これは何かの間違いだ。
まさかアイツが、こんなトコロで。

 

「ちくしょう…………アイツは、俺の獲物だ…!!」

 

自分以外の誰かに、殺されようとしているなんて。

 

 

 

 

<第5の話>

 

 

 

 

 

 

砂を自在に操る表情の無い少年、そんな相手を前にリーは
苦戦を強いられていた。
体術のみで対抗しようというのだから仕様の無い話ではあるのだが、
それがまた、ナルトの目には奇妙に映る。
あの夜に拳を交えた、あの時彼は忍術を使っていた筈なのに。
「なんでだよ………なんで、こんな……。
 術さえ使えばあんなの一気にカタがつくだろーが。
 できねーわけじゃ、ねぇんだろ…ッ!?」
ナルトの呟きに、傍に居たカカシが僅かに眉根を寄せた。
「……ちょい待ち、ナルト」
「あ?何だよ先生」
「お前、どうしてあの子が術を使えるって……」
「アイツ、5番目だろ」
「…………何故、それを……」
「俺、キバほどじゃねーけど、匂いである程度分かんだよ。
 前に会ったアイツと………同じ匂いがした」
もしかして今、表に出ているのは零の方なのだろうか。
だが先程のナルトとキバの戦いの時は、弐號だった筈なのだが。
昼間に出て来る事など滅多に無かったので、すっかり油断していた。
「その事……絶対に誰にも言うなよ」
「分かってるってばよ。
 それより……誰だよ、あの相手……」
「砂の忍のようだな。
 想像以上の使い手だ……確かにアレじゃ、術ナシじゃキツイ。
 まぁ、殺される前に止めるさ、ガイがね」
ちらりと視線を横にやれば、いつになく真剣な眼差しで試合を見守る
ガイの姿があった。
彼もきっと、あの砂の忍はヤバイと気付いているのだろう。
「とにかく……ナルト、お前は絶対にでしゃばるな。
 無理そうなら……弐號に代われ」
「…………。」
カカシの言葉にナルトは無言で首を横に振った。
最後まで見ていたいと思ったのだ。

 

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「馬鹿だな」
「馬鹿よね」
「ちょ、怪我人に対して言うことはそれだけですか…!?」
日向の2人が揃って口を開く。
思わず眉を顰めてリーが言うのに、しれっとした表情のままで2人は続けた。
「リタイアすれば良かったんだ」
「そうよ、そうすれば怪我なんかしなかったのに。
 伍號の馬鹿」
「どうして止めなかった?」
しんと静まり返った病室に、ネジの静かな声が響く。
少し考えるようにしながらリーは目を閉じて深く吐息を零した。
ネジの言う通り、自分はリタイアをしなかった。
だから今の自分は重傷を負っていて、病院のベッドに寝かされている。
「お前だって勝てないって分かっていたんだろう?
 そんなになる前に止めれば良かった。
 力の差は皆にも伝わっていた筈だ、責められやしなかっただろうに」
「………なんとなく、です」
ぽつりと零してリーは窓の外へと視線を送る。
なんとなく、止めてはいけないような気がしていた。
なんとなく、あの砂の忍は彼に似ているような気がした。
その強さも、孤独も、冷たい目も、何もかも。
「なんとなくで大怪我してたんじゃ、どうしようもないじゃない。
 やっぱり馬鹿よ、伍號は」
「姫、さっきから馬鹿馬鹿言わないで下さい。
 ちょっとぐらい傷つくんですよ、これでも」
「それだけ傷だらけになってるんだから、もうちょっとぐらい大丈夫よ」
「うわー……キツいこと言いますねー……」
「キツいのはこっちよ、これから当分の間従者と2人ぽっちなんだから。
 さっさと治して戻ってきてよね」
つっけんどんに言って、ヒナタはもう帰るから、と言い残すとその場から
消えていった。
病室のドアから出ても良かったのだが、表では何の接点もない彼女が
リーの病室から出て来るのは少々不自然だ。
やれやれ、と顔を見合わせたネジとリーが同時に吐息を零す。
「……一応アレでも、お前のことを心配してるんだ。
 許してやれ」
「分かってますよ。ホント、正直じゃないなぁ…」
「俺もそろそろ帰るとするか。
 じゃあな、養生しろ」
「ありがとうございます、ネジ」
ゆっくりと座っていた椅子から立ち上がると、ネジはぽんぽんと軽く
リーの被っていた布団を叩いて、病室のドアから出て行った。

 

 

浅はかだったと、自身でも理解はしている。
止めておけば良かったのだ、忍術も幻術もナシで勝てるような相手で
ないことは、割と早い段階で分かっていたのに。
どうしてだろうか、最後までやりたいと、出来得る事なら勝ちたいと、
そんな風に思ってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

夜半過ぎ、ふと気配を感じて伍號は目を開いた。
しんと静まり返った病室の中、2人部屋ではあるが、今この病室に
寝かされているのは自分1人の筈だ。
枕元に感じるのはひとつの気配。
視線だけでその方を確認すれば、立っているのは狐の面を被った
黒装束の忍だった。

 

「…………零ですか?」

 

小さな声で問えば、黒装束の相手がゆっくりと手を持ち上げて
被っていた面を外した。
そこに現れた顔は、想像通りの人物。
「人前で気安く面を外すなって、ガイ先生に怒られてませんでしたか?」
「そんな昔のコトは忘れたな」
クスクスと笑いながら言う伍號に、零號がとぼけた表情で答える。
その赤い目が、ちら、と伍號の方を向いた。
「今日は、どんな御用なんですか?」
訊ねてくる寝たきりの少年を見てから、零號は己の右手を持ち上げる。
何しに、なんて問われても、自分が伍號に対する用事なんてひとつしかない。

 

 

「おめェを今、此処で殺してやろうかと思ってよ」

 

 

その右手を真っ直ぐに伍號の首へと伸ばし、掴む。
伍號の大きな目は、何の恐怖も抱かないままでただ、零號を見つめていた。

 

 

 

 

 

<続>

 

 

 

 

 

ああもうホント、この話はドコへ向かっていくのだろう…。

さっぱり分からないままリーだけピンチ。(笑)