※この話は、劇場版『大活劇!雪姫忍法帖だってばよ』を観た人の方が分かり易いかもしれません。
 御覧になってない方はやや分かり難い点があるかもしれませんが、ご了承ください。

 

 

 

 

それは雪の国からの救援要請だった。
急を要するこの依頼に、動いたのは中忍でも上忍でもなく、暗部である。
理由のひとつは、生半可な忍では対処できない内容であったこと。
そしてもうひとつ。

 

これは国が絡んだ戦争であったからだ。

 

 

 

 

<雪解けの水、来たる春。>

 

 

 

 

 

 

「クーデター、か」
「そうだ…だから向かうべきは、此処だ」
そう言って机に開かれた地図を指した、その先にあるのは雪の国の王が住む城。
直接現王を狙って起こった内部の戦争だから、のんびりはしていられない。
「依頼は現王側の派閥からで、内容は現王と一人娘の救出と保護。
 国は捨てることになっても構わないらしい」
「……ほう?」
「元々、現王側が圧倒的不利な状況にあるらしいからな。
 せめて王と姫が生き延びさえすれば、国はまた建て直しがきくって事だろ」
「なるほどな……他の連中は?」
「もう先に行ってる。俺達も出るぞ」
「ああ」
港につけた船の中、一通りの確認をすると2人は仮面をつけた。
素性をバラしてはいけないこの暗部という世界で、それは必須のものだ。
そうして外に飛び出そうとする黒髪の男の腕を、白銀の髪をした方が
掴まえた。
「…………なんだ?」
「気をつけろよ…………ガイ」
「お前もな、カカシ」
ここから先は別行動だ。
お互いこくりと頷き合うと、今度こそ本当に2人はそこから姿を消した。

 

 

 

 

城内で戦闘が起こっているという事は、敵がそこに集中しているという事だ。
外部からの援護を阻止する者も外にいるかもしれないが、内乱は起こすほうも
起こされるほうも命懸けだ、恐らくそこまで手が回っていないだろうと思われる。
依頼に対する木ノ葉の対応は、暗部3小隊の投入。
国同士のぶつかりあいでない以上、事は内々にそして迅速に済ませなければならない。
大っぴらに木ノ葉が関わっていることが知れれば、クーデターが成功してしまった後、
こちらが睨まれることになりかねないからだ。
暗部を別々の方向からバラバラに城内へ潜入させ、現王とその一人娘、
そして周囲の人間を可能な限り救出する。
それが今回の任務だった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 

父を捜して泣く幼い少女を一人、カカシは城内で保護することができた。
一年中雪の降るこの国では必須のものなのだろう雪橇までも拝借して、
その荷台に少女を隠し、とにかく安全なところまで連れて行こうと
今だ血の匂いと炎が蔓延する城から飛び出した。
少女は、現王の一人娘である。
「顔を出さないで!敵に見つかってしまう!!」
幌から顔を出し父を呼ぶ少女をそう強く咎めて、カカシは内心で
舌打ちを漏らしていた。
さっきから自分達を追う気配を感じているのだ。
分かるだけで、3人。
恐らく一人は先刻城内で対峙した者のはずだ。
内乱を起こした者達の力は想像以上に強く、内々に、などという
木ノ葉の希望は割と早い段階で打ち砕かれていた。
それは場慣れしたカカシといえども簡単に切り抜けられることではなくて、
できた事といえば相手の目を眩まして、少女を連れ逃げることだけだった。
剣を交えてみて良く分かった、今の自分では勝てないということ。
「どうするか……」
少女を抱えている以上、無駄な戦闘は避けるに越したことはない。
だがどのみち、このままでは追いつかれる。
港まで辿り着ければ待機している仲間もいるし、せめて少女を託すことさえ
できれば自分も戦うことができるだろう。
しかしながら、今は自分の命より敵の命より、少女の命を一番に
考えなければならないのだ。
「くそ…!」
橇を引く犬のスピードにも限界がある、これ以上は無理だろう。
八方塞がりな現状をどう打開するべきか頭を悩ませていると、幌の隙間から
遠ざかる城を見つめていた少女が声を上げた。
「……誰か来たよ!!」
「もう来たのか、早い……」
港までの道程はまだ半分程残っている、港に着くより追いつかれる方が先だ。
どのみち追いつかれるのなら、とカカシはそこで橇を止めた。
戦うしかもう、道は無い。
「静かに、息を殺してそこに居て」
少女にそう言い聞かせると幌を閉じ、カカシは荷台を背に庇うようにして立つ。
手にはクナイ、気を研ぎ澄ませて敵が現れるのを待って。
「上か!!」
強い殺気が膨らむのを感じて、氷の崖の上に視線を向ける。
そこから獲物を狙う鷹のように飛び降りてきたのは、忍装束の男が3人。
一度に来るとは更に分が悪い、と目を細めたカカシの視界に入ってきたものは
しかしながら、それが全てではなかった。
もう一人、崖の上から彼らを追うようにして飛び降りてきた、木ノ葉の忍。
「な…ッ!?」
驚いたのはカカシもそうだが、敵の忍達も同じだったようだ。
全く、気配すら感じさせなかったからだ。
2人は同時に蹴り上げられ、1人が拳で打ちのめされる。
雪煙を上げて地面に叩きつけられた敵とクナイを構えたカカシの間に、
暗部の姿をした唯一の加勢者がひらりと下り立った。
大きく目を見開いたカカシが声を上げる。
「お前…………どうして此処に!?」
全く別々の所から侵入したのだ、自分の居場所や状況など知りようがないだろうし、
ましてやこんな所に現れる筈がない。
目にも止まらぬ身のこなしと、雪風に吹かれ流れるようになびく黒髪の
おかっぱで、それが誰なのかなんて確かめなくてもすぐに分かった。
「理由は後だ、此処は俺に任せて先に行け!!」
「バカ言え!!お前だけで……」
「大丈夫だ、俺に任せろ。
 此処は誰も通しはせん!!」
「だったら俺も…」
「お前は守らなければならないものを今、抱えているだろう」
静かに諭すような声音で言われ、カカシは視線だけを背中に向けた。
守らなければならないもの、この国にとって決して失わせてはいけないもの。
それは、雪の国のまだ幼い姫君。
「順番を取り違えるな、馬鹿者が」
ここで2人戦うのもひとつの方法かもしれないが、それだけ敵側にも
援軍を寄越す時間を与えるということだ。
どう考えても得策じゃない。
「必ず後で追いかける、とにかくお前は姫を連れて先に行け!!」
「………船に待機してる連中に預けたら、すぐに戻る」
「ああ、それでも構わん」
こくりと頷いて返してくるのを見て、カカシは彼に背を向けた。
もう道程は半分ほどだ、ここからなら橇より自分が走った方が速いだろう。
幌を開け少女の手を取りそこから出て来るように言う。
驚いた表情をしている子を背中に背負って、カカシがもう一度振り返った。
「絶対に死ぬなよ」
声をかければ、ほんの少しだけ。
僅かに笑うように肩が揺れるのが見えた。

 

「絶対だ!!」

 

ぐっと親指を立ててそう強く返してくれた、その顔は仮面で見えなくても
きっと笑っているはず。
こくりと首を縦に振ると、カカシは港へ向かって駆け出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カカシの背が見えなくなった頃に、背後で敵の気配が動いた。
それにガイがゆるりと振り返る。
本気で仕掛けた筈なのだが、まだ動けるとは正直予想外だ。
ゆっくり身を起こし、身体に纏わりついた雪を払いながら敵が再び構えを取る。
よくよく見れば、急所を狙った拳も蹴りも、どういったわけかあまり彼らの
ダメージになっていないようなのである。
蹴りを入れた時の感触は、言うなればまるで固い鎧で身を守っているかのような。
いや、実際にそうなのかもしれない。
「なるほど…………氷遁系の術か」
自分が攻撃を加える直前に忍術を使って防御した、そういう事だろう。
面倒だな、と呟いてガイは指の骨を鳴らした。
1人で3人を相手にするのも大概に面倒なのだが、それに加えて相手は
そこそこの術使いらしい。
どちらかと言えば忍術も幻術もガイにとっては苦手分野なので、些か不利である。
気をつけて周囲を窺ってはみるが、今目の前に居る連中以外の存在を感じ取れないので、
どうやら他に追っ手がいるという様子では無さそうだ。
但しそれは、彼らが逃げて増援を呼んで来なければ、の話。
もう少し分かりやすく言うならば。

 

「……悪いが、お前達を生かしては帰さんぞ」

 

 

 

 

 

 

今ここで、彼らの生命を奪うしか、ない。

 

 

 

 

 

 

<NEXT>

 

 

 

 

 

 

劇場版のカカシ先生の回想シーンから、こんなとんでもない捏造が生まれました。
ちなみに劇中での描写では、ソリに乗って逃げてる途中で、顔を出すなと姫に
怒鳴ってるシーンだけだったんですけどね、それがこんな話に。(笑)
いや、ガイ先生がいたら面白いなぁと思っただけです、ハイ。

ひっさびさに、クソ真面目に戦場を頑張ってみました。
戦場で共に戦う姿っていうのが、私にとって彼らのベストポジションなのかもしれません。
ほのぼのまったりもいいですが切羽詰ってるのも大好きなものですから。(笑)
だから木ノ葉崩しの時の2人が、原作では一番好きです。背中合わせの関係バンザイ!!

 

真面目な話に疲れましたがあと半分、頑張ります。