風の音しかしない、静かな午後。
ふわりと揺れるのは少しクセのある白い髪。
そこにそっと指を絡めるようにしながら、
ただ静かに時間だけが流れているのを感じた。

 

 

 

 

<Cat in the sunshine.>

 

 

 

 

 

 

「サークラちゃーーーん!!」
「どうナルト、いた?」
「ダメだってばよ、カカシ先生、部屋には戻ってねーみてぇ」
「そう……何処行っちゃったんだろ」
アカデミーの門を集合場所にして別れること暫し、再び合流した
2人はそう言葉を交し合って首を左右に振った。
ナルトとサクラ、そしてカカシがひとつの任務を終えて解散したのが
3時間ほど前の話である。
そこでナルトとサクラはお役御免となり、次の任務が入ってくるまで
自由な時間となり、カカシも任務の報告書を提出した後は、
上忍待機所にて待機しておくか、用があるなら自由に時間を使うことも
可能である。
今回2人がカカシを捜しているのは、彼が提出した書類に一ヶ所
不備が見つかったからで、たまたま近くにいたサクラにカカシの捜索願いが
出され、ナルトも巻き込んで現在に至るわけだ。
不備のあった書類はサクラが預かっており、カカシを見つけて
その一ヶ所にサインを貰えばそれで済む話なのだが、困ったことにカカシが
何処を捜しても見つからない。
「困ったってばよ……あと捜してないの、何処だっけ?」
「ええと……演習場の方はまだ回って無かったわよね?」
「げぇ!!あんなたっくさんあってめちゃくちゃ広いトコ捜すのかよー!!」
「仕方無いでしょ!コレが無きゃ手続きが前に進まないんだから!!
 文句言わずに捜すのよ!!いい!?」
「………ら、らじゃー……」
笑みを満面に張り付かせたままのサクラに凄まれれば、相手がナルトで無くとも
きっとノーとは言えない。
渋々返事をすれば、よし!と満足そうに頷いて、2人は演習場の方へ向かって
駆け出したのだった。

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

5つめの演習場もハズレを引いて、半ばヤケっぱちになってハイ次ー!!と
サクラが叫び出した頃、2人にとって良く知った人物が現れた。
「ナルトくん、サクラさん、何してるんですか?」
「おっす、ゲジマユ!!」
「リーさん!!」
普段からむしろ演習場に居る時間が一番長いのではと思われる少年、
ロック・リーである。
何してるんですかとは自分達の方こそ言いたかったが、よく考えれば
この辺りで彼が出没するのは、どちらかといえば自然な話だ。
どう見ても修行をしにきた風でない2人に、リーの方が不思議に
思って声をかけた、そんなところだろう。
とはいえリーに、カカシの居場所を知ってるとは思えない。
どう話をしたものかとサクラが考えあぐねているその隣で、
ナルトが勢いでリーに詰め寄っていた。
「なあなあ!!どっかでカカシ先生見てねーか!?」
「は………カカシ先生、ですか…?」
きょとんと瞳を瞬かせて、リーがこくりと首を傾げた。
「ナルト、リーさんが知ってるわけ…」
「今日は第8演習場だったかなぁ……」

「「 知ってんのーーー!? 」」

思わずナルトとサクラの声がハモる。
少し驚いたように一歩後ずさりして、リーが西の方角を指差した。
「え…ええ、確か第8だったと思います。
 ガイ先生と一緒ですよ」
「ぐあ!激眉先生か!!そこは盲点だったってばよ!!」
「あれ?よく一緒に居るけどなぁ…」
「「 初耳だーーー!! 」」
だが確かによくよく考えてみれば、解散した後のカカシの動向など
気にしたことも無かった。
それこそ何処で誰と一緒か、なんて考えた事すらない。
「連れてってくれってばよ、ゲジマユ!!」
「え、あ、いや、ですが……」
「お願いします!!ちょっと急ぎの用件があって…、
 すぐにカカシ先生に見せないといけないものがあるんです」
「…………まぁ、そういう事なら仕方ないですよね」
本当は人払いをされているのだが、緊急とあればそうも言って
いられないだろう。
ついて来て下さい、そう告げるとリーは2人を率いて西へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

任務の後のカカシはとにかく惰眠を貪る傾向にある。
先も眠る前に聞いた話によると、ほぼ完徹に近い状態の任務の後に
真っ直ぐこちらへ来たらしい。
ガイから言わせれば、さっさと家に帰って寝ろ、といったところだが、
何故だか何処に居ても気配を嗅ぎつけて、ふらりとカカシはやって来る。
そして、まるで人形がないと寝付けない幼子のように、自分の傍で眠るのだ。
そうなってしまえば修行も何もあったものではなく、そこで一旦休止にして
カカシの睡眠に付き合ってやる以外にない。
今も、持っていた本を読みながら、ただひたすらに時が過ぎるのを待つ。
時々視線をすぐ隣へと向けてはみるのだが、人の足を枕にしたままで
気持ち良さそうに眠る相手は起きる気配が一切ない。

 

 

 

「………ん?」

大体普段は日暮れ近くまでこの状態なのだが、今日は珍しく違った。
目の前に自分の部下が現れたのだ。
「ガイ先生!!」
「リーか…………静かに、な」
「あ…と。はい、先生」
ガイが人差し指を口元にやって示すと、リーは気付いたように口を噤む。
やや声を潜めて返事をし、リーは後ろを向いて手招きをした。
すると更にナルトとサクラが現れて、ガイは意外そうに目を丸くする。
「………珍しいな」
「激眉先生!!カカシ先生は!?」
「しーっ!!ナルトくん、静かに、ですよ!!」
やっぱり勢いづいて前のめりなナルトへ、リーが慌ててその口を掌で塞ぐ。
もがもがと更に何か言い募ろうとしているナルトを放って、サクラは
ガイの方へと近付いた。
「ガイ先生、カカシ先生は…………あー…」
サクラにウインクひとつ返してガイが人差し指を己の足元へと向けると、
困ったように彼女は声を上げる。
「寝てるんだ…」
「徹夜だったらしいな、疲れてたんだろう」
「だから少し休んでいいって、言ったんだけどなぁ…」
「うん?」
眦を下げて、少し悲しそうに呟くサクラへ、ガイは怪訝そうな視線を向けた。
「夜中に見張りをね、代わりますって言ったんですけど……、
 いいから寝てろって言うだけで、ずっとカカシ先生がやってたんです。
 疲れたなら、言ってくれたらいいのに……」
「てゆーか、さ。
 寝ずの番って、俺らにやらせたことねーんだってばよ、な?」
「ふむ…」
それを思いやりと取るか信頼の欠如と取るかは微妙なところだ。
恐らくこの子供達は、もっと自分達を頼って欲しいのだろう。
少し考えるようにしてから、ガイはちらりと視線を横に落とした。
相も変わらずぐっすりと寝入っているカカシは、探らなくても完全に
爆睡しているのだと分かる。
これならこちらの話を聞いていることもないだろうと知り、ガイは
子供達へと視線を向けた。
「コイツはな、思っていることの半分も口にしない。
 だから、ああしろこうしろという指示はあっても、
 それがどういう考えの下に発言されたのかまでは
 キミ達は分からないのだろう」
「ああ…」
「そういえば……そうかも」
「まあ状況によっては言いたくても言えない場合だってあるだろうが、
 大半の場合、コイツはズボラだから言わないんだ。
 分かるかい?この意味を」
「い、意味ったって……」
「あんのかよ、そんなのに意味が……」
顔を見合わせて訝しげに呟くサクラとナルトに、ガイの口元から苦笑が
零れ出てきた。
昔は自分もそうだった。
いつからだったろうか、カカシの言葉の意味に気付く事ができるようになったのは。
一度気付けば、糸を解くよりも簡単に、その意思を読むことができた。

 

「言わなくても分かるだろうっていう、カカシの甘え方だ」

 

ヒミツだぞ、と口元に人差し指を当てて言うガイに、きょとんとした
子供達の視線が合わさって、やがてそれはほんの少しだけ綻んだ。
「ほ、ほんとかよ…?」
「ガイ先生は嘘を言いませんよ。
 先生がそう言うなら、絶対ですよナルトくん!!」
「でもそう考えると、私たちって随分甘やかされてる気がするわね」
「ならばそれはそうカカシに言えばいい。
 翌日からスパルタ特訓のフルコースになるだろうな!!ははは!!」
「うげえ!?それは…ちょっと……勘弁して欲しいかも……」
「まぁそんなところで、キミ達はカカシに用があるんだろう?
 とりあえず起こすとしようか」
くすくすと笑みを零しながら、ガイは何を思ったかカカシの額あてに手をかけた。
何をするのかと見守る子供達の目の前で、それは勢いよく引っ張られる。
ゴムでできているのではないので伸縮性には限界があるが、そこそこ伸ばされて
額あてはガイの指に引っ掛けられた。
「ちょ、げ、激眉せんせー!?
 何する気だってばよ!!」
「え、やだ、うそッ!?」
「ちょっと待って下さい、ガイ先生…!!」
「起きろカカシ」

 

 

 ばっちん。

 

 

「…ッ!?!?!?」
激しい衝撃が左目に走って、思わずカカシは飛び起きた。
しかも鉄板部分がモロに眼球にヒットして、これはかなりの激痛である。
額あての上から左目を押さえて、カカシは犯人であろう男に詰め寄った。
「……いきなり何すんの、ガイ」
「お前がいつまで経っても起きる素振りがなかったからな、つい」
「ついじゃないだろ、写輪眼が潰れたらどうすんだ」
「まぁ、そうヤワなモノでもなかろう。
 それよりも、ナルトくんとサクラくんが来ているが?」
「………あれ?」
そこで漸く存在に気付いたかのように、カカシは視線を見上げるように
上へと向けた。
つい何時間か前に別れた筈の子供達が居て、表情に出さずとも少なからず
驚いてしまっていた。
一体いつから此処にいたのだろうか、この子達は。
「……どうした?」
「はい、この報告書、ここ、サイン抜けてまーす」
ぴらりと懐から取り出した書類とペンをカカシに差し出して、サクラが
にこりと笑みを覗かせた。
「随分捜したんだから、カカシ先生」
「ほーんとだってばよ、もうヘトヘトだぜ、俺ってば…」
「ありゃりゃ、ホントだ。悪い悪い」
書面に視線を送って苦笑を零すと、カカシはペンを受け取って
抜けてる部分にサインを残した。
確認してひとつ頷くと、サクラがペンも返してもらう。
「それじゃ、これは私が出しておきますね」
「え?後で俺、行くけど?」
「いいっていいって、カカシ先生は寝てて下さい、そのまま」
「………そのまま!?」
ぎょっとしたのはガイで、カカシはああそう?とあっさり頷くと
さっきと同じ体勢でごろりと横になった。
「ちょ、おいカカシ!!お前いい加減にしないか!!
 座りっぱなしは腰が痛いんだぞ!!足も痺れるんだぞ、おい!!」
慌てて抗議をするが既に時遅し、カカシはあっという間に眠りの底へ
沈んでしまったようだった。
「くそ……逃げそびれた……」
「よし、じゃあ私たちも戻りましょ、ナルト。
 ガイ先生、カカシ先生を宜しくお願いします」
「いや………お願いされてもなぁ…」
「いいじゃないですか、ガイ先生。
 しょっちゅう来られてるんですから、今更でしょう?」
「リー……お前そうは言うがな、」
「んじゃ帰るってばよ、俺ハラ減ったー!!」
「そういえば、僕もお昼まだでした」
「お!んじゃ一緒になんか食いに行くってばよ、ゲジマユ!!」
「ええ、是非」
それじゃあ失礼しまーす!と子供3人横に並んで行儀良く一礼すると、
あっという間に視界から消えてしまった。
残されたのは、呆気に取られた顔のガイが一人。
それから、やっぱり眠りこけている、カカシが一人。

 

「…………この、バカが……」

 

忌々しげに視線を向けて小さく舌打ちを零すと、ガイは仕方なしに
一度中断した本をまた読み始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

<END>

 

 

 

 

 

なんだコレは…。(笑)
どこに分類していいのか分からなかったので、とりあえずは
その他に置いてみることに。
カカガイでも良かったんだけど、あまりにも出番無さ過ぎるよなぁ。

 

当たり前のように一緒にいる雰囲気、ってのが好物です。(私の)