なにもカカシの部屋に行く事自体が初めてというわけではない。
やれ任務の打ち合わせだ、やれ飲み会だで、何度も訪れたことはある。
流石に一週間もずっとという事は無かったので、そういう意味ではまた
少しいつもと違った様子はあるが、だがそれにしても。
前にこの場所に来たのは、たった半月ほど前の話だったと思うが。

 

「………お前、いつからココはこんななんだ…?」

 

玄関の前で立ち尽くしたまま、ガイは引き攣った口元を隠そうともせず
そう呟いたのだった。

 

 

 

 

< Have a rackety life!! 〜いい加減にも程がある!〜 >

 

 

 

 

 

 

「いくらなんでもコレはヒドイだろう?」
「えー?そうかな、男の部屋ってそんなモンでしょ。
 ま…ここ暫く任務やら何やらでバタバタしてたから、
 時間取れなかったってのもあるけどさ」
頭を掻きながら特に気にした風も無く、カカシがのんびりとそう答える。
それにしたって部屋の中は随分な惨状だ。
物は出しっぱなし、服は脱ぎっぱなし、流しには何日分だろうかと悩ませるほどの
食器が溜まり、ベッドなんかはきっと起きた時のそのままなのだろう。
「片付けようという気は起きなかったのか…」
「いやぁそれがさ、朝起きたら大体集合時間から遅れてるもんで慌てるだろ?
 ついでに帰ってくるのも遅いから、大体ばたんきゅーだし」
「休みの日は!?」
「えー…テキトーにしてたら気がついたら終わってる」
「……………。」
はぁ、と大仰な溜息を零してガイは額に手を当てた。
これでは先が思いやられる。
だいたいチラっと見た限りでは、自分が使うであろう問題のソファにさえ
物が散乱していてこのままでは寝ようにも寝られない。
「…仕方が無い、少し片付けるか」
「らっきー」
「お前まさか、コレが狙いだったわけじゃあ……?」
「ははは、気のせい気のせい」
飄々とした笑みを見せて、カカシがガイの背を押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソファの周りに散らばっている本を纏めて、隣接してあるカカシの部屋に
放り込むために踏み込む。
本棚の傍にそれを置いて、何気なく窓の外へと視線を向けるとすっかり
藍色に染まった空が目に入った。
何故自分がこんな事をしているんだろうなんてうっかり脳裏を過ぎったが、
その先は考えると果てしない自己嫌悪に陥りそうなので、その考えには
静かに蓋をしておくことにして。
ふと、空から目線を外したその先にあったものに、思わずガイは大声を
上げていた。

 

 

「カカシ!!お前、ちょっと来んかーーーー!!!」

 

 

声に気付いてひょこりと顔を覗かせたカカシが、何?と訊ねると。
「馬鹿者が!!ウッキー君が枯れかかっているじゃないか!!」
あわあわと駆け寄って窓辺に飾ってあった鉢植えを手に取ると、
大慌てでガイが隣の部屋へと持って行く。
適当なカップに水を入れ、それを鉢植えに流してやりながら。
「お前……確かコレ、貰い物とか言ってなかったか?」
「ああー、言った言った」
「だったらキチンと世話ぐらいせんか!!」
「ははは」
「笑うところじゃない!!」
ごつりと拳骨でカカシの頭を殴れば、乱暴だなぁ、というのんびりした
返事が戻る。
「だってさ、それ、世話の仕方知らないんだよな」
「………あの子は何も言わなかったのか?」
「いやぁ……確か、上忍は何かと忙しいだろうから、あまり手入れの必要無い
 ものにしたって言ってたと思うよ」
「手入れと水やりはまた別だ!!」
えー、と何かまだ言いたそうなカカシを放って、ガイはまた隣の部屋へ
鉢植えを戻しに行く。
いつから水を与えていないか知らないが、これで少しは元気を取り戻して
くれるといい。
窓辺に鉢を置いてから、そういえば今は何時頃なのだろうかとガイは
その隣にあった置時計に目を向け、更に訝しげに眉根を寄せた。
日もすっかり落ちて、恐らく今は夜の7時頃だと踏んでいたのだが、
時計の短針は2の数字を指している。
もしや…と嫌な予感が脳裏を過ぎって、ガイはその時計を手に隣の部屋へと
駆け戻った。
「カカシ………この時計、いつから止まってる!?」
「…………ああ、それで最近朝起きれないんだ?」
「普通気付くだろ?なぁ、気付くもんじゃないのか…!?」
どうりで3時間遅刻とかが普通に起こるわけだ。
余りの情けなさにがくりと肩を落として、ガイは緩く首を振った。
「お前のこんな姿、子供達には見せられんな…」
「…別に、お前以外に見せるつもりないからいーよ」
「そういう問題でも……」

 

 

コツ  コツ

 

 

窓から聞こえた小さな音に、カカシとガイはそこで口を噤んだ。
隣の部屋に向かえば、外に一羽の小鳥が止まっている。
どうやら窓を突付いたのはこの鳥らしい。
自然とカカシとガイの視線が合った。
「…やーな予感、しない?」
「仕方無いだろう、任務の知らせだ」
「コイツ、どっち宛なんだろうね」
「さぁ……中に入れてやれば分かるだろう」
言ってガイが両開きの窓を開けてやると、小鳥はこくりと首を傾げて
するりと中に舞い込んできた。
ガイの肩に足をかけ、だが次にはカカシの肩へと。
「あー……やっぱり俺なのね…」
やだなぁ、と愚痴ってはみても、任務なのだからしょうがない。
「ま、いいや。パッと行ってパッと帰って来ようっと。
 ついでに電池買ってこなきゃ」
「……うん?」
「その時計の、電池」
「ああ、」
まだ手に持ったままだった時計に視線をやって、ガイが頷いてみせる。
「ま、テキトーに好きにやっててくれ。
 お前のことだ、勝手は分かってるだろ?」
「では、お言葉に甘えて好きにさせてもらっておく」
「それじゃ、ちょっと行ってくるよ」
小鳥を肩に乗せたままで、カカシはそう言い置いて玄関から出て行った。
家主のいなくなった部屋を改めて眺めて、さてどうしようかとガイは
首を捻った。
とにかく片付けが中途半端だ、なんだかんだでカカシはロクに動いちゃいない。
あれは時間が無くてできなかったというより、単なるズボラだ。

 

 

「………こうなったら、徹底的にやってやるか!!」

 

 

片付けの続行を決めたガイは、袖を捲るとそう気合を入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

<NEXT:早朝の攻防戦?>

 

 

 

 

 

えー……カカシ先生のダメっぷりが遺憾なく発揮されているこのシリーズ。(笑)
どこまで続くんだろうなぁ…。ああでもナルトとかサスケとか出したいからなぁ。
とにかくきっと次の話もダメなんだろうなぁ、何かと。(苦笑)

今頭にあるネタだけなら、5話ぐらいで終われる…かな…?