木ノ葉の里の演習場のひとつ、そこに居るのは7班とガイ班の面々。
子供達の視線は足元に集中している。
ぽかんと口を開ける者や、眉間に深く皺を刻んでいる者など、表情は様々だが。
視線の先には、縄で身体を縛られて身動きを封じられた子供が3人。
彼らはみな、面識があった。
「我愛羅にカンクロウにテマリじゃん…どうしたんだってばよ?」
「それはこっちの台詞じゃんよ!」
「コイツらがイキナリやってきて、気が付いたら縛られて連れてこられたんだ!」
ナルトの言葉にそう答えたカンクロウとテマリの視線は、木ノ葉の上忍2人に向いていた。
「はっはっは!!やぁキミ達、手荒な真似をして済まなかったな!!」
「あーあ…ホントにやっちゃったよ…俺、知ーらないっと」
「馬鹿言うなカカシ、お前も同罪だぞ」
「………まぁ、いいけどさ」
その日も、何事も無く一日を過ごしているだけの筈だった。
面倒見の良い上の弟と、少しずつ打ち解け出してきた下の弟と、気丈な姉と。
それをいきなり風のように現れたカカシとガイが、3人纏めて連れ去ってきたのだ。
縛られた縄は頑丈で、おまけに結び目の上からカカシが妙な術をかけたらしく、
どれだけ力任せにしてみても、全くびくともしなかった。
「いいから解け」
「うむ…そうしてやりたいのは山々だが、逃げられても困るのだよ」
ぼそりとそう吐き出した我愛羅に、ガイは眉を下げて頭を掻きながらそう答えるだけだ。
あの我愛羅ですら、ガイのスピードには全く太刀打ちできず捕まってしまったのだ、
テマリとカンクロウにロクな抵抗ができたとも思えない。
警戒心剥き出しで睨んでくる砂の子供達を見遣って、リーが勢いよく右手を上げた。

 

「それで先生!どうして3人を捕まえたんですか!?」

 

 

 

 

<Be well-informed each other in the feelings.>

 

 

 

 

 

 

事は一ヶ月前ほどに遡る。
木ノ葉崩しの一件以降、完全降伏を訴えてきた砂の国の忍達は、大国としての
力を失っている木ノ葉に対して、表からも裏からもサポートする存在になっていた。
当然、砂の忍が木ノ葉に訪れる機会はどうあっても増えてくる。
その日、そんな事情でやってきた砂の忍を一人、カカシとガイは何気無く
酒でも飲みに行くかと誘った。
相手は、砂の忍の中では恐らく最強と思われる少年を含んだ3人を部下に
おいている上忍で、名をバキという。
酒が入れば人間多少は開けっ広げになるもので、意外にもこの3人の会話は
それなりに弾んでいた。
とはいえ内容はもっぱら木ノ葉と砂の情報交換のようなものだ。
ところが、である。
途中から話題は自分達が抱える部下の話題になり、しかも酒まで入ってるものだから、
いわゆる部下自慢のような展開になった。
うちの子の方が可愛い、いやうちの子の方が、という不毛な応酬をカカシとガイが
繰り広げている、その隣で何を思ったか突然バキは机に突っ伏して泣き出したのだ。
これには流石のカカシもガイも口を噤んで顔を見合わせる他は無く。
「……ど、どうしたんだ、いきなり……」
「別に泣けるような話をしたつもりはないんだけどねぇ…」
「い、いや……その、すまん」
机から顔を上げ、涙で濡れた顔を服の袖で乱暴に拭いながら、バキは苦い笑みを零す。
「あんたらの話を聞いてたら……羨ましくてなぁ」
「はぁ……」
「羨ましい……?」
こくりと首を傾げるカカシと訝しげに眉を顰めるガイを余所に、バキは手元にあった
酒の入ったグラスを傾けて、自嘲気味な表情で話し始めた。
「あんたらの話を聞いてるとな、本当に信頼しあったいいチームじゃないか。
 なのにうちときたら……お世辞にも兄弟仲が良いとは言えない3人だ。
 しかも一人はあの我愛羅でなぁ……アイツは人の話に耳を傾けようとはせん。
 任務だと言い渡せば素直に従うがなぁ……カンクロウとテマリだって、
 形式上、俺を先生とは呼ぶが……そういった馴れ合いをしようとした試しがない」
「あー……あの3人じゃあなぁ……」
「なんていうか…その……ご愁傷様?」
なるほど、砂の国では師弟仲良しという関係ではないらしい。
それを理解しはしたが、だが、とガイは顎に手を当てて首を傾げる。
「だが、お前さんは俺達を羨ましいと言ったじゃないか。
 それはつまり、本当はそういう信頼関係を築きたいわけじゃないのか?」
「うーん……でもそれってちょっと難しいな」
相手があの3人では、例えカカシやガイが担当していたとしても
梃子摺っていただろう。
特に我愛羅などは、どう接して良いか分からない。
しょんぼりと項垂れるバキを見遣って、ガイがちびりと酒を一口。
その口元がやんわりと弧を描いたのだが、グラスに隠れて誰かに見られる
という事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって、同日同時刻のナルト宅には来客があった。
バキと共に木ノ葉に訪れていた我愛羅と、遊びに来ていたリーである。
ひとつのテーブルを囲んで夕食を共にしながら和やかに談笑する
ナルトとリーの傍で、我愛羅が半分は相槌のようなものだが時折
口を挟んでいる。
相手がそれなりに関わり深い2人だからだろうか、我愛羅の中にも
あまり警戒心というものが無いようだった。
木ノ葉崩しの一件以降、少しずつではあるが周囲に溶け込もうと
努力している風も感じられる。
その気持ちが嬉しくて、ナルトもリーもつい我愛羅に構ってしまうのだ。
「でも、ナルトくんや我愛羅くんが羨ましいですよ。
 僕にも忍術や幻術が使えたらなぁって、やっぱり今でも思いますし」
「なに言ってんだよ、体術だけであんな凄ぇお前が忍術まで
 使えちまったら最強じゃんかよ。絶対反対ーー!!」
「……反対って。」
「なー、お前もそう思うよな?我愛羅」
ビシリと持っていた箸の先でリーを指しながらナルトが言う。
そんなナルトと思わず苦笑が隠せないリーの顔を交互に見遣り、
我愛羅がぽつりと口を開いた。
「……天は二物を与えず、というだろう。
 あれだけの体術があるのに贅沢を言うな」
「う……そ、それはそうかもしれませんが……。
 でもやっぱり思うじゃないですか!!
 ナルトくんも、カカシ先生みたいにビシバシ術を使ってみたいって
 思ったりするでしょう?」
「おー!!そりゃ思うってばよ!!
 けど、ガイ先生みたいに腕っ節が強くってもいいなぁって思うけどなー」
どちらにしても、まだ下忍の2人にとって上忍というレベルの忍はいつだって
憧れの的になるということだ。
そういえば、と箸を咥えながら顔を上げて、ナルトが我愛羅の方を見る。
「なあ、なあ!!
 我愛羅んトコの先生って、どんな奴なんだってばよ?」
よくよく考えてみれば、中忍試験の時などに我愛羅達と一緒に居る姿を
見ていたので顔は分かるのだが、名前も、どんな人なのかすらも、
ナルトやリーは知らなかったりする。
その問い掛けに、やや視線を上へ持ち上げた我愛羅は少しの間押し黙った。
「……名前は、バキという。
 どんな奴かと言われても………よく分からん」
「分からないって……我愛羅くんの先生でしょう?」
「担当上忍というだけだ。
 任務の時以外に一緒に居るという事もないしな」
「え、じゃあ、稽古つけてもらったりとかしねーのかよ?」
「まぁ…………ないな。」
自分の使う砂の術は特殊で、ほとんどの術が自己開発だ。
主に遠距離攻撃が中心なので体術もさほど必要にならない。
動く必要性が殆ど無いからだ。
テマリやカンクロウにしたって、一緒に修行なんてした覚えが無い。
3人一緒にいるとはいえ、戦う時はそれぞれの個性を活かした
個人戦になってしまうのでチームワークすら必要なのかどうか。
それに、とそこで言葉を切って我愛羅が僅かに俯いた。

 

「今まで俺を化け物扱いしてきた大人の一人だ。
 ……今更、馴れ合いたいなどと、向こうだって思いやしないだろう」

 

そう無表情に語る我愛羅を見て、ナルトとリーは困惑した表情で
顔を見合わせる以外に無かったのだった。
決してそんな事は無い、と言ってやれれば良かったのだけれど、
残念だがそう断言してやれるほど、彼らはバキの事を知っている
わけでは無かったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、修行の合間に何気無くリーがガイに話したのが、この我愛羅との
会話である。
「ふぅむ……我愛羅くんがそんな事を……」
「少し悲しいなぁって、思いました。
 どこか突き放すような……何にも期待してないような、
 そんな感じがしたんです」
腕を組んで唸りを零すガイの傍で、座り込んだリーがしょんぼりと俯く。
リーの言葉で思い出したのは、カカシとバキの3人で飲みに行った時のことだ。
恐らくはどこか気持ちがすれ違ったままで、だが彼らは間に出来た溝を
埋める方法を知らないのだろう。
思ったよりずっと、簡単なことなのに。

 

あれからずっと迷っていたのだが、これで腹が決まった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 

その暫く後、ガイはカカシを里の片隅にある慰霊碑まで呼び出した。
あれから随分と日にちが経ってしまっていたのだが、しかしそれはもう
仕方の無い事だろう。
お互いに上忍という立場で、あちこちからの任務に追われ、2人ともが
時間の空いている時をシズネに頼んで探してもらったのだが、結局は
こんなに遅くなってしまったのだ。
それでも、纏まった時間があったのにはラッキーと思うべきだ。
「ようガイ、珍しいじゃないか、こんな所に呼び出すだなんて。
 しかもこんな真夜中に。
 ってことは、勝負じゃないだろ?」
「お前なら来ると思っていたぞ、カカシ。
 なに、そんな大した用事じゃない。
 ちょっとお前にも協力してもらいたいだけだ」
「ま……そろそろ呼ばれるんじゃないかとは思ってたけどな」
「うん?」
「………いや、こっちの話」
大体にして考えてみれば、あんな話を聞かされてガイが何も思わない筈がない。
だから逆に未だ動こうとしないガイを不思議に思っていたぐらいなのだが、
これで漸く合点がいった。
お互いがオフの日を狙っていたのだと考えれば。
「で、協力って?」
「名付けて、『愛と青春の救出大作戦!!』だ」
「………お前ってさ、基本的にネーミングセンスってモンがないよね」
「ん?何か問題があったか!?」
「いや………別に」
きょとんとした顔で言うガイに、カカシが僅かに視線を逸らして
そうとだけ答えて誤魔化した。
センスはともかくその名を聞けば、何をしたいのかは一目瞭然だ。
「カカシを巻き込むのはどうかとも思ったんだが……、
 流石に俺一人では、誰にも見つからずに3人ともを連れ帰る自信がなくてな」
だがこの作戦を実行に移すなら、バキのチーム員3人全員でなくては
意味を成さない。
どうしても、せめてもう一人助っ人が欲しいところ。
最初はリーをと考えもしたのだが、彼では実行に移す際に心許ない。
となると残るのはカカシしかなく、だが失敗は許されないこの計画を考えれば
誰よりも頼りになる仲間だった。
「すまんなカカシ、巻き込むつもりは無かったんだが……、
 しかしやはり、お前しかいないと思ったんだ」
「ま、いいよ別に。何となくそんな気してたからさ。
 そんじゃとっとと始めましょ、ガイ」
言ってカカシは懐を弄ると、内から取り出したもののひとつをガイに向かって
放り投げる。
上手く受け取ったガイは、それを見て軽く目を見開いた。

 

 

それは、砂隠れの里へ入るための、通行証。

 

 

一応カカシに協力の了承を得てからと考えていたのだが、これは驚いた。
「俺もお前もすぐに動けるだろ?」
「………流石だな、カカシ」
通行証を握り締めて、ガイが口元に笑みを乗せた。

 

 

 

 

 

 

<NEXT>

 

 

 

 

 

 

ちょっと書いてみたかった話なんです。(笑)
7班とガイ班とくれば、関わり深いのは砂班ですよね!

ガイ先生はちょっとおせっかいなぐらい、誰かの面倒を見てるといい。
んで、そういうガイを見て、カカシもしょうがないなぁ…って思いながら
律儀に付き合ってあげるんだよ。
カカシはガイのように思うことはあっても、行動に移すタイプじゃないと
思うので、むしろそうやって動こうとするガイがいることで助かってると
思います。んで便乗するんだ。

カカシとガイを核に置きながらも、本題は砂班の人間関係なので、
そこの辺りは手抜かりなく書きたい所存。

次でケリがつくか!?