まだ朝もやが去りきっていない早朝、やけにスッキリした頭で
あてもなく散歩をしていたら、2人の知り合いと出会った。
なんでも、サスケが里を抜けてしまったのだと、
そして彼を連れ戻すために、これから下忍の中から選りすぐりの
面子を揃え、追いかけていくのだと。
それを聞いた時、本当はその役目に自分も混ざりたかった。
だけど、今の自分にはそれはできない。
そうするだけの力も術も、今の自分は失くしてしまっている。
だから咄嗟に口をついて出た名前は、自分が超えたいと願って
やまない相手の名前だった。

 

 

 

<Only one which is important one.>

 

 

 

 

 

 

「事情は分かった、すぐに準備して行く」
「ああ、正門で待ってる。頼んだぜ」
頷く事で了承の意を示したネジに、シカマルがホッと吐息を零しながら
そう言って共にいたナルトを連れ走り去った。
正門には他にもキバとチョウジが待っている。
与えられた時間的にもここらがリミットだろう。
部屋で身支度を整えているネジの傍で、座り込んでいたリーがぽつりと
口を開いた。
「今回の件……なんでも、木ノ葉崩しの一件の首謀者、大蛇丸が関わってるとか」
「……そうか」
「危険ですね」
「ああ、早く連れ戻さないとな」
「そうじゃなくて……ネジ達が、ですよ」
あれらがどれだけ強大なものかは、木ノ葉に属する忍ならば誰でも知っている。
もちろんサスケが大蛇丸の元へ行くのに、誰もついていない筈が無い。
直々のラブコールなのだ、それこそ確実に自分の元まで辿り着いてくれるよう、
何重にも罠が張り巡らせてあって然り、だ。
「冷静に考えれば、サスケくんはあっちから誘われている以上、
 自発的に向かうのなら危害を加えられる可能性は低いと思います。
 むしろ…それを止めようとするキミ達の方が、より危険です」
「それを承知で行くのだろう?あいつらも……」
「ネジも、でしょう?」
「…………。」
素直に肯定できないのか、リーの言葉にネジは返事をしなかった。
忍具をチェックして、ポーチを腰から下げる。
行くぞ、というネジの言葉に頷くと、リーは松葉杖を手に立ち上がった。
リーに合わせるように歩きながら、ネジが少し考えるようにして空を仰ぎ見る。
「……最善は尽くすつもりだが、」
「はい?」
「もしもの事は考えておいた方がいいな」
「どういう意味ですか?」
「どうもこうもない、単純に死ぬかもしれないという可能性の話だ」
「………そうですね」
また怒ったような表情で不吉な事言わないで下さい!と詰め寄られるかと
思ったのだが、予想外にもリーはネジの言葉に頷いて返してきた。
確かにこれはとても危険な任務、だからこそリーはネジを推した。
彼ならば、彼ほどの実力者ならば、多少の危険など跳ね返せると思ったからだ。
けれど事が事なだけに、今回ばかりは無傷で済むとはとても思えない。
だがリーには奇妙な確信があった。
手術はきっと成功すると言ってくれた、上司の笑顔が蘇って。
「……僕も、手術を受けるんですよ。
 この身体を元に戻す為に、……綱手さまには、命の保証はできないと
 言われちゃいましたが」
あはは、と苦笑を浮かべて言うリーに、初耳だとネジの表情が驚きに変わった。
「そんな話は初めて聞いたぞ」
「はい、今初めて誰かに言いましたから…とはいえ、言われたの自体が
 昨日の話なんですけど」
「確率は?」
「五分五分です」
「な…ッ!?」
それには流石に足が止まって、ネジが眉間に皺を寄せたままでリーを窺い見る。
忍に復帰したいと、必ず戻って来るからと、諦めてはいないのだと、確かに
彼はそう言っていたが、まさかそんな危険な賭けに出るなんて。
「手術はいつだ?」
「…今日です。すぐにでもとお願いしました」
「お前は……」
はぁ、と大仰に溜息を零して、ネジが額に手を当てた。
どこまでも向こう見ずな性格には慣れていたつもりだったのだけれど。
「綱手さまでもこの手術は難しいと仰っていました。
 だから……僕も、もしもの事があるかもしれません……だけど、」
「だけど?」
「ガイ先生が約束してくれました。
 手術は成功する、僕は忍に復帰できる。
 もしもの事があれば……共に、死んでやると」
「…………。」
「だから、僕はネジと約束したいと思います」
「…何をだ」
「ネジは無事に帰ってきます。絶対に死んだりなんてしません。
 もしもの事があれば……僕も、一緒に死にます」
その言葉をネジが理解するのに暫くの時間を要した。
何を言ったのだ、リーは。
それは、つまり彼自身の手術が成功したとしても。
「…馬鹿か?」
「酷いなぁ」
「お前は……それで良いのか」
「? 何がですか?」
「例え手術が成功して忍に復帰できるようになったとしても、
 俺が死んでしまえば終わりなんだろう?」
「そういうことになりますね」
緊張感のない笑顔で返すリーに、心底の呆れを顕にしてネジがまた溜息をつく。
彼の忍道は、一人前の忍になることだった筈だ。
そしてそれは誰にも負けない、譲れない夢で、むしろそれを叶えるために
今まであれこれ手を尽くして自身を鍛えてきたのだろうに。
そんな簡単にフイにして良いものなのか。
それとも、これは単なる励ましの口約束に過ぎないのか。
「考えられんな」
「………僕の忍道は、確かに一人前の忍者になることです。
 ですが……よくよく考えてみると、そこには必ずネジの姿があるんですよ」
「…俺の?」
よく分からないと首を傾げるネジに、歩きましょう、とネジの背を押しながら
リーが続けた。
「僕の忍道は体術だけでも一人前の忍になれるんだということを証明することです。
 その為に……今まで努力して鍛えて、頑張ってきたつもりです。
 だけど一言で努力すると言ってもやっぱり目標は必要になります。
 先が見えなければ…なかなか頑張ることなんてできませんから。
 僕の目標は…………ネジなんですよ」
「リー……」
「いつだって、キミを見て、キミに挑んで、キミを目標にしていました」
だから勝手にいなくなるなんて許されない。
既に彼を基盤にして、自分の忍道が立てられてしまっているのだから。

 

 

 

「もうね、ネジがいないと僕の忍道は成り立たなくなっちゃったんです。」

 

 

 

今まで忍道を貫くためだけに全てを懸けて生きてきた。
だからその術を失くしてしまったら、生きている意味なんてないのだ。
「僕の手術は必ず成功すると、ガイ先生が約束してくれました。
 だからネジは必ず帰ってきます、これは僕が約束します。
 僕の言葉じゃ、頼りないかもしれませんけど……」
「……そんなことはない」
ゆるりと首を横に振ると、ネジは強くリーを抱き締めた。
なんてことだ、こんなタイミングで自覚してしまうなんて。
「ならば俺も約束しよう」
「なんですか?」
「万が一にでもお前の手術が失敗して死ぬような事にでもなれば、」
「……なれば…?」
「俺も、一緒に逝ってやる」
「それは責任重大ですね」
ありがとうございます、と声が聞こえて、自分の背中に回される腕の感触。
カラン、と松葉杖が支えるものを無くして倒れる音が響いた。

 

 

 

 

 

<終>

 

 

 

 

 

素直にネジリーが書けた気分。(爽笑)
ネジくん自覚。リーはまた後で。
なのでこのハグはリーくん的には友情です。(わー)
だけどリーは自覚なく殺し文句を吐いてればいい。
どうでもいいから早く正門へ行けお前たち!!

 

なんだ、カカシとガイよりもあっさりと纏まりそうな雰囲気だなぁ。
仕方ないかな、この2人オフィシャルくさいし。(をい!)