち上がったのを、ネジは見逃さなかった。

 

 

 

 

それから明け方近くになってテマリが目を覚ますまで、2人は静かに会話を
続けていた。
それは数多いというわけではなかったけれど、それでも途切れる事は、無かった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 

「ふぅむ、なんとも不思議な事になったな」
様子を見に行っていたガイが戻って来たのは、東の空が白み始めてきた頃だ。
帰って来るのを待っていたカカシが、うん?と首を傾げる。
「何かあったの?」
「いや、………うちのネジが、我愛羅くんと熱く語り合っていた」
「……へぇ?」
熱かったかどうかはさておき、珍しい組み合わせだとはカカシも思う。
「お互い苦手なタイプっていう気がするんだけどねぇ」
「まぁ、ネジはああ見えて面倒見の良い兄貴分の性格をしているからな。
 それに…荒波を一人で立ち向かい、乗り越える苦労と強さを知っている子だ。
 少しぐらいは、共感できる部分を感じ取れたのだろう。
 それで?お前の方はどうなんだ」
「ああ、ついさっきパックンが戻って来たよ」
「間に合いそうか?」
「うーん…………ま、何とかなるんじゃない?
 けどだいぶ怒ってるみたいだったからねぇ」
俺もお前も話し合う前に問答無用で殺されないように気をつけとかなきゃ。
そう軽く告げてきたカカシに、ガイが笑みを浮かべる。

 

それがほんの少し引き攣っていたのは、カカシだけが知る事実だ。

 

 

 

 

 

 

<NEXT>

 

 

 

 

 

 

第3弾はこんな具合で。

珍しい組み合わせだとは思いつつも、なんだかスラスラ書けました。
例えば、リーやガイが認めた人間なら、ネジも仲良くなれるんじゃないかなぁ、
と、そんな気がしました。
今回の我愛羅はどうか知んないけど、まあナルトとかね。
なんていうか、コイツらが気にかけてるような相手なら悪い奴じゃないんだろう的な。

次か、次の次ぐらいでシリーズ完結できるといいな。