「なぁ、壱號さ、
 最近俺ってば思うんだけど、」
「あン?」
上官であるガイが来るまでの待ち時間。
ソファに寝そべって暇を持て余している壱號へ、外した仮面を手でくるくると
回しながら、弐號がぽつりと呟くように言った。

 

「最近さ、記憶の無い時間が増えたような気がすんだけど」

 

 

 

 

<Noncommittal.>

 

 

 

 

 

 

弐號と、内に眠る零號とは別人格であるというのは、仲間の中でも知られた
今となっては常識のような話だ。
だが、そのどちらもが記憶を共有していれば良いのだが、彼らの場合は
そうなってはおらず、互いが活動している間に起こった出来事を、相手側が
知ることはまずない。
フォローできる事があるとするならば、入れ替わった時に共にいる仲間が
現状を説明してやる、といったことぐらいだろうか。
それでも零號は自由気侭に動く質があるので、現在の状況がどうであろうが
大した問題にはならない。
ならないというよりは、していない、と言った方が正しいのかもしれないが。
そして今まで何とかなっていた一番の大きな理由は、零號の活動時間が
極端に短く、そして稀だったからだ。
主に動いていたのが弐號であったから問題が無かったのだけれど、最近は
そうでもなかったな、と壱號は最近の出来事を順繰りに思い出しながら
気のせいじゃねぇの?と言ってみた。
実際のところは気のせいなどではなく、本当にその通りなのだが。
「………最近、頻繁に零が表に出てるような気がしてさ……、
 な、壱號、別にアイツなんもやっちゃいねぇよな?」
「そうだなぁ……お前がガイ先生に怒られてないなら、
 とりあえずは大丈夫なんじゃねぇ?」
「そっか……それならイイんだけどさ、」
その基準もどうかとは思うのだが、とりあえず弐號はホッとしたようだった。
でも、と寝そべったままの壱號は考える。
その内、活動時間が逆転するのは時間の問題なのではないかと。
言ってやった方がいいのだろうか、零號が惚れ込んでいる相手のことを。
あの、ロック・リーという少年のことを。
零號は行動が極端な部分がある。
つまりは、目的のために手段を選ばないということだ。
最悪のパターンとして、零號があの少年とずっと一緒に居たいがために、
弐號の人格を内に押し込める…もしくは、消してしまうという、可能性だって。
自分の考えの到達した結論に、壱號の背にぞくりと冷たいものが走った。
暫く観察していて知ったのだが、どうやら零は自分の好きな時に現れたり
消えたりを繰り返しているようだ。
零の気まぐれで出て来ると言えばいいか、その証拠にガイに怒られたりとか、
やりたくもない任務を目の前に突きつけられたりした時などは、まず100%
弐號へ主導権を譲り、自分は奥底へ隠れてしまう。
そうだ、そう考えれば辻褄は合わなくは無い。
つまり……【うずまきナルト】の主導権は、常に零が握っているということ。

 

(……いっそ、弐號もあのヤローに惚れちまえば、)

 

もしかして、零と弐で取り合いになるとかそんな事になるのだろうか。
例えば、弐號もあのリーとかいう少年を好きになったとして、
例えば、弐號にヤキモチを焼いた零號が、弐號を封じ込めてしまったりとか。
その可能性は否定できない。
弐號の人格が無くなってしまったら、零號しか表に出なくなってしまったら、
恐らくナルトとしての生き方は非常に困難なものになってしまうだろう。
とにかく零の考え方は、一般人とかけ離れすぎている。
何かあるとすぐに殺るか殺らないか、の二択で決めてしまうのだから。

 

(可能性がないワケじゃねぇな………ダメだ、却下。)

 

 

 

 

 

 

「なぁオイ、壱號ってばよ!!
 さっきから無視してんじゃねーってばよ!!」
「おわッ!?」
耳元でいきなりがなりたてられ、思わず壱號はソファから転がり落ちた。
床に仰向けに転がったままで目を瞬かせれば、呆れた表情で立っている弐號と
目が合う。
「ったく……考え事始めると周りが見えなくなるクセ、いい加減に直せってばよ」
「おお………悪ィ悪ィ」
思わずそう謝ってしまって、はて、と壱號は考えた。
考え事は全て弐號と零號に関してのことだ、思考を割いてやってるのに怒られるとは
一体どういうことか。
「でさ、でさ!!
 俺と同じ班にサクラちゃんってのがいるじゃん?
 あの子、可愛いよなぁ〜」

 

(…………ダメだこりゃ。)

 

零號とは永遠に分かり合える日など来るまい。
頬を赤らめてそう言ってくる弐號を見遣りながら、壱號は重苦しい吐息を
零すのだった。

 

 

 

 

<終>

 

 

 

 

2と0は別人なので、好きな人も違うってワケです。
これは困りものだ。

本編がここまで進んでないのでややフライング気味ですが、
まぁ内容的に意味が分からないということはないと思って。(苦笑)
0がどのタイミングで5への見方を変えるのかは本編の話にて。