2年半振りに戻って来た木ノ葉の里は、以前と変わらないままで
少し背の伸びた自分を受け入れてくれた。
サクラもシカマル達も、少しだけ大人びた風には見えたけれど、
それでもやっぱりそれまでとあまり変わらなくて、少し固くなっていた
気持ちを優しく和らげてくれた。
「ねえ、皆でさ、ごはん食べに行かない?」
「そうだな、ナルトも帰ってきた事だし、いのやチョウジにも声かけて
 くっからよ」
「私もヒナタ達に連絡とってくるわ」
「おお、皆元気にしてるみてーだな、俺も会いてー!!」
拳を握ってそう言ったナルトが、はた、と今作った握り拳に目をやって、
あぁと小さく声をあげる。
「……わり、サクラちゃん。
 急用思い出しちまったってばよ」
「えぇ!?」
「今日はちょっと……明日にしよってばよ、な?」
「まぁ……急な話だしその方が皆も都合つくかもだけど……」
「サンキュ!!
 それじゃ、また明日なー!!」
ぶんぶんと手を振って、ナルトは通りの向こうへと駆けて行く。
なにあれ、と不思議そうな顔で見送っていたサクラがシカマルの方へ
視線を向けると、俺が知るかとシカマルは肩を竦めただけだった。

 

 

 

 

 

 

<The 2nd step which steps forward by you and me.>

 

 

 

 

 

 

別に約束したわけじゃない。
だけど、多分あの場所にいる筈だった。
そして自分は、会いに行かなければならない。
大急ぎで駆けて、柵をひょいと飛び越えて、3本の丸太が中心に
立てられている見慣れた演習場で、見覚えのあるというより一度見たら
忘れられない全身緑のスーツを身に纏っている少年の背中が。
「いた!!ゲジマユ!!」
「えッ……、ナ……ナルトくん…!?」
声を大にして呼びかけると、びくりと肩を跳ねさせて勢いよく
そのおかっぱが振り返った。
地を蹴り木の枝に一度足をかけて、拳を握り締めたままナルトは
反動をつけてリーの方へと飛び掛かる。

 

「覚悟ォ!!」

 

わ、と声を上げて、リーは慌てて構えを取った。
だが相手が誰であれ、奇襲への対応はもう身に染み付いている。
勢いに任せてナルトが振るった拳は、リーの左手で簡単にいなされた。
「ちょ、何ですか、イキナリ……って、うわッ!?」
受け身も取れないであろうと踏んでいたのだが、ナルトは地面に手をつくと、
一度転がり体勢を整えて、また突っ込んで来た。
「甘ぇッ!!」
「おっとっと、これは驚きです、ね」
立て続けに繰り出される拳と蹴りを軽い動作で躱しながら、リーは意外だと
言わんばかりに眉を跳ねさせる。
居ない間にどうやら少し、体術面も強化されたらしい。
「これならどうだッ!?」
距離を置き印を結ぶと、ナルトの周りに10人近くの分身が現れる。
「あッ!忍術なんて卑怯ですよ!!」
「真剣勝負に卑怯もクソもあるか!!」
「……まぁ、一理あります、ね」
びしりと指を差して苦情を申し立てるリーに、何人ものナルトが一斉に
いーっと指で口を横へ広げてみせる。
その光景にほんの少し笑みを零すと、リーの姿がその瞬間にかき消えた。
「げ…ッ!!どこ行ったんだってばよ!?」
慌てて周囲を見回すが、姿を確認する事ができない。
彼の速さに関してはよく知っていた筈だが、以前よりも増して。
しかも、一人また一人と分身の姿が消えていく。
ダメージを受けて倒された証拠、誰がやったかなんて言わずと知れたことだ。
それは少しずつ自分の方へと近付いてきて、ふと右の視界に微かに映った残像を
捉えたナルトは反射的に手を伸ばした。
「へへっ、つーかまーえた!ゲジマユ!!」
「……やりますね」
ナルトの手はしっかりとリーの手首を掴んでいる。
実際、見えたのなんてほんの一瞬で、半分は野生の勘といったところなのだが。
「もらったぁ!!」
ナルトが反対側の拳をリー目掛けて繰り出す。
だが、その前に。

 

「はい、決まりですね!」

 

ふわりと体が浮く感覚がしたかと思うと、次には地面に叩きつけられて
ナルトは思わず息を詰まらせた。
自分の拳が当たるよりも速く、リーの足が自分の体勢を狂わせたのだ。
最後は足払い一発かと考えると、些かお粗末な結果である。
「僕の勝ちですよ、ナルトくん」
仰向けに倒れているナルトの傍にしゃがみ込むと、リーはそう言って
にこりと満面の笑みを覗かせた。
これではもう、お手上げだ。
「あっはははははははは!!」
「!? ど、どうしたんですか、ナルトくん……頭でも打ちましたか…?」
唐突に大声で笑い始めたナルトに目を丸くして、リーが眉を顰める。
まだ収まらないのかくつくつ笑いを零しながらナルトが身を起こすと、
にまりと笑顔を向けて。
「相変わらずお前ってば強ぇなあ」
「…ナルトくんも、強くなりましたね。
 最初の躱しにはちょっと驚かされました」
「…………。」
「どうかしましたか…?」
「さっき、友達に会ってさ。基本的には昔と何も変わんねぇけど、
 それでも皆……どこかほんの少しだけ変わってた。
 けど、なんか……そういうトコが、それだけの時間俺は皆と一緒に
 居られなかったんだって実感させられて……ちょっとだけだけど、
 置いてけぼり食らっちまったような気になったんだ」
「………寂しかったんですか?」
「うーん…そういうのとも少し違うような気するんだけど…、
 俺のいない間にも、皆の中ではちゃんと時間が動いてて、
 でもそこに、俺はいないんだなって思ったらさ…」
「ナルトくん……中身はあんまり変わってないみたいですね」
「う……うっせぇなー」
ふふ、と笑みを零すリーに、ナルトが少し照れたように視線を横へとずらした。
寂しいというのとは少し違うが、それでもどうあったって疎外感はある。
そしてその疎外感というのは、ナルトが嫌うもののひとつだ。
自発的に修行へ出たのだから自業自得といえばそれまでだが、本人はきっと
そんな事は棚上げだろう。
「ナルトくんだって、僕達といない間に流れた時間があるでしょう?
 そしてその時間がなければ、きっと強くはなれなかった。
 だから…ここはグッと我慢しなきゃダメですよ」
「俺……強くなってたか?」
「ええ、ビックリしました」
おずおずと尋ねてくる視線を受けて、リーはそう頷くと親指を立ててみせる。
ほっとしたのかナルトの表情が目に見えて緩んだ。
「僕は、どうですか?
 一応……怪我をしていた頃の遅れは取り戻したつもりなんですが」
「ゲジマユはもともと強ぇから、よく分かんねーってばよ。
 ………けどさ、」
「わ…!!」
腕を取られてぐいと身体が引っ張られる感覚にリーが思わず声を上げる。
なんの抵抗もなく収まってきた身体を抱き締めて、へへ、とナルトが笑みを零した。

 

 

「変わってなくて、なんかホッとしたってばよ」

 

 

その強さだけでなく、自分に向けられる目も笑顔も言葉も。
何もかもが別れる前と何も変わらなくて温かいままで。
それがどれだけ自分を安堵させたかなんてきっとリーは知らないだろうし、
だけどきっと、知らなくてもいいことだ。
彼の傍には自分の居場所がちゃんと用意されていて、それが失われて
いなかったということも、その場所を自分がどれだけ焦がれていたか
ということも。

 

焦がれて焦がれて会いたくて、だから、会いに来たんだという、ことも。

 

 

 

 

 

 

「あー…大暴れしたらハラ減ったってばよ……」
ぐう、と鳴った腹の虫を宥めるように手で擦りながらナルトが嘆けば、
盛大に吹き出したリーが一頻り笑って、立ち上がると服についた砂を
手で簡単に払う。
そうしてから、リーはナルトへと掌を差し出した。
「それじゃ、一緒にごはんでも食べに行きましょう、ナルトくん」
美味しいお店が出来たんですよ。
そう告げるリーの顔と手を交互に見遣ると、ナルトは満面の笑みを
浮かべてその手を掴んだのだった。

 

 

「おかえりなさい、ナルトくん」

 

「………ただいま、ゲジマユ」

 

 

 

 

 

 

<END>

 

 

 

 

 

 

なによこのホノボノっぷりは…!!

なんかもう、出来心で第2弾です。すいません。
でも、なんていうか……ナルトとっていうのが一番書きやすいみたいです。
ネジや我愛羅と違って、ナルトは思った事をちゃんと口に出して言う子なので、
そういう意味では物凄くリーと相性はいいんじゃないかな、なんて思うわけで。
ネジリーや我リーとはまた違ったベクトルで妄想の働く組み合わせです。

ちなみに、下にオマケをご用意。
見てみたい方はスクロールどぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<オマケ>

 

 

 

「あ、ちょっと待って下さい、ナルトくん!!」

「へ?」

「僕としたことが、うっかり忘れるところでした」

 

 

近くの木へと駆け寄って、リーが拾い上げたものは。

 

 

「ゲ……ゲジマユ………それ、」

「はい?」

 

 

ぷるぷる震える手でナルトが指差したもの。

リーが手にしている、中忍以上に支給されているジャケット。

 

 

「もしかして……お前も中忍なのか!?」

「あ、はい。お先に失礼しましたよ、ナルトくん」

「ちーーくしょーーーーー!!!」

「ナルトくんも、次の試験は頑張って下さいね。
 僕、応援に行きますから!!」

「嬉しくねぇーーーーーー!!!!」

 

 

 

がんばれナルト!!(笑)