しんと静まり返った演習場の中、呆然と佇む7班・ガイ班の子供達。
そして縄で縛られ転がったままの砂隠れの子供達。
ひゅう、と風が一陣通り過ぎて。
「「 立派な誘拐だソレはーーーー!!! 」」
7班とガイ班の子供達は一斉に悲鳴を上げた。
<Be well-informed each other in the feelings.>
「や、やばい、やばすぎるってばよ…」
「砂とまた仲悪くなったらどうするんですか!!」
頭を抱えてしゃがみ込んだナルトの隣で、サクラがガイに食ってかかる。
だがガイは笑顔のまま片手を上げてサクラを制すると、ちらりと視線を
砂の子供達の方へ向けた。
「まぁ、大丈夫だろう」
「そんな悠長に構えてて良いのか」
「ネジまで、全く……心配性だな。
ちゃんと伝書の鳥も飛ばしたんだぞ」
「伝書……何と書いたんだ?」
怪訝そうに眉を顰めるネジへ向かってバチーンと片目を瞑ってみせて、
お得意のナイスガイポーズを取りながら。
「この子達の担当上忍に宛てて、な。
部下達は預かった、返して欲しくば2日以内に木ノ葉隠れの里まで
来られたし。1分1秒でも遅れた場合、彼らの命の保証は無い。
………ってな!!」
「あああ………もうだめだ………」
明らかな脅迫状的内容を知って、ネジががくりとその場に膝をつく。
「おいカカシ、あんたがついてながらどうして…」
呆れた表情を隠しもせずにサスケがガイの隣に立つカカシにそう言えば、
漸く気がついたかのように、ん?と首を傾げて。
「………ま、大丈夫なんじゃない?」
気楽と言うには些か行き過ぎな発言に、サスケは額に手を当て
大仰な吐息を零した。
危機感というモノが全くない。
「け、けどガイ先生!
2日以内って、いくらなんでも……」
「そうですよ、どんなに急いでも3日はかかるでしょ!?」
右手を上げて問い掛けるリーに頷きながら、テンテンもそう口を出す。
だが、それすらも自分達の上司にとっては問題外だったようだ。
「心配はいらんぞ、リー!テンテン!!」
「いらんって言われても…どう考えたって無茶だわ!!」
「ふぅむ……」
どう言っても食い下がってくる子供達に、ガイは少し困ったような顔をした。
当然ながら、たとえ2日以内に来れなかったとしても、自分達は砂の子供達を
どうこうしようという気は全く無い。
そういう事が目的では無いからだ。
思案顔で俯くガイを横目で眺め、小さく吐息を零してカカシは口を開いた。
「ま、いいでしょ。
とりあえず2日、砂隠れのキミ達には木ノ葉に滞在してもらう。
もちろん、その後はちゃんと解放させてもらうから、心配しなくていい。
了承してくれるなら、その縄を解こう。どうだい?」
「どう考えても一方的じゃん、それ……」
「とはいえ……こっちの答えも決まってるけどな」
カンクロウとテマリがカカシの言葉に苦笑を零して頷いた。
砂隠れの里にも自分達にも危害を加えるつもりが無いのを理解したからだ。
もしそうでないのなら、こんな悠長にお喋りなどしている雰囲気では
無いだろう。
だが、無言でじっとカカシとガイの2人に視線を向けていた我愛羅は、
やはり無表情のままで口を開いた。
「………来るわけがない」
「ん?」
「複数の仲間が捕まり、そしてそれを救出する場合、向かう人間も必ず
複数でなければ上手くはいかない。
だが、俺達が捕まったことを話して誰が向かうかを話し合っている
時間は期限を考えても無いだろう。
そうなると………それを知った人間がすぐさま救出に動くしか
無いが………」
ゆっくりとした口調だが、それでもこんなに喋る我愛羅は兄弟達も
そう見ることがなくて、兄と姉は驚いたように目を瞬かせる。
一旦言葉を区切り、少し考えるような素振りを見せたものの。
「だが、それこそ有り得ない話だ。」
我愛羅はそうはっきりと言い切った。
全員がその言葉に口を噤む。
しんと静まり返った中で、カカシとガイが困ったように顔を見合わせた。
確かにこれは、難関だ。
「んー…まぁとにかくさ、そう決めつけちゃうのも良くないでしょ。
とりあえず2日、黙って待ってみなさいって、我愛羅くん」
「……カカシの言う通りだ。
それからでもきっと、遅くはない」
そう言い募る2人に我愛羅はまだ疑わしげな視線を向けたが、それ以上は
何も言わなかった。
全員が了承したと受け取って、カカシが術を外し縄を解く。
漸く自由を取り戻した砂の子供達は、ゆっくりと身を起こした。
固まった身体を解しているのを眺めながら、それで、とサクラが口を開く。
「これから、どうするんですか?先生」
「どうするって………どうすんの、ガイ?」
サクラから受けた視線をそのまま隣に立つ男の方へと流せば、ガイが
腕を組んで唸りを上げる。
「………考えてなかった。」
「うわ…バカ……」
「ちょ、ガイ先生!!ほんっとーに考えナシなんだからッ!!」
「お前んトコの上司って……」
「何も言うな。」
すまん、とガイが謝れば、カカシが大仰なため息を零し、テンテンが
拳を握り締めてガイを責め立てる。
その横でサスケからのじとっとした痛い視線を一身に受けながら、
ネジはそう返すことしかできないでいた。
元から無鉄砲なのは分かっていたつもりだったのだが、なるほどこれでは
彼の影響を一番受けているだろうリーが、『ああ』なってしまう筈である。
「…それで?
極秘で連れて来てしまった以上、いくら顔見知りが多い木ノ葉といえど、
この子達に大っぴらに歩かれちゃ困るんじゃない?」
「そりゃまあ、そうだが。
とはいえ3人をバラバラにするのも得策とは言えん」
残念ながら、ガイもカカシも3人纏めて面倒を見れるほど部屋が広くない。
かといって街中で宿を取ってしまえば、彼らの存在が即バレだ。
「俺んちも3人いっぺんは無理だってばよ?」
「アタシは……親が居るし」
「私も…匿うのはともかく、バレないようにしなきゃならないなら、
ちょっと無理かな…」
ナルトの家は狭いというより散らかっているからで、共に両親のいる
テンテンとサクラも顔を見合わせて首を振る。
つまり、彼らの存在を周囲に知られない程の広い家があって、且つ3人纏めて
面倒を見れる所といえば。
「……………そんな目で見るな。
分かったから。頼むから。」
全員の視線を一身に受けて、正直ネジは泣きたくなった。
「………ネジ、ご愁傷様です」
ぽん、と肩を叩いて労いの言葉をかけるリーの腕を、ネジはがっちりと掴む。
思わず身を引きそうになるリーへと鋭い視線を向けて。
「お前も来い」
「な…ッ、なんで僕もなんですかッ!?」
「バカかお前、俺とアイツらで会話が成り立つと思うな!」
「そ、そんなこと自信満々に言わないで下さい!!」
悲鳴のような声でそう訴えるが、ネジの意思は覆らなかったようだ。
仕方無い、と吐息を零しながらリーが首を縦に振るまで、ネジは腕を
掴まえたまま離そうとしなかったのもある。
「ま、ネジくんの家なら問題なさそうだ」
「うむ、宜しく頼むぞネジ!!」
「……俺はアンタらの責任感の無さを上層部に訴えてやりたい……」
うんうんと頷きを零すカカシと、相変わらず親指を立てて爽やかな笑みを
覗かせるガイに、心底恨めしげな視線をネジは向けるしかないのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
事実、誰かを匿うという点において、ネジの家ほど適した場所は無い。
日向一族の、しかも当主の弟の屋敷ともなれば、宗家ほどではないにしろ
それなりに大きい。
だが、やはり分家は分家でしかないのか、屋敷の広さに大してそこに居る
人数となれば若干寂しく感じるほどだ。
父は既に亡く、忍の世界とは無縁の母と通いの使用人が2人、そしてネジ。
たったそれだけだったので、部屋も余っていれば人を連れて来ても誰かが
気に留めるわけでもない。
宗家とは場所も少し離れているし、行き来もどちらかといえば用があれば
こちらから出向く立場であることから、2日間程度ならばまずバレる事には
ならないだろうと思う。
結局日が暮れるまでそのまま演習場で修行という名のシゴキを上忍2人から
受け(もちろん砂忍連中も一緒にだ)、外で夕食を取って戻って来たのは
すっかり空が夜の闇を覆ってからだった。
人を泊めるという話は既に通してあるので、人数分の夜具は通いの使用人が
用意してくれていた。
「この家から出なければ、あとは好きにしててくれていい。
だが、あんまりウロチョロするなよ」
「へぇ〜、広いトコじゃん、気に入ったぜ、俺」
「カンクロウ……お前余裕だな……」
ばたりと畳の上に大の字に寝転ぶ弟を見て、テマリが苦笑を見せる。
我愛羅はただ、無言で座り込んだままだ。
それらを一瞥すると、じゃあな、と告げてネジは自室に戻ろうとした。
だが、その肩をリーが掴んで止める。
「……どこ行くんですか、ネジ」
「自分の部屋に戻るだけだ」
「それじゃ僕を連れてきた意味ないじゃないですか!!」
「……………。それもそうだな」
会話が成り立たないなんて言ったが、最初から会話するつもりすら無いのなら
自分なんていなくても構わないだろう。
だがそんな事に気がつかなかったらしいネジは、リーの言葉に少し考え
こっくりと首を縦に振るだけだった。
がくりと肩を落としたリーが、もう何度目か分からなくなった吐息を漏らす。
「じゃあ、こうしましょう、ネジ」
「どうするんだ」
「ネジも僕も、彼らとこの部屋に居ましょう」
「………は?」
「皆でこの部屋でお泊りすればいいんです。
まさか嫌だなんて言わないですよね、ネジ!?」
ふふふふふ、と気持ち悪い笑みを見せて言うリーは、恐らく機嫌を損ねている。
これは迂闊なことを言わない方が良いかもしれないと感じたネジは、それに
素直に頷く事で、この状況を脱する他に方法が無かったのだった。
<NEXT>
亀の歩みで進んでおります、このシリーズ。(笑)
上司と部下の関係についてちょっと書きたかっただけなのに、
どーうしてこんな展開になっちゃうかなぁ…。(滝汗)
バキさん早く来て下さい。
多分7班とガイ班の子達はみんなそう思ってる。(笑)
私もだけどね!(じゃないと話終わんないし/爆)