どこに行ってしまったのか、捜し歩いて見つけたのは病院の屋上。

そこで何をするでもなく、ただぼんやりと彼は空を見上げていた。

 

 

 

<One step of the beginnings.>

 

 

 

 

 

 

「よォ、こんなトコに居たのか、ゲジマユ」
「…ナルトくん」
軽やかな足取りで駆けて来るナルトは、昨日退院を済ませたので
いつもの装いに戻っている。
逆にリーはといえば、手術直後に戦いに挑んで傷を負ったために、
もう暫くこの場所に居なくてはならない。
寝巻きの下から覗く手足には、まだ白い包帯が巻かれたままだ。
「あっちこっち捜しちまったってばよ」
「すみません、なんだか…風に当たりたくなってしまって。
 ところでナルトくんは、ボクに何か御用ですか?」
「え…?あ、いや、別に…そんなんじゃねぇんだけど……」
「?」
リーに問われてナルトが少し口篭もった。
実際のところ、特別に用があったわけではない。
ただ、自来也から旅に出る前に挨拶しときたい奴が居るなら
行って来いと言われたから。
イルカに会って、カカシに会って、サクラにも会って。
他に誰か居たかなと考えた時に、ふいに浮かんだのがリーの事だった。
会ったところで何か話しておきたいことがあったわけでもなく、
口篭もってしまったのは仕方の無いことだ。
「オレさ、オレさ…………旅に出るんだ、エロ仙人と」
「旅…ですか?」
こくりと頷くと、壁を背に凭れているリーの隣に腰を下ろして、
ナルトがパッと笑顔を浮かべる。
「今度は絶対しくじりたくねぇから、もっともっと強くなりに行くんだ」
「………ナルトくん」
「オレが弱いから、みんなにケガさせちまった。
 サスケも連れ戻せなかった。
 そんなのは……もう嫌なんだってばよ、オレ」
「…………。」
「お前だってさ、すげぇ無理したじゃんかよ。
 オレが強かったら、あの骨のヤローにも勝ってた」
どこか必死になって喋るナルトを、リーはぼんやりした感情で眺めていた。
護りたいという気持ちも、取り戻したいという気持ちも、そして当然ながら
強くなりたいという気持ちだって、分かるのに。
「ナルトくん、キミは重大な勘違いをしてます」
「勘違い?」
「ボクの怪我は、ボクの責任です。
 それは他の皆だって同じ、決してナルトくんが気に病むことじゃない」
「……だけど!」
「強くなるための理由に持ってくるような事じゃない、と言っているんです」
「………でも、オレってば知ってんだぞ。
 お前、手術した直後だったんだろ?
 里からあの場所まで結構な距離だった。
 お前、ずっと休まず走ってきたんだろ!?
 そうやって無理ばっかして戦ったから、余計な怪我して……、
 ホントだったらお前は、とっくの昔に退院できてんだぞ!?」
そしてその戦闘で助けられたのは、間違い無く自分だった。
これで気に病むなという方がおかしいだろう。
同じ落ちこぼれという境遇、リーの思いは少しなら理解できる。
本当は、此処でこうして無駄に持て余している時間すら、彼にとっては
邪魔なものでしかない筈だ。
「こんなのは嫌なんだよ………オレが…」
「…ナルトくん…」
必死に訴えてくる少年を見遣って、リーが僅かに目を瞬かせる。
そして次には、零れるような笑みを。

 

 

「優しいですね、ナルトくんは」

 

 

思わず言葉を失って、リーを見たままナルトが口を噤んだ。
そんなこと、言われた事がない。
優しい、なんて。
「ナルトくんの気持ちはすごく嬉しいです。
 だけど、それで目的を見失っちゃダメです。
 本当に目指したいものを、叶えたいことを……忘れちゃダメです」
「……わ、わかってるってばよ…そんなこと」
「キミの目標は、何ですか?」
「火影になること………の…前に、まずはサスケに勝つ!
 アイツに勝って、大蛇丸にも勝って、絶対に連れ戻すんだ」
「じゃあ……ボクが言わなくても、もう分かってますよね?」
「………ああ、」
こくりと大きく頷いて、ナルトが笑みを浮かべた。
何となくリーの言いたいことも理解できている。
気負うことで自分に余計な枷を作ることはないと、そう、言ってくれたのだろう。
やりたいものだけを、目指せばいいと。
「ボクも、此処を出たらまた修行のやり直しです。
 ナルトくんの居ない間に、もっと強くなっておきますから、」
掌を太陽に翳し若干眩しそうに目を細め、リーがその顔をナルトへと向ける。

 

「戻ってきたら、是非ボクと戦って下さい」

 

真っ直ぐ、折れない心を見せ付けられた気がした。
こんなにも強く在れるものなのか、と。
だからそれは同時に、とても惹かれる存在になったということ。
目が、離せなくて。
「………オレさ、オレさ、帰ってきたらお前に会いに行くからよ、」
「はい?」
「だから、どっちが強くなってるか、競争しようぜ!」
「いつでも受けて立ちますよ」
リーがこくりと頷いて答えると、ナルトはエロ仙人が待ってるから、と
言ってその場から立ち上がった。
じゃな、と手を振って去ろうとして、だがやっぱり、と思い留まる。
きょとんと不思議そうな視線で見上げてくるリーへと向かって、
些かばつの悪そうな顔をして、ナルトは。

 

「オレさ、オレ………お前みてぇなヤツ、結構好き、かも……」

 

「……え?」
「じゃ、じゃあな、ゲジマユ!!」
慌てたように走り去ってしまったナルトの居た後の空間を呆然と見遣り、
リーがその言葉を理解したのは更にもう暫く経ってからのこと。
お互いがそれなりの好感度を持って接しているのは分かりきっている。
だから敢えてそんな事、言う必要なんてないのだ。
なのにわざわざそれを言い置いて行ったということは、その言葉には
少し違った意味が含まれている、ということで。
「わぁ……」
困った、と顔を真っ赤にしたリーが膝を抱え蹲り、戻って来ない自分を
捜しに来たガイにえらく心配されたのだが、それはまた別の話。

 

 

実際、ナルトも似たような表情をしていたのだが、そんな事は当然
お互いが知る由も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<オマケの師弟>

 

 

「なぁんじゃナルト、お前、あーゆーのが好みなんかのォ」
「ゲッ、ど…どど、どっから見てたんだってばよッ!?」
「お前の趣味もよくわからんのォ…」
「む…ゲジマユをバカにすんな、エロ仙人!!
 アイツはああ見えてすっげー奴なんだぞ!!」
「…………仮にも惚れとる相手に、そういうアダ名もどうかと思うが…」

 

 

「!!」

 

 

前途多難。

 

 

 

 

<終>

 

 

 

 

 

極めつけですか、ナルリーは。(笑)
いやでも、それなりに見栄えはすると思うんですけど。(見栄えて…/笑)
なんかこう、くっついてもお互いどうしていいか分かんなくて、
無駄にテレテレしあってればいいです。
我リーよりは書きやすい感あるかもしれないと思ったのが率直な感想。

ついでに言うと、ナルト帰郷後の話もちらっと考えていたり。
書けそうなら書いてみようか、な…?