胸がざわつく。
どこか、何か、イヤな予感が晴れてくれない。
手術を終えたばかりで絶対安静を言い渡されていたのだけれど、
やっぱり気になるものは仕方が無いと、誰も見ていないことを良いことに
こっそり病院を抜け出した。
その後は色々あって、助太刀に来てくれた我愛羅の砂に乗り、再び木ノ葉の
里へと戻って来た自分を待っていたのは、あまり見ることのない、本気で
怒っている表情をした、ガイだった。

 

 

<Only one which it should love one.>

 

 

 

 

「ガ……ガイ、先生……!?」
「リー、お前という奴は……」
「す、すみません……」
砂から下ろしてもらい、ガイの前に立って項垂れるリーは、足からも腕からも
血を流していた。
よく見れば満身創痍で、どうやら一戦しかけてきたようだ。
とはいえ事はもう起こりそして終わってしまった、今更それについて怒鳴った
ところでどうしようもない。
「必死なのは分かる、だが……お前のとった行為は、せっかく成功した手術を
 無駄にしかねない行動だったのだという事を、よく覚えておけ」
「………はい」
「そう怒ってやるな」
しゅんと落ち込んでこくりと頷くリーの隣で、助け舟を出したのは我愛羅だ。
それには意外そうにガイが片眉を跳ねさせてリーの隣に立つ少年へと
視線を向ける。
「我愛羅くんか、今回は助かった。ありがとう」
「いや…借りを返しただけだ、気にするな。
 結果的に、コイツがいたから俺が行く時間も稼げたし、
 ナルトもサスケをすぐに追えたんだ。
 だから、許してやってくれ」
「ああ………いや、違うんだ、怒っているわけじゃないんだよ」
「違うのか…?」
「………心配で心配で、仕方無かったんだ。
 リーにもしもの事があったらと……。
 それでなくても、ネジが……」
「……ネジに、何かあったんですか…!?」
「………行くか」
ガイが指したのは、すぐ背後にある病院だった。
覚束無い足取りで歩き出すリーを支えるようにしながら、君はどうするんだと
ガイが我愛羅に尋ねると、彼は先に報告を済ませてくると言って、通りを北へと
歩いていった。
「ガイ先生、ネジは……?」
「さっきちょうど治療が始められたところだ。
 俺も見てきたが……正直、助かるかどうか……」
「そんな…」
急所はギリギリで外してはいるものの、貫通した胸と腹の傷から流れ出した
血液が、確実にネジの命を奪おうとしていた。
声をかけたが既に意識はなく、返事は得ることができなかった。
状況としては身体の内側から殺されようとしているチョウジの方が危険で、
そちらに綱手が回り、ネジの治療にはシズネが当たっている。
とはいえシズネも綱手に認められたエリートだ、信頼はしていた。
静まり返った廊下を歩き、辿り着いたのは集中治療室。
暗い廊下に赤いランプが煌々と照り続けている。
「ネジがここまでやられるとは……やはり敵も相当な手練れだったのだろう」
「…………ネジ」
閉ざされた扉の向こうで、何が行われているかは分からない。
扉に手を当てても、ひやりと冷たい感触しかしなかった。
「先生………助かりますよね?」
「リー…」
「ネジは、絶対に助かりますよね?」
「…………もちろんだ。ネジは生きるさ」
「はい…」
約束したのだ、ネジにもしもの事があった時は、と。
ネジは生きて戻ると約束したのだ。
「さぁリー、お前も手当てをしてもらわんとな。部屋に戻ろう」
ガイの言葉にも、リーは無言で頷くことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 

負けるわけにはいかないと思った。
それは、仲間のため。
死ぬわけにはいかないと思った。

 

それは、大切な人のためだった。

 

 

 

 

 

 

目を開けると真っ白な天井が目に入って、少なからず狼狽した。
此処はどこで、自分はどうなってしまったのか、判断がつかずに戸惑う。
呆然としていると、すぐ傍で声がした。

 

「…………ネジ?」

 

その聞き慣れた声に、ネジは安堵の吐息を零す。
自分が助かったこととか彼の手術が成功したようだとか、そんな感情ではなくて、
ただ純粋に、傍に彼が居ることへの安堵。
近くに居さえすれば、もはや此処が何処だって構わないとさえ。
「リー…」
名を呼んだ自分の声は驚くほど掠れていて、その瞬間に肺がキリリと痛む。
僅かに眉根を寄せてそれに耐えると、ネジは視線を声のした方に向けた。
「ネジ…気がつきましたか…?」
「俺は……?」
「医療班の方に救助されて、戻って来たんですよ。
 此処は木ノ葉病院です。
 もう…3日も眠りっぱなしだったんですよ」
「そうか……」
どうやら命は残っていたらしい。
あの時確かに、駄目かもしれないと一瞬でも感じた筈だった。
記憶が鮮やかに蘇って、ネジがそうか、と声を漏らした。
「刺し違えてでも倒すつもりだった。
 実際……それだけ手強い相手だったんだ」
倒しはしたが自分も相当のダメージを受けていて、その場で地面に崩れ落ちた。
頬に大地の感触を得て、このまま目を閉じれば楽になれそうな、そんな気すらした。
「だけど………思い出したんだ、お前との約束を。
 生きなければと、生きて、どんなに辛くとも這いずってでも戻らねばと、
 そればかり考えていた」
死ぬわけにはいかない、まだ約束が残っている。
笑顔で交わした約束だけは、反故にしてはいけない。
ただその一心で。

 

「まぁ、多分アレが無ければ今頃生きてはいなかったと思う。
 お前のおかげだと言えなくもないな」

 

苦笑を混じえてそう告げると、ネジはゆっくりとその手をリーへと伸ばした。
頬を伝って流れ落ちる、涙を拭ってやるために。
「ありがとう、リー」
普段あんなに天邪鬼なくせに、何故か素直に礼が口をついた。
それにただ無言で激しく首を振るリーが無性に愛しくて、腕を伸ばしてその体躯を
抱き締めたいという気にさせられたが、残念ながら今の自分の状態では、それは
叶えられそうにも無い。
「よか…っ、ネジが、生きて、て………よかったぁ……っ…」
しゃくり上げながら言うリーの言葉に、ネジが柔かな笑みを浮かべた。
ああ、やはり、愛すべき存在なのだ、と。

 

強く、そう想った。

 

 

 

 

 

<終>

 

 

 

 

 

そんなカンジで。
うちのネジは天邪鬼なのであまり素直になることはないのですが、
まぁ、弱ってる時ぐらいは。(笑)
口ではなんだかんだ言っても、ネジはリーのことを宝物のように大事にしてるといい。

 

ちなみにちょっとオマケでガイ先生の方の話を書いてみました。
微妙にカカガイSS<
今はまだ、それだけで。>とリンクしてます。
コレ単品でも読めますが、もし未読の方がいらっしゃれば、お先にドウゾ(^^)

 

<おまけのガイ先生と…>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネジの目が覚めたと言われてすっ飛んで来たのは、担当の上忍であるガイだ。
一連の件から3日、リーのことは勿論だがネジのことだって、彼は心配で心配で
仕方が無かったのだ。

 

 

「心配したぞ!!ネジ!!このバカヤロウが!!!」

「いたいいたいいたい」

 

 

病室に飛び込んでくるなりの熱い抱擁に、ネジが苦しそうにもがきながら
痛みに顔を顰めていた。
半分迷惑そうな表情をしているのは、気のせいなどではないだろう。
その傍で見守っていたリーも嬉しそうな笑みを覗かせていて、もう安心して
良いのだと、ガイを心底安堵させてくれた。
全てが元通りに、なんて事を思っているわけではないが、それでも確かに
狂った歯車が元に戻ったような、そんな気がしたのだ。

 

 

 

 

 

 

来た時は全速力だったが、出る時は落ち着いた足取りで、ガイは病院を後にした。
もう暫くあの2人は入院生活が待っているだろうが、それも直に終わるだろう。
ふと人影に気付いてガイが視線を持ち上げる。

 

「ガーイ、」

 

病院の塀の上にしゃがみ込んで、カカシがパタパタと手を振っている。
自然と口元が綻んで、ガイはカカシに笑いかけた。
「カカシか、またそんな所に…」
「ネジくんの目が覚めたんだって?」
「ああ、」
「良かったねぇ」
ストンと塀から飛び降りると、カカシはガイの正面に立ってそう告げた。
にこりと笑んで見せると、何かを言おうと口を開いたガイが、だが何を
言えば良いのかも分からずまた口を閉じて、視線を足元へ落とす。
「どうした?」
「いや……」
深く吐息を零すと、ガイはカカシの肩に頭を乗せた。
すぐ傍に彼の存在を感じて、酷く安心できる。
「大丈夫だった…」
「………ガイ?」
「お前の言う通りだったな、大丈夫だった。
 もう、心配はいらないのだな…」
「…………ああ、その通りだ」
よしよしとガイの背中を撫でてやりながら、カカシはそう答えると薄く笑みを
浮かべたのだった。

 

 

 

 

もう、何も心配はいらないから。

 

 

 

 

 

<終>

 

 

 

 

 

これにて了。