「ようし!!約束通りに来ていたな、カカシよ!!」
「……ガイ、遅れたなら素直にゴメンって言えば?」
凭れていた木から身を離し、カカシは腕を組んで仁王立ちしている
男へと呆れた視線を送った。
こうやって、ガイがカカシを呼び出すのはよくある事だ。
もちろん内容は勝負を挑むためであり、カカシもそれは重々承知している。
面倒だとは思いつつも、だがカカシはそれを断った事が無い。
一応は約束の場所までやってきて、とりあえず「今日はやめない?」と
声をかけてはみるのだ。
実際のところ、ガイがそれを聞き入れたことも無いが。
大体はカカシがギリギリで来るか若干遅れて現れるので、約束の場所には
ガイが先に来ているのだが、珍しい事に今日は彼が遅れてやってきた。
やたら時間にはキッチリしている奴なので、姿が無いなら無いで気にはなる。
だからひとまず待ってみるかとカカシが近くの木に凭れ本を広げて、
彼がやって来たのはそれから15分後の事だった。
「……で、今日は何すんの?」
「今回はこっちが内容を決めていい番だったな。
 新技も試したい、今日は体術勝負にさせてもらうぞ!!」
「……ハイハイ、っと」
本を閉じて腰元のポーチに仕舞うと、カカシが大きく伸びをする。
ガイの体術レベルはよく分かっているので、それがメインの勝負となると、
いくらカカシといえども油断すれば怪我をしかねない。
気合いを入れなおして、どっからでもいいよ、とカカシが声をかける。
それにニィ、と大きく口元に笑みを表して、ガイは拳を固めた。
「行くぞ!!」
「お手柔らかに。」
言うが早いか、ガイが目にも止まらぬスピードでカカシの懐に飛び込んだ。
とはいえ既にカカシの目はガイのスピードに慣れている、受け流すだけなら
簡単なものだ。
立て続けに繰り出される拳を全て紙一重で躱して、さてどう反撃したものか、と
カカシは思考を巡らせるのだった。

 

 

 

 

<Your kindness smarts my chest.>

 

 

 

 

勝負が長引くようなら写輪眼で一気にカタをつけるかと目論んでいたのだが、
その不自然な流れにカカシは僅かに眉根を寄せた。
得意のガイの回し蹴りが、時間を追う毎に減ってきている。
しかも、攻撃の威力まで。
まともに食らうと辛いぐらいの重い蹴りは、今では両手で受け止めることが
できる程だ。
スピードに劣りは見えないものの、明らかにガイはバテている。
今まで何度も勝負をしてきたが、こんな事態は初めてだ。
「……ちょっと、ちょっと待った、ガイ」
「待ったナシだ!!」
上段の蹴りを軽くいなしながらカカシがストップをかけるが、ガイには一向に
やめる気配が無い。
一回叩きのめさないと分からないのだろうか、いや、この男なら一回ぐらい
のした程度では、絶対また立ち上がってくる。
「だからさ、お前………聞けって!!」
「言うヒマがあるならこのまま言え!!」
「…………くそ、」
威力は下がっているがスピードは落ちていない。
実際のところは避けるか受けるか流すかのどれかに徹するのが精一杯で、
反撃に移すには少しばかり分が悪い。
だが、カカシは何としてもこの勝負を止めたかった。
全く言う事を聞く気のないガイにも腹が立つ。
と、いうわけで。

 

「……本気出すぞ」

 

左目を覆っていた額当てをもどかしそうに片手で外すと、カカシはそれを
無造作に後方へと放り投げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

拳と拳が真っ向から激突する。
カカシの右手はガイの左手を、そしてガイの右手はカカシの左手を、
それぞれ捉えて離さない。
鍔迫り合いのような状況に持ち込んで、だがお互いの力はほぼ互角だ。
本来、純粋な力をいえばガイの方が強い筈なのだが、これはどうしたことか。
「………ガイ、お前本気でやってる?」
「当然だ!俺はいつでも全力だ!!」
「…あ、そう。
 それで、俺の話聞いてくれる気になった?」
「どうだかな!!」
「全く……強情だねぇ。
 しょうがない、これで勝負を決めるか」
両手を封じている上に、力で押し合っている以上ガイが足技を使うのは
まず無理だろう。
どうやらそれはガイも分かっているようで、あくまで純粋に腕の力のみで
勝負をかけてきている。
それなら、とガイの足元を見ていたカカシが視線を上へ持ち上げた。
気付いたのか、軽く目を見開いたガイは、慌ててその目を逸らす。
相手は写輪眼を持つので、目を合わせたら最後。
だが、それがある意味で決定的だった。
「これで終わりだ!!」

 

 

がっす。

 

 

ガイが視線を下に向けた瞬間に放たれたカカシの頭突きは、そのまま彼を
ノックダウンさせたのだった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 

目を開ければ見慣れた天井があって、ややあって此処は自分の部屋だと
思い至った。
はて、自分はカカシとの勝負のために外に居た筈なのに、何故。
ぼんやりとした頭でそんな事を考えていると、すぐ傍に人の気配がして
ゆるりと視線をその方へと向ける。
「ああ、やっと目が覚めたか、ガイ」
「カカシ……?」
「お前ね、調子が悪いなら悪いって、最初からそう言えよ。
 ていうか俺、言ったでしょ、今日は止めとかない?って」
「………調子が悪い?」
怪訝そうな目で見てくるガイに、ベッドの端に腰を下ろしたカカシが
あれ、と首を捻る。
もしかして、もしかすると。
「……お前もしや、自分で分かってなかったり、する?」
「だから、何の話だ?」
「お前ね……よくこれだけの熱出してて気付かないな」
これは鈍感を既に通り越しているような気がする。
頭突きでガイの目を回させた後に、何気無くその頬に手を当ててみて、
それでカカシは気がついたのだ。
ガイがとんでもない高熱を出していることに。
だがよくよく考えてみれば、かなり幼い頃からの腐れ縁でそれなりに
一緒に居たりすることが多かったが、彼が風邪をひいて寝込んだとか、
そういった話を聞いたためしがない。

(なるほど、何とかは風邪ひかないって言うもんなぁ。)

心の中でだけそんな風に考えて、カカシは手に持っていたタオルを
べち、とガイの額に押し付けるようにして置く。
水で濡らしてきたそれは、ひやりと心地よく内に篭った熱を
吸い出していってくれるような感覚がした。
「………ああ、なるほどな。
 昨日の寒中水泳がまずかったか」
「お前ね、何考えて生きてんだ?
 そんなもんは、季節と気温と体調を考えてからやれ!」
「これも修行だ!!」
「……ああもう、」
顔を手で覆い、もうやだコイツ、と大仰に嘆くカカシを眺めながら、
ガイが額に置かれたタオルに手をやる。

 

 

だけど、なんだかんだで傍に居てくれるのだ、コイツは。

 

 

今だって、気を失ってから目が覚めるまで、ずっと居てくれたのだ。
彼は何も言わないけれど、その優しさは染み入るように感じている。
「済まんな、カカシ」
「分かってんなら気をつけろ」
「勝負を途中で中断させてしまった」
「…………お前が謝ってるポイントはそこなのか」
げんなりした視線でカカシが見てくるのに、ガイが熱で赤くした顔を
にまりと笑みの形に象った。
「治ったら再戦だ!!」
「もう好きにしてちょうだい……」
何を言っても無駄だと感じたか、カカシが肩を落として重苦しい
吐息を零した。
触れた時に感じた高熱には驚かされたが、目が覚めたガイは
至って元気そうに見える。
これならば、普段通りの快活さが戻るのは時間の問題だろう。
「じゃ、俺ちょっと外出てくるけど、何か要るモンあるか?」
「いいや、特には」
「じゃあこのまま少し寝てろよ、また様子見に来てやるから」
ベッドから腰を上げ、一度だけタオルを取り替えたカカシは
そう言うとヒラヒラと手を振って玄関を出ようとする。
「カカシ!」
「…なに?」
その背へとガイが声をかけて呼び止めた。
首だけを傾けて背後を振り返ると、半身をベッドから起こしたガイが
じっと自分を見ていて。

 

 

「ありがとう、な」

 

 

なんの、と返事をしてカカシは部屋を出る。
見送ったガイはまた布団の中に潜り込んで、じんわりと温かくなった
胸の内を感じながら瞼を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

<END>

 

 

 

 

 

 

ほんとは普通のカカガイを狙ってたんですが、あまりにも2人がバカすぎて
「これで20代はあかんやろう…」と思った次第で、イメージとしては
10代前半ぐらいですか。

この頃のカカシは既にそれなりに写輪眼を使いこなせていて、
色んな忍の技をコピーしまくっている頃じゃないかなぁ。
半分ぐらいはこのコピー能力が面白くてバンバン使うのね。
そんでたま〜に使いすぎて倒れてるところを、ガイや四代目に拾われてるといいよ。
まだ性格的にはライトなカンジ。変わるのは九尾の事件がきっかけ。

そんでガイは、この時点での体術はリーよりやや上、ぐらいかな…。
八門遁甲はまだ使えません。表蓮華ぐらいだったらいけるかも。
マイ設定では九尾の事件の時は修行の旅に出ていて不在。
その時に八門遁甲を会得してくるぐらいで。
基本的にこの人はどの時系列で書いても性格は変わらないなぁ…。
幼い頃は熱いだけの男、そして年を重ねるごとに濃さが増す。(笑)

どっちみち、色んなイミで彼らのターニングポイントは2つ。
1つはオビトが死んだ時で、もう1つが九尾の事件の時。
人生変わるぐらいの大波だったんじゃないかなぁ、と。
ま、そういうのを2人で乗り越えていってほしいわけですよ、私としては。