「はは……ははは………」
あんまりといえばあんまりな惨状に、ガイはただ笑いを零すしか無かった。
どうしてこんな展開になったんだか。
気分良く騒いでいたテンションは一瞬でどこかに吹っ飛んでしまい、ガイは頭を抱え
心底の嘆きを漏らしたのだった。
「俺の………俺の家が………!!」
< Have a rackety life!! 〜俺とお前のそんな事情〜 >
事の起こりは昨夜。
たまには大きな任務でもさせてやるかと、少々難易度の高い仕事を受け
下忍の子供達を連れそこへ赴き、誰も怪我をする事無く無事に帰還できた、
その夜の事だ。
スムーズに任務をこなしたご褒美だと、子供達を家に食事に招待して、
そこで惨劇は起きてしまった。
現在の自分の家は、ドアは外れ、壁に穴は開き、花瓶は割れ、家具なども
破壊され無残な姿を晒している。
誰がそんな事をしたのかと言えば、ガイの部下であり愛弟子でもあるリーだ。
水が飲みたいと言うリーに冷蔵庫を開ける許可を出し、待つ事しばらく、
戻って来たリーはすっかり人相が変わってしまっていた。
それには流石にテンテンは青褪め、ネジも眉を顰めるほどの変貌振り。
大慌てで冷蔵庫の元へと駆け寄ってみれば、封が開いていたのは
ミネラルウォーターの瓶ではなく、その隣にあった冷酒の瓶。
そういえばこないだアスマが遊びに来た時の置き土産だったと思い起こし、
だがそんな悠長に回想に耽っている場合では無いと我に返る。
隣の部屋では既にガラスの砕ける音、テンテンの叫ぶ声やネジの怒鳴る声が
聞こえてきていた。
あの闘争本能の塊になったリーを止めるのは、正直ガイでも骨が折れるのだ、
ネジとテンテンにそれができるとは思えない。
頭を抱えたくなるのを何とか堪えて、ガイは立ち上がった。
とにかく早く止めないと、家が全壊しかねない。
そして冒頭に至る。
つまり、ちょっぴり遅かったということだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
惨劇の翌日。
部屋の修繕のための業者を呼んだガイは、上忍待機所で重苦しい吐息を
零していた。
今回の破壊っぷりはまた凄まじく、元のように戻すには一週間ほど
かかってしまうようだ。
当然それも修理の進行具合によって変わるので、運が悪ければそれ以上
かかってしまう事も充分に考えられる。
もちろんその間、自分は部屋に帰れない。
それなら宿を手配して泊まるという事もひとつの手段だが、それにしたって
痛い出費だ。
あの後、正気に戻ったリーが半泣きになって謝ってきたのを、頭を撫でて
ナイスガイポーズで大丈夫だと慰めてやりはしたけれど、それにしたって
これから先が思いやられる。
いっそ長期任務でも受けて一人旅に出ようかとも考え始めた頃、唐突に
声がかけられた。
「……何辛気臭い顔してるんだよ、ガイ」
「カカシか」
後ろから覗き込むようにして見てきた男は、ライバルと称しながらも
それなりに交友のある男。
「ああ、もしかして昨日の事でも考えてたわけ?」
「……まぁ、そういうところだ」
「しっかし災難だったよなぁ。
俺もちょっと野次馬しに行っちゃったけど、ありゃ凄い破壊っぷりだ」
「わざわざ見てきたのか…ご苦労な事だな」
向かいのソファに座って面白そうに話すカカシに、人の苦労も知らないでと
眉間に皺を寄せてガイが見遣った。
「ああ、そういえば俺も見たぜ」
カカシの言葉に便乗するように入ってきたのはアスマ。
どうやら彼も野次馬をしてきたらしい。
「………暇なのかお前らは」
「「 いや、面白いから。 」」
揃って言うカカシとアスマに、どうして自分の仲間は揃いも揃って
こういう情の無い奴らなのだろうかとガイは己の境遇を少しだけ呪った。
「リーくんだっけ、酔っ払ってガイんち壊したの」
「酔拳ってヤツだろ?
本人の意識外の事とはいえ、なかなかやるよなぁ」
「将来有望?」
「そうそう、」
「…他人事だと思って好き勝手に言うなぁ………アスマ」
「へ?俺か!?」
「誰のせいでこうなったと思ってる」
「……俺のせいだとでも言いたげだな?」
「ああ、どこかの誰かさんが勝手に冷蔵庫に入れていった酒のおかげで、
こっちは大惨事だ」
「………………げっ」
さすがに覚えがあったのだろう、しかめっ面をしてアスマが小さく声を漏らす。
じと、と睨み付けてくるガイの視線に耐えかねたか、そういえばシカマルと
将棋を指す約束してたっけ、と零すとカカシも驚く素早さでそこから逃げ出した。
「……なるほどね、そういう事か」
「全くもって迷惑な話だ」
「で、これからどうなるわけ?ガイは」
「さぁな…、部屋が元に戻るまで、宿を取るかテント暮らしか……」
「ああ、それならテントがいい、ガイにピッタリだ」
「…お前な」
こっちはこっちで完全に他人事だ。
とはいえ既に今晩から宿無しである、身の振り方は早い内に決めた方がいい。
腕を組んで唸っているガイを暫らく眺め、あのさぁ、とカカシが口を開いた。
「路頭に迷ってんなら、うち来る?」
何気なく告げられた言葉に、ガイの目がきょとんと瞬く。
「俺んちにあるソファってソファベッドだから寝る場所には困んないし。
なんか、こんなガイ見てると不憫になってきた」
「不憫って……本人を目の前にして言うか?」
「嫌ならいいけど」
「待て!!待て、そんなコトは誰も言っとらん!!」
「不幸で不憫なガイくんに、愛の手を?」
にっこりと笑みを浮かべて右の掌を上向きに差し出すカカシの、その顔と
右手を交互に見遣り、ガイは口元に笑みを浮かべ、
「よし乗った!!」
パン!とカカシの掌を叩いて、ガイは大きく頷いたのだった。
<NEXT:お世話になるのか、あるいは…>
…また、妙ちきりんなモノを書いてしまってスミマセン。
カカシ先生とガイ先生のうっかり同棲ネタ。ええ、うっかりなんです。(笑)
でも、カカシとガイ以外に色んな人が出て来る予定なので、
きっと甘いラブロマンスとは無縁な話になってしまうでしょう。
おいしい設定をおいしく使えないのが佐伯です。(ダメじゃん)
カカガイを目指したいわけじゃなく、いやもちろん目指しはしたいけど、
基本は皆でわいわいやろうというのが目的なので、そんな話になってしまうと思われます。
うっかりカカガイになったら、それはそれで微笑ましく見てやって下さい。