感傷に浸るという行為は、あまり好きでは無かった。
そうしたところで何も生まれないことを知っているからだ。
負の感情を育む趣味は持ち合わせていないから、今だって、
こんな所で立ち尽くしている必要性など全く感じていない。
だが、頭ではそう考えていても、気持ちが足をこの場所へ向かわせた。

 

自分と、あの子供達のはじまりの場所へ。

 

 

 

 

< Let's exert positively! >

 

 

 

 

「結局、こうなっちまうわけ、か……」
忍犬に連れられてナルトの元へと辿り着いた時には、既にその場から
もう一人の姿は消え失せていた。
たった一つ、額当てのみを残して。
まるで、思い出をそこに全て置いて行くかのように。
ナルトを背負って里へ戻る途中、思い出していたのは過去の事ばかりだった。
ナルトとサスケとサクラの、強くなっていく絆を見守っていくのは
いつかの自分を否応にも思い出させて、多少の痛みを伴いはしたが、
それでも心地よいものだったのだ。
何処でナルトとサスケの間に決定的な亀裂が入ってしまったのか、それは
自分にも分からない、けれどサスケはともかく少なくともナルトの方は必死だった。
それこそ死ぬ気で、何処か自分達の手の届かない所へ行こうとしている
サスケを止めようと、命懸けで。
「それが分からない奴じゃあ、無かった筈なんだけどな…」
伝わっていない筈が無かった。きっとサスケだって分かっていた。
けれど新たに生まれた友情と本来持っていた目的との間に、いつしか大きな
溝が出来てしまったのだろう。
両方を取るわけにはいかない、片方しか選べない。
その究極の選択の中で、サスケが選んだのはより思いの強い復讐の方だった。

 

「………馬鹿だな」

「お前がか?」

 

ぽつりと呟いた言葉に思いもがけず返事があって、驚いたカカシが
背後を振り返る。
いつの間に来ていたのやら、見知った顔がひとつ。
「ガイ……」
「綱手様がお前を呼んでいてな、捜しに来た」
「あ、そ。ありがとね」
「此処で何をしていたんだ」
「んー………回想?」
「お前の言う事は、時々まるっきり意味がわからんな」
呆れた吐息と共にガイが歩んでカカシの隣に立った。
視線を追うように前方を見ると、広がる草原に2本の丸太が伸びている。
「ここでさ、よく修行したんだよ。
 ナルトとサスケとサクラの、3人と」
「………。」
サスケの話はガイの耳にも入っていた。
まさか里を抜けてしまうとは思わなくて驚いたものだ。
特に直属の上司となっていた分、カカシにとっては辛いものがあっただろう。
想像は容易い、何故なら自分にも大切な部下が居るからだ。
「…どうするんだ?」
「別にどうもしないさ。なるようにしかもう、動かないからな。
 それに……俺が何かしなくても、アイツらが動き出すだろ」
「ナルトくんとサクラくんか?」
「ご名答」
まだ諦めていない2人は、いつか必ず彼を取り返そうと決めた。
ただそうするには今のままでは力が足りない事を知ってしまったから。
だから必要なのは、今しばらくの時間。

「強くなったよ、2人とも。
 だから俺はなーんにも心配してないのさ。
 俺はただ、ここで昔をちょっとばかり振り返っていただけってわけ」

嘘だな、という言葉を喉の奥で呑み込んで、ガイは黙って視線を向けるだけだ。
本当は心配で心配で仕方が無いくせに、すぐにこの男はそれを隠そうとする。
別にそれが悪いと言いたいわけではないのだが、そうやって隠されてしまうと
励ましも何も送れたものでは無い。
本人が、大丈夫だと言っているのだから。
少し考えた末にガイが発した言葉は、何気ないものだった。
「……ここで、どんな修行をしたんだ?」
「これさ」
カカシがポケットから取り出したのは2つの鈴。
チリン、と涼やかな音の出したそれはカカシの指にぶら下げられて揺れていた。
「鈴…?」
「そ、こいつを俺から奪ってみろって、ね。
 ガイも挑戦してみるか?」
ヒュ、と目の前で風が通り過ぎたような気がした。
そしてその風が孕んでいたのは明らかな攻撃性で、思わずカカシは大きく
後ろに飛びのいていた。
「ちょ、いきなり何だ、ガイ!!」
「お前が挑戦するかと言ったんだろ」
ニヤ、と笑みを浮かべるガイの手には、鈴のひとつが握られている。
慌てて自分の手を見遣れば、確かに2つあった筈のそれが1つ消えていた。
「まだスタートも何も言ってなかっただろうが!!
 反則だ!!今のナシ!!」
「……そんなにムキにならんでも…」
先手を打たれたのがなんだか妙に悔しくてそう怒鳴れば、困ったような顔で
ガイが頭を掻く。
「じゃあ、もうひとつのソレで勝負だな?」
「さすがに俺もお前相手にこのままじゃキツいからな、
 本気出させてもらうよ」
手にひとつ残った鈴を腰に結わえると、カカシが額当てで覆っていた右目を
顕にして、笑った。

 

「じゃ、スタートね」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 

「取ったああああ!!!」
奪い取った鈴を高々と掲げて宣言したのはガイ。
なんてことだ、ただの勝負とはいえ本気を出して、そして負けてしまうなんて。
「あーくそ、お前に負けるとは思わなかったよ」
「フッ、体術で俺に勝てるとでも思ったのか?」
「……なんかソレすっごいムカつくんだけど」
ぜえぜえと肩で息をしながらムスっとした表情で答えるカカシの
目の前に2つの鈴を突き出しながら、ガイがニッと笑顔を見せた。
「時間は常に流れてるもんだ。
 だから少しずつ色んなものが変わっていく」
「ガイ…?」
「だから子供だと思っていた子の思いも寄らない成長を知ったりするし、
 落ちこぼれと思っていた奴が優等生を負かす程の力を手に入れるし、
 俺が、お前に勝てたりもするんだ」
「最後のは余計だ」
「何を言う、ここは重要なポイントだろう!
 …だが、一番大切なのはな、」
座り込んでいたカカシの腕を取って立たせると、その手に2つの鈴を
戻してやりながら、

 

「勝とうが負けようが、たとえ俺達が敵同士になろうが、そんなことは関係ない。
 やっぱり、お前はいつだって、どんな時でも俺のライバルなんだという事だ」

 

呆気に取られた様子で見てくるカカシに笑いかけて、その肩を軽く叩いてやる。
「変わらないものだって、あるんだぞ」
「………ははは、」
親指をグッと立てながら言うガイに、何を言ったものかと思いあぐねながら
カカシはただ笑いだけを零していた。
的外れな発言のような気もしたが、何かがど真ん中に的中している。
だがそれをどう言えば良いのかが分からなくて、取れた行動はといえば、
彼の肩に額を預ける事だけだった。
「ん?どうしたカカシ?」
「いや、ちょっと……」
「?」
顔を見なくても困惑しているだろう表情は簡単に想像がつく。
思わずくつくつと笑みを零しながら、腕をその背に軽く回す。
手の中でチリン、と鈴が鳴った。
それと同時に、ほんの微かに、胸も鳴った。
「ありがとガイくん、ちょっとだけ元気が出た」
「……そりゃ何よりだ」
聞こえた声が安堵の響きを持っていて、それがまた少し嬉しい。
気が済んだかガイから離れたカカシが、そういえば、と首とこくりと傾けた。
「で、なんでガイがここに居るんだっけ?」
「え?え、何だったか………………ああ、そうだ、
 綱手様がお前を呼ん…で……」
言いかけて、ガイの顔色がサッと青褪める。
そういえばこんな所でのんびり談笑をしている場合では無かった。
しかもあの五代目、恐らく気の短さでは歴代一位。

 

 

「今………何時………?」

 

 

顔を見合わせてカカシとガイが表情を引き攣らせると、大慌てでその場から走り去った。
どうやら今日は2人仲良く五代目のお説教を食らうしかなさそうだ。

 

 

 

 

 

<終>

 

 

 

 

 

なんか、ビックリするぐらい綺麗にオチがついた。(笑)

なんだか、ガイと一緒に居る時のカカシは書けば書くほど甘えが前面に出る。(汗)
こんな展開も初めてで、ちょっと自分がビビってみたり。
カカシがガイを支えるような話もちょっとは書きたいの、だが、はて。
こいつら、カプとして成立し得るんだろうか……!?(そんな今更!!)
と、私の中でのガイのポジションに一抹の不安を感じてみる。

ま!今しばらくは友情パターンでいってみようかな。
カカシ→ガイフラグは簡単に立てられるんだけどなー。ガイ→カカシがなー。
あくまでライバルもしくは良い友達としか見れてないっていうかなー……あう。(汗)

こんな微妙で中途半端な関係しか書けないチキンなのさ、私は。(遠い目)