「これはまた……すっかり綺麗になっちゃって」
「…まったくだ、俺も驚いた」
修繕が終わったとの連絡が入ったのが、今朝の話。
さっそく見に行こうとしたガイの後ろにくっついてカカシまでやってきた。
それは修繕というよりは、いっそ新しくしたのではと言いたくなるような状態で、
あの時リーが破壊した痕跡は、見事なまでに消えていた。

 

 

 

< Have a rackety life!! 〜コイツは最後の最後まで…!!〜 >

 

 

 

 

 

 

一週間というのは長いようで意外と短い。
だが、他人の家に居心地の良さを得るには充分な長さ。
そう思えば、カカシのあの部屋にも多少の感慨も湧いてくるというものだ。
「まあ、その、なんだ、世話になったなカカシ!!
 ……いや、半分は世話してやったような気もしなくはないが…」
「余計なお世話だ。
 俺はもう朝っぱらから起こされなくて済むと思うと、せいせいするね」
「うむ、お前の生活態度の改善にまでは到らなかったのが、残念だが」
てきぱきと荷物を纏めてしまうと、いともあっさりガイはこの部屋から
撤収してしまった。
しんと静まり返った部屋で、一人というものはこういう事だったかと
実感する。
特にそれを寂しいと思うわけではないが、なるほどこれは。

 

「いるとウザいけど、いないと味気ないもんなんだな」

 

もうちょっとバランス良くいかないものか、と苦笑を零して、
カカシは自室へと引っ込んでいったのだった。

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

困ったのは7班の子供達だ。
ほんの一時、確かに一時は上司の遅刻癖が若干とはいえマシに
なっていたのだ。
実際のところはガイの努力の賜物だったりするのだが、そんな
事情を知らない彼らには関係の無い話である。

 

「ちょっとぉ……、カカシ先生いつまで待たせる気…?」
「もう3時間半になるってばよ…」
「チッ……遅ぇな」

 

そして4時間を過ぎた頃になって漸く現れた上司は、髪に若干の
寝癖が残っていたままで、それがまた子供達の逆鱗に触れたとか。

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

上忍待機所でのことだ。
やたら上機嫌でいたガイにどうしたのかと訊ねると、彼はよくぞ聞いてくれたと
顔中に笑顔を見せて話してくれた。
なんでも先日大惨事となってしまった宴会の、仕切り直しといくらしい。
「へぇ……懲りないねぇ、ガイも」
「だが可哀想ではないか!
 やはりこういう事は気分良く終わらせんとな!!」
言いながら時計に目をやったガイは、そろそろ時間だからとそこにいた
仲間達に軽く手を上げ挨拶をして、風のような速さで待機所から出て行った。
残ったのはカカシと、また微妙なタイミングでそこに居てしまった
アスマと紅の2人だ。
「………カカシ、やめとけよ」
「ん?俺まだ何も言ってないじゃん」
「アンタが何か企んでるのは、私たちは顔見てりゃ分かるのよ」
「やだなぁ紅、考えスギだって」
疑り深い目で見てくる紅に苦笑を零しながら、カカシがぱたぱたと片手を振る。
企んでるだなんて、人聞きの悪い。

 

「ただ単に俺もちょっと祝ってやろうかなぁ、と思っただけで」

 

それが一番怖いんだ!という言葉を寸前で飲み込んで、どう言ったものかと
アスマと紅はお互いの顔を見合わせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、いうわけで。
新しくなったガイの部屋は、先日とさして変わらない様子になっていた。
あの時は、つまり酒が冷蔵庫の中に入っていたのが間違いだったのであって、
それは真っ先に処分してやったから、今度こそ問題は無い。

「ガイ先生!」

先日と同じで、部下の3人がやってくる。
ネジなどは「こんなの何度もしなくて良いだろう」と渋ってはみせたが、
なんだかんだでやって来るところなどが律儀だ。
「よく来たな3人とも!!
 どうだ、綺麗なもんだろう!!」
「……直るもんなんだな」
「前より綺麗になったんじゃない?」
「あ、ガイ先生!!
 これ、お土産です!!」
「…ん?そんな気を遣わんでも、」
「いえ、それが、此処に来る途中で……」
子供達が顔を見合わせると、それまでのいきさつを口々に説明し始める。
聞けばどうやら彼らは、道の途中でカカシに出会ったらしい。
「カカシに…?」
「はい。で、今日これから先生の家に行くんだって言ったら、
 宴会するんだってね、って言われて……」
「で、餞別代わりにって買ってくれたんです」
皆で食べなよ、と言ってくれるものを断る理由も無いから、
3人は素直に礼を述べて受け取ったのだ。
リーが差し出してきた袋の中を覗けば、食欲を擽るような匂いが
鼻孔を擽った。
「…ほう、チキンか」
「ジュースもあるわよ、先生。
 なんでもいいよって言われたから、私の好みでオレンジにしたけど」
「ほぅ…アイツもなかなか気が利くなぁ」
後で礼を言っておくか、とひとつ頷くと、ガイは子供達を中へ
招き入れたのだった。

 

 

 

 

コップの中にカカシが買ってくれたというジュースを並々と注いで、
4人はそれぞれ手に持って掲げた。
乾杯の言葉と共に、まず最初にそれを飲むのが世間一般の通例だ。
その例に漏れず4人も喉を潤して、最初に怪訝そうな顔をしたのは
テンテンだった。
「…………面白い味ね」
「おいガイ、これ……」
ネジも眉間に皺を寄せてガイへと視線を向けた。
味が薄いだけなら単に果汁の量が少ないということだが、どうもこれは
それだけじゃないような気がする。
未成年故に口にする事自体が稀で、せいぜい正月ぐらいのものだが、
経験はあるのでネジにもすぐに理解できた。
ガイなんかは、口にした瞬間に真っ青になっている。
「おいリー、よせ!飲むな!!」
「わーー!!ストップ!!ストップだーー!!」
ネジとガイが同時に声を上げる。
だが既にリーの持っていたコップは空だ。
どうやら最悪なことに、一気飲みをしたらしい。
「完ッ全にやられたわね……いつの間にお酒なんて混ぜたんだろ。
 大体カカシ先生、私たちの目の前で買ってたじゃない?」
「フン……あの人のことだ、すり換える事ぐらい朝飯前なんだろう。
 まったく……誰も気付かないとはな……」
俺も修行が足りないな、とごちるネジの視線はリーに向いている。
先日の騒動がありありと脳裏に浮かんで、嫌な予感だけが胸を燻る。
止めたいのは山々だが、ガイですら持て余す酒乱のリーを、自分が
止められるとはとてもではないが思えない。
トン、とコップをテーブルに置いたリーはそのままの状態で暫く
動かなくなり、だがやがて、その足はふらりと覚束無くなりだす。
「おい、リー…?」
「だ、大丈夫……か?」
恐る恐る声をかけるガイとネジに、リーが答えることは無かった。

 

後のことは、推して知るべし。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 

「………やめとけって言っただろ、俺ァよ………」
暫く姿を消したと思ったらまたひょこりと戻って来たカカシから
事の顛末を聞いて、正直アスマは頭を抱えたくなった。

(最悪だ、コイツ。)

喉元まで出かかった言葉を寸でのところで飲み込んで、アスマが
紫煙と共に重い吐息を吐き出した。
「怒るぞ、ガイの奴」
「分かってるよ、ワザとやってんだし」
「どうなっても知らねぇからな、俺は」
ガリガリと頭を掻きながら、短くなった煙草を灰皿で揉み消して
アスマは立ち上がった。
憤怒の表情で飛び込んでくるガイの事を想像すると、此処はさっさと
退散した方が良さそうだ。
紅は丁度任務が入ってきてこの場所を出てしまったのでラッキーだ。
今日はもう、シカマルと将棋を指して、全部忘れて家に帰った方が
得策であると判断したアスマは、ドアから出て行こうとして、ふと
その足を止めた。
「なぁカカシ、」
「なんだい?」
「お前がそういう悪ふざけをする相手ってガイしかいねぇから、
 多分お前がガイを気に入ってんだろうってのは分かんだけどよ、」
「うん?」
「ほどほどにしとかねぇと、お前その内に嫌われるぞ」
「あはははは」
突然笑い出したカカシに、アスマが少し怪訝そうな顔をする。
一頻り笑った後で、カカシの目がそっと物思いに耽るように伏せられた。
「大丈夫だよ、アスマ」
「あァ?」
「ガイは絶対、俺を嫌いにならないよ」
「へぇ、言い切るな」
「これが俺の甘え方だって、アイツは知ってるから」
「ん…?」
よく分からないといった風にアスマの眉が顰められたが、
それ以上は何も言わないことにしたようだった。
どうやら2人は2人の関係がちゃんと確立されているようだから。

 

「ま、ほどほどにな」

 

そうとだけ告げて、アスマは肩を竦めると待機所を後にした。

 

 

 

 

 

 

<END>

 

 

 

 

 

なんとか今年中に終わらせようと頑張りました。
構想だけは頭にあったんだけど、随分な難産でして、
妙にシーンがブツ切り状態なのはそのせいだったりします。
ていうか自分的にコレ以上は限界か。やっぱ文才って欲しいね。
もっと精進します。ハイ。

そんなわけでこのシリーズはこれにて終了。
最後までお付き合い下さった方、本当に有り難うございました!!
私も随分楽しく書けました。
このシリーズもひとつ前のシリーズも、普通に読んでて「ありそう」と
思ってもらえるような自然な展開だったらいいな、と。

 

最後に、オチをひとつ。
ずずいっと下へスクロールどうぞ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カーカーシーーー………、
 貴様、やってくれたな……!!」

低くドスの効いた声が部屋に響く。
顔を上げると、怒りをとっくに通り越して、どう表現したものか
本人ですら分からないのだろう、引き攣った笑みを顔に張り付かせた
ガイが立っていた。
どうやら自分の贈ったアイテムは、予想以上の効果を発揮してくれたらしい。
ならば最後は、トドメの一言。

 

 

「おかえりハニー、また宿無しかい?」