「こりゃダメだね」
「下手くそ」
「却下です」
「…………えー…」
男3人に一斉に否定され、六號は頬を膨らませて俯いた。
理不尽。あまりにも理不尽だ。
「……どうしていちいち偽る必要があるのよ」
「だーから、何度も言ってるでしょ?
お前達は万が一にもバレるような事があっちゃマズイの。
特に日向ヒナタはバレやすい、その為だよ」
「でも、それなら従者や伍號だって……」
「俺はまず絶対にボロを出す事がない」
「僕はむしろ術の使用を極端に制限されてますから……」
術も使えない落ちこぼれが、実はこんな所に所属しているなんて
普通に考えたらまず有り得ないだろう。
両腕を組んでふんぞり返ってのたまう四號と、苦笑を浮かべて
そう言う伍號とを、六號は恨めしげに睨み付けるのだった。
<The pain story of the children.>
ボロを出すと言っても、自分から養成軍に入ってるんだなんて言いふらす
馬鹿は此処にはいない。
ただ、普段の生活を行う上で、言葉の節々や行動などに常に気を配って
いなくてはならない。
たとえば伍號。
ロック・リーとして生きる日々では、術の使用が禁止されている。
そうする事で、忍としてはまだ不充分な未熟者というレッテルが
貼られるのだ。
普通ならば、そんな人間がこんな世界で日々他人の生を奪いながら
生きているなどとは誰も考えやしないだろう。
「…そういえば、伍號って術使わないけど……、
ホントに体術だけでやっていけてるの?」
「うー…それを言われると、正直ちょっと辛いんですけど。
まぁ、別に体術は好きだから構いません」
「よくボコボコにされてるけどな、主に俺にだが」
「余計なこと言わないで下さい」
傍から入った横槍に、伍號は軽く肘で四號の胸を突きながら言い返した。
そして痛そうに擦りながら憮然とした顔を浮かべている四號、日向ネジは
最初から完璧に自分を作り上げている。
精錬潔白な姿を貫き通すことで、自分を偽らずとも周りが自分を
信用してくれるのだ。
それでも、常に一緒に居る伍號は思う。
やはり普段の姿と此処に居るときの彼は、少し違って見える、と。
日向の名は彼にとって枷でしかなく、此処に居る彼の方がより
素顔や本心を晒してくれているような、そんな気がする。
伍號に言わせれば、単に『一言多い』だけなのだけれど。
「そういえば伍號は、此処でもどっちかっていうと体術の方が多いな?」
「………僕は、そっちの方が好きなんです」
カカシの問いに頷いて返すと、伍號は握りこんだ己の拳に目を向けた。
「相手と離れたところから印を結んでチャクラを練って、ってするよりも、
たとえば自分の手で相手の首を折ったりする方が、より自分の行いを
リアルに感じる事ができるから……かな」
「忍術は嫌いか?」
「違いますよ、単なる方法の問題です。
術の方が確実な時もあれば、都合の良い時もある。
そういう時は使いますけどね」
「実感が欲しいのね、伍號は」
「……そうかもしれません」
実際に手を触れて、己の手足で相手の生命を奪っているという事実を
確かめ続けていかないと、いつか無意識の内に誤魔化してしまうだろう。
誰かの人生を終わらせているのだという、罪悪感もろとも。
「めんどくさいよね、伍號は」
「いや、めんどくさいの一言で終わらせられちゃうと、僕としても立つ瀬が
無いんですけどね?」
「根が真面目なんだろう。
確かにめんどくさいと俺も思うが……まぁ、お前らしいんじゃないか?」
「うん、そうだね」
四號と六號がそう言葉を交わして頷くのを、伍號は困ったような表情で
見つめるしかなかった。
日向の血を引く彼らは、幼い頃からその使い方を叩き込まれてきていた。
見たいものだけ見て、見たくないものは見ないフリをする、そんなことは
彼らにとっては朝飯前だ。
それが良いことか悪いことなのかは、恐らく誰にも判断できないだろう。
ただ、そうする事で守られてきたものがあることは確かだ。
それゆえに、時に2人は伍號を羨ましく思うことがある。
何処に居ても何があっても、真っ直ぐに受け止めることのできる目が。
「伍號が羨ましいなぁ」
「え、どうしてです?」
「………私も剛拳が使えたら良かったなぁって」
「いや姫、それは少し違うと思うぞ俺は」
どういう事を言いたかったのか、本当の意味で理解したのは四號だけのようで、
伍號と聞いていたカカシは驚きの視線をその少女に向けていたのだった。
「はいまぁ、おしゃべりはそのぐらいにして、とりあえず続きをやろうか。
六號もこれからアカデミーに入ってやってくんだから、自分を作れないと
すぐにボロが出ちゃうからさ」
「それじゃあ、もう一度自己紹介からな」
「ガンバですよ、姫!!」
言われて六號は一瞬表情を歪ませたけれど、気を取り直して今一度言われた事を
思い返していた。
クラスメイトへの自己紹介が例題だ。
自分は、大人しく慎ましやかで控えめな子供にならなくてはいけない。
考えている内に、少しずつ頭は俯き加減に下がっていってしまい、そして。
「は………はじめ、まして………日向ヒナタ…………です……。
え、えっと………その、…こ、これから……よろしく………」
これでは控えめすぎて、むしろ引っ込み思案な女の子だ。
「うーん……イマイチ?」
「イマイチどころじゃない。
演技の才能は皆無だな」
首を捻って唸るカカシの横で、四號が淡々とそう吐き捨て。
「もういっそ、こういう性格の子にしちゃえばどうでしょうか」
「ああ、その方が無難かな」
「ならばこの喋り方が癖になるぐらい定着させないと」
「修行ですよ、姫!!」
「もうやだ……帰りたいよぅ……」
伍號の名案に、慎ましやかで控えめな子供から、引っ込み思案で
人と上手く喋れない子供へと、目指す方向は変わったのだった。
その後、半泣きの六號を厳しく特訓する事数時間。
努力が実を結び、引っ込み思案な少女を貫き通した六號は、
更に本番に弱いというレッテルまで貼られてしまったのだが、
それはまた別の話。
<終>
ダークになりきれなくてすいませんすいません。
時期的にはナルト達がアカデミーに入る直前、ぐらいかな??
コレ書きながら、ネジとリーはカプでなくコンビとしても
充分愛でられることに気付きました。(笑)