<They are bustle from the beginning of the year.>

 

 

 

 

今いる場所では周囲の人の邪魔になるからと、神社の裏手へと移動する。
さすがにそこまで来ると人の姿はまばらで、見回したガイが大きく頷いた。
「よし、此処ならば問題ないだろう!
 覚悟はいいか、カカシ!?」
「うんもう、なんでもいいから早く終わらせたいよ俺…」
今ひとつヤル気の出ないカカシが手の中で羽子板を遊ばせている。
その手が、何かを思いついたようにピタリと動きを止めた。
「そうだ、折角だから何か賭けようじゃないの。
 その方がヤル気も出るでしょ」
「ほぅ、何を賭ける気だ?」
ガイの問い掛けに、カカシは何かあったかと懐をまさぐって、やがてにんまりと
笑みを浮かべた。
「俺はコレだ。
 後でナルト達にやろうと思っていた、お年玉」
「ふむ、なるほどな。
 それじゃあ俺も同じ物を賭けてやろう!」

 

「「 ちょっと待てーーー!!! 」」

 

ガイもまだ渡していなかったらしく、同じように懐から3つのポチ袋を出してくる。
驚いたのは見ていた子供達の方だ。
このままでは自分達のお年玉の危機である。
「ちょっと!何勝手に賭けてんですか、ガイ先生!!」
「カカシ先生もよ!私達に問題出してたんじゃないですかっ!!
 正解したらもらえる物なんでしょ!?」
「勝てばお年玉が倍になるよ、サクラ」
「うむ、これは燃えるぞ!!」
倍、という言葉にテンテンとサクラが口を噤んだ。
お年玉がなくなるのは御免だが、はっきり言って倍になるのはオイシイ。
そこに加えて、自分達の上司か勝つ確率というものを彼女達なりに算出して、
やがて口を開いた。
「絶対勝って下さいよ、カカシ先生!」
「ガイ先生も、負けたら承知しないんだから!!」
ぐっと拳を握り締めて言う2人に、カカシとガイの口元にも笑みが乗った。
この方が俄然、ヤル気も出るというものだ。
羽子板を構えた2人に視線を向けて、ネジは仕方無さそうに吐息を零す。
「審判は俺がやろう。
 3本先取した方の勝ちだ。始め!!」
すっかり諦めたような口調でネジが開始の合図を出すと、空に小さな羽根が舞った。

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

そもそも、羽根つきという遊びは、振袖を着た女の子達が和気藹々と
宙を舞う羽根をついて遊ぶ、ある意味で雅な遊戯と言えるだろう。
が、そこは腐っても上忍2人、そのスピードも威力も、普通の女の子が
するようなものとは段違いで、目にも止まらぬスピードで辺りを駆け回り
猛スピードで羽根は互いを行き来する。
情緒も風情もあったものではない状況ではあるが、子供達は至って真剣に
勝敗を見守っていた。
それも仕方の無い話だ、この勝負には自分達のお年玉がかかっている。
「くっそォ〜〜〜……絶対勝ってくれってばよ、カカシ先生ぇ…!!」
「ガイ先生!!青春パワーです!!」
一向に決まる様子の無い勝負に、子供達の顔に少しずつ焦燥の色が出始めてくる。
「さっさと激眉先生ぐらい倒しちまえってばよ…!!」
「ガイ先生が負けるはずありませんよ、ナルトくん!!」
「いーや、勝つのはカカシ先生だってばよ!!」
「ガイ先生です!!」
「カカシ先生だって!!」
睨み合うナルトとリーの間には火花が飛び散る。
「ゲジマユ……やるってのか?あァ!?」
「受けてたちましょう!!
 ガイ先生の名誉の為にも、負けられません!!」
「ちょ、ちょっと、何やってんのよ2人とも…」
一触即発な様子の2人に眉を顰めてサクラが止めようとする。
だが、少しばかり遅かったようだ。

 

「「 勝負だーー!! 」」 

 

拳を突き合わせて叫ぶ2人を止められる者は、もうその場にはいなかった。

 

 

 

 

 

 

カカシとガイの勝負を見守っていたネジへと、近付いたのはサスケである。
サスケとしては、2人の打ち合うあのスピードに目が追いついていないのが
正直なところ。
自分ですらそんな状態なのに、審判を買って出たネジに見えているのかどうか
甚だ疑問であったのだ。
「おい、お前……アレ、ちゃんと見えてんのか?」
「まぁ…粗方な」
「てめぇ、公平な審判できるんだろうな」
「どういう意味だ?」
「他意はねぇよ。そのままの意味で取ればいい」
「ほう……」
腕組みをして堂々と言い放つサスケのそれは、喧嘩を売られていると言っても
過言ではなかった。
ネジの瞳が細められ、ちらりとサスケに向けられる。
「心配しなくてもいい。
 俺の白眼は、お前の写輪眼よりもずっと優秀だからな」
「ふん………言ってくれるじゃねぇか」
こう見えて売られた喧嘩はしっかり買う性格のネジに、サスケの表情にも
うっすらと笑みが宿る。
「貴様の写輪眼など、相手の技をコピーするしか能が無い。
 あの中忍試験だって、リーの技をコピーしたから勝てた。
 ………違うか?」
「そうやって甘く見てると、痛い目見るぜ?」
「試してみるか?」
取っ組み合いの喧嘩を始めているナルトとリーの傍で、ネジとサスケも
火花を散らし始めた。
普段冷静に見える人間が、キレると一番怖いのだ。
「ちょっと、ネジ、やめなって……」
「3分もかからん」
「上等だ」
テンテンの仲裁も聞く耳持たずで、ネジはサスケに向かい構えを取る。
ゴキ、と指の骨を鳴らしながら笑みを深くするサスケも、もう戦うことしか
考えてないようだ。
あっちでもこっちでも喧嘩が始まった状況に、テンテンが深く吐息を零す。
「あーあ……ナルトくんもサスケくんも怪我しちゃうわね。
 うちの男共は怒らせると後が怖いんだから」
「ちょっと、それは聞き捨てならないわね。
 怪我するのはそっちの方じゃないの?
 ナルトはともかく、サスケくんが負けるわけないじゃない!!」
びしっとテンテンを指差しサクラが怒鳴りつける。
だがそれでもテンテンが余裕の笑みを崩すことはなかった。
「甘いわね、リーとネジの強さ、知ってるでしょ?」
「それでも!!サスケくんは負けないわ、絶ッッ対!!」
「アンタもわっかんない人ねー…」
はぁ、と額に手を当て呆れた声を出すテンテンの姿が、余計にサクラの
神経を逆撫でしたようだ。
「あんたねぇ!!私に喧嘩売ってんの!?」
「喧嘩してあげてもいいけど、アンタも怪我するよ?」
「上等じゃない!!あんたのその余裕、あっという間に崩してあげるわ!!」
強く言い放ち、間合いを取ってサクラはテンテンを睨みつける。
それに面白そうに口元を歪めながら、テンテンもクナイを取り出し構える。
負ける気はお互い毛頭無いようだ。
「どっからでもかかっておいでよ!!」
「それじゃ、遠慮なく!!」
言って双方がクナイを投げつけたのは、同時だった。

 

 

お互いが目の前の相手しか見えていない状況。

だから、子供達は知らなかった。

 

 

 

 

 

 

自分達の上司が、いつの間にか姿を消していたことに。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、上手く撒けたな」
「しっかし……本当に気が付かないとはなぁ。
 俺はアイツらの忍者としてのこの先が心配でしょうがないよ」
神社とはかなり離れた繁華街の中、のんびり歩きながらガイとカカシは
あてもなくぶらついていた。
ここまで来れば、ネジの白眼とて役には立たないだろう。
使っていた羽子板と羽根は、途中でちゃんとヒナタに返しておいた。
だがこの2人とて最初から逃げ出そうと考えていたわけではない。
あの時神社で顔を合わせたのは、本当に偶然だったのだから。
ただ偶然に顔を合わせて、きっと同時に、ひらめいたのだ。
そこからは言葉を交わさなくても作戦を練らなくても、まるで完璧な
意思疎通が成り立っているかのように物事は動いていった。
「ま!アイツらにお年玉あげずに済んだだけ、良かったとするか」
「これからどうするんだ、カカシ?」
「んー……特に予定もないし、どっかで一杯やってくか?」
「ああ、それも良いな」
くい、と指先で杯を空ける真似をしながらカカシが言えば、心得たと
ガイも頷く。
子供達にあげる予定だったものがあるから、懐は充分温かい。
「さぁて、アイツらいつ頃気付くかねぇ…?」
「戻った頃にまだやってたらどうする?」
「………その時は全員アカデミーに送り返そう」
苦笑を零して歩くカカシが、あ、と思い出したように顔を上げた。
はぁ、と口から息を吐くと空気が白く染まっていく。
「ガイ、言い忘れてた」
「ん?」
「今年もヨロシクな」
「………ああ、こちらこそ、な」
くるりとガイの方を向いて恭しく礼をするカカシに思わず笑みを零しながら、
ガイも同じように礼を返した。
そして目を合わせて、同時に吹き出して。
「あーもー、年明け初日からお前と酒盛りかよ」
「なんだ、文句あるのか!?」
いつになくカカシが声を上げて笑い、思わず眉を顰めたガイに、それでも
首は横に振られた。
「いーや、これも縁かねぇ、って」
「………違いない」
2人、出会ったのが縁ならば、切れずに今まで続いているこれもまた、縁なのだろう。
いつまで保つのかは分からないけれど、それが切れずにまだ残っているのなら
それは大事にすべきものなのだろうと思うし、これからも続けばいいとも、思う。
ずっとずっと、願わくば、これから先も共に在ることができれば、こんな幸せな
事は無いだろう。

 

 

 

 

「ああそうだ、もうひとつ」
「うん?」
「今回も有り難うね。
 ナルトの奴がもう、すごい勢いで食べまくってたよ」
「そうか、今回の出来はどうだ?」
「上々だね。お前、忍者辞めても就職先あるな」
「褒めても何も出んぞ」
「そりゃ残念」

 

 

冷たい風に肩を竦めて、軽口を叩き合って、背中を叩き合いながら歩く。

そうする事が、していられる事が、ひとつの奇跡であるのだと2人は知っていた。

 

 

 

 

 

 

「おお、そういえばガイ」
「あ?」
「誕生日おめでとう」

 

「…………ついでのように言うな、馬鹿」

 

 

 

 

 

 

<END>

 

 

 

 

 

ラストはナチュラルにカカガイで締め。(笑)

なんていうかなぁ…仲良しガイ班と7班、もいいんですけど、
こう、上司の掌で遊ばれる子供達、っていうのが個人的には
とてもとても好きだったりするのです。
カカシもガイも、子供をからかって遊ぶのが好きだといいなぁ。

ちなみに補足。
さりげに(?)答えを書きましたが、おせち作ってくれたのはガイ先生です。
へー料理できるんだーふーん、ぐらいのノリで考えてくれると嬉しいかも。
年末は何もする事が無くてヒマなので、暇潰しに料理をするガイ先生がいい。
でも量を加減できなくていつも大量に作っちゃうので、色んな人におすそ分け。
そんな具合が理想です。
別段料理が好き、とかじゃなくて、何かを作り出すという過程が好きだといいな。

あと最後に。
居酒屋で一杯やってる時に、この2人は子供達に見つかるといい。
そんでバックレるためにカカシ先生がリーに酒を飲ませようとして
ガイ先生にドツかれるといいな。そんで子供みたいな喧嘩始めるんだよ。
………まぁ、26〜7歳って、そんなモンですよ。あんまり大人じゃないのね。

仲良しガイ班+7班も大好きですよ。